文系でも読める科学読本~『Dr.STONE』をより深く楽しむ~

1 はじめに


 以前の投稿で私は『Dr.STONE』について語らせてもらった(URL:https://note.com/shirouyoulaw4u/n/na90ccadd111f)。『Dr.STONE』という作品の概要やその魅力についてはそちらの投稿に譲るとして、『Dr.STONE』という作品をより深く楽しむための参考文献をいくつかまとめようと思う。

2 漫画『Dr.STONE』に明記されていた参考文献一覧


 原作である漫画『Dr.STONE』の巻末には参考文献としていくつかの書籍が紹介されている。収録巻ごとに参考文献の量は変動するが確認できたものをいくつか挙げていこうと思う。
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『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』ルイス・ダートネル著・東郷えりか訳、河出書房新社2015
『人類が消えた世界』アラン・ワイズマン著・鬼澤忍訳、早川書房2009
『SASサバイバル百科大全』バリー・ディヴィス著・滝川義人訳、東洋書林2001
『最新SASサバイバル・ハンドブック』ジョン・ワイズマン著・高橋和弘・友清仁訳、並木書房2009
『新冒険手帳【決定版】』かざまりんぺい著、主婦と生活社2016
『アウトドア・サバイバル技法』ラリー・D・オルセン著・谷克二訳、エイアンドエフ2014
『SAS・科学特殊部隊式図解サバイバルテクニック』クリス・マクナブ著・角敦子訳、原書房2016
『学研科学選書 宇宙へ行きたくて液体燃料ロケットをDIYしてみた 実録なつのロケット団』あさぎりよしとお著、学研プラス2013
『メカニズムの辞典』伊藤茂編、オーム社2013
『相良油田の歴史とその生成の謎』榛原高等学校郷土史研究部2018
『ライフ 大空への挑戦 はじめに気球ありき』ドナルド・デール・ジャクソン著・西山浅次郞・大谷内一夫訳、タイムライフブックス1981
『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリ著・柴田裕之訳、河出書房新社2016
『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』ジャレド・ダイアモンド著・倉骨彰訳、草思社文庫2012
『ドッグファイトの科学 改訂版 知られざる空中戦闘機動の秘密』赤塚聡著、サイエンス・アイ新書2018(19巻掲載)
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 この投稿のために『Dr.STONE』単行本巻末に掲載されている参考文献をチェックしてみると面白いことが分かった。16巻辺りまでは参考文献の量が①~⑨あるいは①~⑫程度まであることがあるのだが、17巻から最終巻の26巻までになると掲載されている参考文献は①②⑫⑬とだいぶ少なくなっているのだ。これは、物語の序盤はそれこそサバイバル的な側面も強かったために裸一貫からでも生き延びることができるための資料が必要だったのに対して、科学クラフトが充実してきた物語の後半からはサバイバル知識(自然の恵み)のみに依存しなくても登場人物達の生活あるいは生存に問題が無くなってきたことがうかがえる。
 私自身これら全ての書籍を全部所有しているわけではないし、ましてほとんど読んだこともないのだが、『Dr.STONE』を面白いと感じたのならばこれらの書籍のどれかに目を通してみるとまた新しい発見があるのではないかと思う。

2 個人的な『Dr.STONE』をより深く楽しむための副読本


 ここからは原作『Dr.STONE』の参考文献としては挙げられているわけではないが、個人的に『Dr.STONE』に影響を受けて読むようになった本でより深く『Dr.STONE』の世界を楽しめると思った書籍をいくつか紹介する。
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『アリエナイ理科ノ大辞典』シリーズ
『文科省絶対不認可教科書 アリエナイ理科ノ大辞典 [改訂版]』文・監修:薬理凶室、三才ブックス2019
『文科省絶対不認可教科書 アリエナイ理科ノ大辞典Ⅱ』文・監修:薬理凶室、三才ブックス2018
『文科省絶対不認可教科書 アリエナイ理科ノ大辞典Ⅲ』文・監修:薬理凶室、三才ブックス2023
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  『アリエナイ理科ノ大辞典』(以下、『ア理科』)の[改訂版]とⅢには第1章で登場する重要科学クラフト「サルファ剤(スルファニルアミド)」の合成手順の記事が掲載されている。特にⅢでは解説動画のQRコードまで掲載されているので本気で・自力で「Dr.STONEごっこ」をしたいという逸般誤家庭(誤字ではない)の方は参照してみては如何か。また、Ⅱでは現実でやるには危なすぎるが『Dr.STONE』の劇中(過去回想シーン)で一瞬登場した「テルミット反応」がカラー写真で掲載されている。画像で見るだけでも良い子は(悪い子も)安易に真似してはいけないことが分かる。『Dr.STONE』を抜きにしても『ア理科』はQOLが上がる料理・掃除・医薬品・健康etc.に関する優良記事も多数掲載されているのでこれらの書籍を熟読するだけでも読む前とはだいぶ世界が違って見えることは間違いないだろう。勿論、「とにかくヤベー科学クラフトを創ってみてーけど何を手本にしていいか分からねー!」という阿呆の血が流れている者にも最初の一冊として『ア理科』はオススメである。ここで紹介したもの意外にも『ア理科』シリーズの書籍はいくつか存在するので興味があればそちらも手に取っていただければ『ア理科』読者としては幸いである。なお、『ア理科Ⅲ』で言及されているように、現実で科学を扱う場合には諸法律を犯すことのないように注意されたし。


講談社ブルーバックスシリーズ
 次に、理系の方でも自分の専門外の理系知識を手軽に押さえられる、あるいは文系出身でも比較的読みやすい手軽かつ堅実な理系的本として、講談社ブルーバックス新書シリーズの中から以下の物を紹介する。
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『新しい高校生物の教科書』左巻健男・栃内新編著
『新しい高校化学の教科書』左巻健男編著
『新しい高校物理の教科書』左巻健男・山本明利編著
『新しい高校地学の教科書』左巻健男・松本直記・編著
『新体系・高校数学の教科書 上』芳沢光雄著
『新体系・高校数学の教科書 下』芳沢光雄著
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 高校レベルで学ぶ理系の科目を大雑把に履修できる一覧である。とある理由で『Dr.STONE』終盤においてクロムとスイカは必死になって数学を猛勉強することになるのだが、これらの書籍を読めばその時の彼らの気持ちを追体験できること間違いなしである。「高校レベルの数学・理科までは流石に付いていけない」というのであれば、以下のものを勧める。
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『発展コラム式 中学理科の教科書 第1分野(物理・化学)』滝川洋二編
『発展コラム式 中学理科の教科書 第2分野(生物・地球・宇宙)』滝川洋二・石渡正志編
『新体系・中学数学の教科書 上』芳沢光雄著
『新体系・中学数学の教科書 下』芳沢光雄著
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 中学レベルのものでもこれだけの内容を一読するのとしないのとでは全然違うと言うことを表明しておく。これらの本を読めば、例えば「そういえば『維管束』とか『リトマス試験紙』とかいう用語勉強したねぇ」とあさぎりゲン状態になれること間違いなしである。少なくとも、最低限の「教養」というヤツは得られることは間違いなしである。
 その他にもブルーバックス新書で『Dr.STONE』と関係のありそうなものをいくつかピックアップしてみた。全部読むのは時間的な制約などで困難かもしれないので、自分の関心のある部分だけでも読んでおくことをオススメする。
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『暗記しないで化学入門』平山令明著
『有機化学が好きになる 新装版』米山正信・安藤宏著
『火薬のはなし』松永猛裕著
『分子レベルで見た薬の働き 第2版』平山令明著
『マンガ 物理に強くなる』原作:関口知彦・漫画:鈴木みそ
『マンガ 化学式に強くなる』原作:高松正勝・漫画:鈴木みそ
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その他科学系の書籍
 そして、個人的に目に付いた科学系の書籍をいくつか紹介する。
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『マンガでわかる元素118』斎藤勝裕著、サイエンス・アイ新書2011
『元素は語る 考古化学で読む元素図鑑』中井泉著、ワニブックスPLUS新書2020
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 これら上記2冊は『Dr.STONE』でも度々登場する「元素」に関して簡単にまとめた新書である。
 そして、次の2冊は活字で読む『Dr.STONE』のような書籍である。『Dr.STONE』で科学の面白さに目覚めたのならば是非一度は挑戦して欲しい書籍である。
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『ゼロからつくる化学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド』ライアン・ノース著・吉田三知世訳、早川書房2020
『世界史は化学でできている』左巻健男著、ダイヤモンド社2021
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<2024年3月11日補足追加>
『一度読んだら絶対に忘れない地理の教科書』山崎圭一著、SBCreative
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これは『Dr.STONE』の後半において千空達がロケットを開発するための素材を世界中からかき集めるために世界中の鉱物分布に関する知識が重要になったときに役立つ副読本である。そもそも千空達が超高速船を用いて最短航路を目指そうとするにしても人力GPSを用いて現在地を把握するにしても地理の知識が必要不可欠となるので、この本とのシナジーは最高なのである。
 この『一度読んだら絶対に忘れない地理の教科書』が面白いと感じたら同じシリーズの『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』(や真崎圭一著、SBCreative)も併せて読むことをオススメする。

3 補足~書籍だけでなく動画でも科学を学ぶ時代~


 本投稿の表題は「読本」とある通りここで紹介するのは書籍に留めようかとも思ったのだが、昨今はYoutube等動画も充実しており学びの入り口は広いほうがいいと考えたので『Dr.STONE』読者・視聴者であればより楽しみながら学びにもなる動画チャンネルをここでいくつかあげようと思う。
科学はすべてを解決する! [くられ with 薬理凶室] - YouTube
 『Dr.STONE』で科学監修をされているくられ先生のYoutubeチャンネルである。トンデモ科学工作から生活に役立つ実践を交えた科学知識紹介、くられ先生をはじめ薬理凶室メンバーの色々な方面からの話等、豊富なコンテンツが取り揃えてある。『Dr.STONE』で登場した「猫じゃらしラーメン」や「コーラ」の作り方も紹介されている。
※「猫じゃらしラーメン」「コーラ」の作り方の動画は「科学はすべてを解決する!」チャンネルではなく「主役は我々だ!」チャンネルのコラボ動画の方にあったので検索の際には注意されたし。念のためリンクを添付しておく。
【TVアニメDr.STONEコラボ】猫じゃらしでラーメン作ってみた! - YouTube
【科学】パクチーでコーラが作れるらしいよ - YouTube
書籍を読んだだけでは分かりにくい化学反応等も色や音、動きを交えた動画であれば一瞬で分かることも多々あるので、理科全般の学びの入り口としても最適である。
GENKI LABO - YouTube
 サイエンス・アーティストの市岡元気先生の運営する動画チャンネルである。市岡元気先生は一部『Dr.STONE』での科学監修もされており、度々くられ先生ともコラボ動画を出していたりする。
ホモサピ - YouTube
 生物系Youtuberとして著名なホモサピさんはGENKI LABOで一時期所属してから独立を果たしている人である。ホモサピさんは直接『Dr.STONE』と関りがあるわけではないが、その豊富な動植物の知識からサバイバルグルメを多数披露しているのでここで紹介させてもらった。食べられる動植物紹介だけでなく、素人が安易に食べてはいけない動植物に関する注意や、特定外来生物の取り扱いの注意喚起も何度もしてくれるので利益を得るだけでなく危険を回避するという意味でもためになる。
津野直哉/ツナ - YouTube
 上記「科学は全てを解決する」チャンネルのリニューアルに伴い新しく薬理凶室のメンバーにもなった「ツナっち」こと「ツナ」さんの個人チャンネル。薬学部出身者ならではの薬学部への進学・内部事情などの話も聞けるので薬学方面の進路希望者は視聴することをオススメする。
予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」 - YouTube
 通称「ヨビノリ」または「ヨビノリたくみ」と呼ばれる今時の理系大学生御用達の教育系YouTubeチャンネル。基本的に理系の大学生向けの専門的な数学・物理の講義をしているが時々高校数学・化学の講義も行っているので『Dr.STONE』読者は高校レベルの講義を視聴した方が良いかもしれない。また、当YouTubeを運営している「たくみ」さんはほんタメ - YouTubeというYouTubeチャンネルで『Dr.STONE』を布教していたりするので(曰く、「全人類を理系にしてやろうか」とのこと。しかもたくみさんの持ち込み企画でもあった)、ぜひ自分でチェックして確認してみて欲しい。
スイヘイリーベ ~魔法の呪文~/かっきー&アッシュポテト - YouTube
 上記④の「津野直哉/ツナ」さんがオススメしている元素周期表の記憶に役立つ歌である。元々は『エレメントハンター』というアニメのエンディング曲だそうである。中学生・高校生はこの歌を覚えるか否かでだいぶ理系科目のハードルの高さが変わってくるだろう。

<2024年3月11日追記>
北白川かかぽ / Kakapo Kitashirakawa - YouTube
北白川かかぽさんはサイエンスコミュニケーターとして名をはせるヴァーチャルユーチューバーである。「学術系Vtuber」と区分されるように専門的な学位を取得している方であるが、それだけに留まらず他の専門分野のVtuberさんとコラボをしたりゲーム実況や配信活動を行ったりしている。私はかかぽさんのことはホロライブDEV_ISのユニットREGROSSのメンバーである儒烏風亭らでんさんとのコラボで知った。私はかかぽさんの歌う【元素の覚え歌】スイヘイリーベ 〜魔法の呪文〜 (New Version) / covered by 北白川かかぽ【VEE】 (youtube.com)を改めて進めたいと思う。オリジナル曲が発表された時点では発見されなかった新元素もカバーしているのでこちらを覚えた方が最新の元素事情に対応しているのでオススメである。

碓井クリア - YouTube
『Dr.STONE』は終盤でロケットを開発し宇宙進出することで黒幕のいるであろう月に向かう準備をするが、そのロケット打ち上げに関して専門知識を有しつつ実際にロケット打ち上げの同時実況をしている碓井クリアさんというVtuberさんがいらっしゃるのでこちらも紹介したい。民間でロケット打ち上げを行っている実業家としてはホリエモンこと堀江貴文氏も有名であるが、その堀江氏とコラボ配信もしているのは碓井クリアさんである。ロケット打ち上げは必ずしも成功するとは限らず残念な結果に終わることも少なくないが、それでも真摯に涙ながら実況を続ける碓井クリアさんの姿を一度は見てみて欲しいと思う次第である。

4 おわりに


 『Dr.STONE』という一つのエンタメ作品一つを完成させるだけでも多くの先人の知恵や人々の協力が関わっている(『Dr.STONE』は科学監修以外にも様々な方面からの監修が付されている)。これら膨大な協力のもと得られた資料を取捨選択しエンタメとして必要十分なものを読者・視聴者に届けてくれる原作者稲垣理一郎先生・作画Boichi先生を筆頭に関係各位に感謝の意を伝えたい。そして、知りたい・学びたいと思えば本やネットなどいくらでも知識を吸収できる環境がある現代日本の豊かさにも改めて驚嘆する。ほんの1世紀前(スマホもパソコンもない時代)と比べれば得られる情報の量に圧倒的な差が生まれているのだから。しかも、一国の頂点に立つような国家元首や博士ではないただの一般市民でも容易にこれだけの情報に触れられるに留まらず、情報の発信者にさえなれてしまうのだ。
 個人的な思いとしては、まずエンタメ作品として何の前知識が無くとも『Dr.STONE』を心の底から楽しんで欲しい。そして、余裕が出てきたら『Dr.STONE』で描かれた「科学」について自分なりの方法で学びを深めて欲しいと思う次第である。そうすることで一人一人が科学リテラシーを正しく持つようになり、より豊かな生活を享受できるようになるからである。
 長々と書いたが、結局のところ言いたいことは自分の好きな作品や趣味が一人でも多くの人のところに届くことを願うばかりである。
…そういえば私は本来文系のはずなのにここまで理系の書籍やコンテンツばかり紹介して良いのだろうか。疑問に思わなくもないが人生何が起こるのかわかったものではないのでこれでいいのである。そう思うことにする。


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