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【短歌解説】第32回岐阜県文芸祭一般の部短歌部門 秀作賞受賞

 こんばんは。夜船静河です。

 第32回岐阜県文芸祭 一般の部 短歌部門において、秀作賞をいただきました。とてもうれしい。
 ということで。自分の作品に対する個人的な解説をつけてゆきます。


受賞作(秀作賞)

母の日のプレゼント考えている 寿司をソースで食べる兄貴と

 こちらです。どうでしょう。ここからは個人の見解です。

 寿司は醤油で食べるという人が多いだろう。「寿司をソースで食べる兄貴」とみ手(弟/妹)は根本的に考え方が合わないんじゃないかと思う。この場合の寿司はステーキ寿司ではない。

 「食べる」を、「寿司をソースで食べる(ような人である)兄貴」と捉えるか「寿司をソースで食べ(てい)る兄貴」と捉えるか。前者であれば、寿司をソースで食べるような、自分(詠み手)との間にズレのある兄と、母の日のプレゼントを考えていることになる。後者であれば、母の日のプレゼントを考えながら兄は寿司を食べていて、その寿司にソースをかけているのを見た詠み手は、兄とのズレ(うすうす感じてはいた)を実感する、ということになる。どちらでもいいが、個人的には後者の方が好きです。

 兄貴がおかしなやつだという話がしたいわけではなく。
 兄弟だから考え方も同じなんてことはなくて、上手くいかないこともあると思うんだけど、それでも二人でお母さんのために何かしようとしてるのがいいよねっていう歌です。

落選作


失恋しても雪道は寒いらしい ポニーテールをほどいて笑え

 これね。どこの地域でもそうなのかはわからないけど、冬場寒いときに、いつも髪を後ろでまとめている女の子たちが、寒いからって髪を下ろすんですね。髪を下ろすと首まわりに髪がくるから、おそらくマフラーとかネックウォーマーとかみたいになって寒さがいくらか緩和されるんだと思う。
 ポニーテールのこの子(女の子と明記されてはいないが、女の子を想定しています)は、きっと毎朝時間をかけてポニーテールをつくっていたのでしょう。ただまとめただけに見える髪型でも、綺麗にやろうと思うとけっこう時間がかかるんですよね。でもそれは好きなあの子がいたからで。
 失恋しても、雪道はちゃんと寒い。ポニーテールはもうどうでもいい。かんで首すじがスースーしてるってのにわざわざポニーテールでいる必要ないじゃん、だってもう失恋したんだから、とヘアゴムを掴んでほどく。あはは、と悲しみと諦めの混じった無理やりの笑みを浮かべる。
 「寒いらしい」について、失恋しても雪道は寒い、ということはあたりまえかもしれないけど、それまでは失恋してなかったから知らなかったことだ、と、失恋を噛み締めているのではと思います。
 「ほどいて」は漢字表記にすると「いて」という読み方も出来てしまう。ふりがな(ルビ)を振ればいいのかもしれないけど、読み手が最初に見た瞬間に一瞬でも「いて」と読まれるのはいやだ。というこだわり。なにも書いていない白い紙と、鉛筆の線が引かれてしまった後に消しゴムで白くした紙はちがう。というこだわり。

あの人の匂いもしたしあの人の声も聞こえた気がした宵居

 これはね。対句でしょうか。
 あの人、はどんなあの人でもいいけれど、会いたいあの人。ライトに(軽く)考えてほしいなあと思っています。例えば、別の部屋の家族の話し声が聞こえる。なんて言ってるかはわからないけど遠方に住むおじいちゃんと電話しているような気がして、その部屋に行ってのぞいてみると、おじいちゃんどころか電話すらしていない。とか。ひとからもらった衣類を手にとったときに、自分では使わない柔軟剤の匂いがして、服をくれたひとのことを思い出す。とか。

 そこにいないひとの存在を感じるとき。匂いも声も思い出せる。そうすると少し会った気分になれる。

 そういった歌だと思うのですが。実は雰囲気重視で言葉を選定したところもあり。こういう心境に合うのはよいだな、宵より宵居のほうが“居”があることで“存在”というこの歌の主題に合うな、あと字数もちょうどいい、という思考回路でつくりましたもので。一点。上手くいってないと感じる点が。

 「聞こえた」「気がした」、もたついてる。気がする。そこは似た語形を繰り返さないほうがよかったかも。繰り返しって上手くいくとリズム感が生まれて大成功なんですが、上手くいかないとそこで要らない停滞が生まれてしまうみたいです。なるほど。俳句の「動詞はたくさん使わないほうがいい」っていう定説ってこういうことなのかなあ。俳句をやっていた時期があるのですが(いまもときどき)、最後まで咀嚼しきれなかったのがその「動詞はたくさん使わないほうがいい」でした。こういうことなのかな? 時間をかけて咀嚼してゆきたいと思います。


 以上です。短歌の感想等コメント欄にてぜひお聞かせください。
 記事のいちばん上の写真のわたしの名前なのですが、『夜船静』になっているのはプリントミスではないです。岐阜県文芸祭への提出の際に『河』の無い状態で提出したので…作品集等においても『夜船静』となっていると思います。読みは同じです。作品集をお持ちの方はさがしてみてください。(実はわたしはまだ見れてないんです…)

 閲覧いただきありがとうございました。

夜船静河

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