AMR(薬剤耐性)について知ろう(1)
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院
AMR臨床リファレンスセンター
藤友 結実子
「AMR」(薬剤耐性:Antimicrobial resistance)というのは、抗菌薬(抗生物質)を使っていると、抗菌薬の効きにくい菌が出てくることを言います。
肺炎や尿路感染症になったときに、抗菌薬が効かず、病気が治らなくなるかもしれないということです。
手術をするときや、抗がん剤を使う場合など、
免疫を低下させるような治療をするときにも、
感染症の予防や治療薬として抗菌薬は使われています。
薬剤耐性菌が増えると、このような医療が難しくなってしまいます。
私達ができることは何でしょうか。それは、抗菌薬は必要なときだけ、正しく使うことです。
以前は、風邪をひいたときに、お医者さんで抗菌薬を処方されることもありました。
でも最近は、抗菌薬は風邪には効果がないということが、わかっています。
抗菌薬を飲まなくてもかぜは治ります。
以前、「抗菌薬を飲んでかぜが治った」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。
実は、それは自分の免疫力で治したのであって、抗菌薬を飲んでも飲まなくても、治っていたのです。
本当は必要がないのに、かぜ薬代わりに抗菌薬を頻繁に飲んだり、抗菌薬を飲み始めても、症状がなくなれば、すぐにやめてしまったりすると、薬剤耐性菌が生まれたり、増えやすい状況を作ります。
気づかぬうちに増えていた薬剤耐性菌のために、将来、治療が難しくなって苦しむことになりかねません。
AMRの問題は世界中で取り組まれています。
今年の6月に採択されたG20大阪サミットの首脳宣言で、国際保健の一項目として、AMRに取り組むための、「ワンヘルス・アプローチ」に基づく努力を、加速させることが取り上げられました。
実は抗菌薬は、人だけではなく畜産業、水産業、農業など幅広い分野で使用されています。
人の健康を守るためには、動物や環境も同じように健康であることが大切で、それぞれの分野に関わる人みんなで取り組んでいこう、というのが
「ワンヘルス・アプローチ」です。
人に使われている抗菌薬の量は、医療従事者や一般の方々の取り組みにより、減ってきています。
2018年は2013年と比較すると日本全体で10.6%、抗菌薬の販売量が減りました。
「抗菌薬は必要な時に正しく使う」
この取り組みを私たちは今後も進めていきます。
そんな中、実は、抗菌薬が不足するという困った問題が起こっています。私たちの皮膚には、普段からブドウ球菌などの菌がついています。
怪我をした時や、手術で傷ができた時、このブドウ球菌などが、感染症を起こすことがあります。
手術をする時には、感染症を防ぐ目的で、抗菌薬を使うのですが、これに使われる抗菌薬が不足しています。
その原因は、この抗菌薬を作っている会社で、薬を作れなくなったからです。
現在、病院では多くの抗菌薬は価格の安いジェネリック医薬品を使っています。
価格の安い抗菌薬は、採算が合わないため、国内で生産するのは難しく、海外の工場での生産に頼らざるを得ません。
何らかの理由で、海外での製造過程にトラブルが起こると、薬が作れなくなり、供給がストップします。
日本には、抗菌薬の供給状況を、全体として把握したり、足りなくなる場合に、あらかじめ知らせる仕組みがありません。
そのため今回の問題も、抗菌薬が足りなくなったことを直前に知り、治療や手術に影響の出た病院がありました。
さらに、新しい抗菌薬の開発は難しくなっている、という現実があります。時間とお金と手間がかかるからです。
抗菌薬が安定して供給されないと、抗菌薬を正しく使うこと自体が難しくなります。
必要な抗菌薬が、本当に必要なときに使えることは、日本ではこれまで当たり前のように考えられていました。
しかし、今後抗菌薬の供給の問題は、安すぎる薬価の問題、海外生産への依存、情報不足などの問題を抱え、医療従事者だけでなく、政府や一般の人も一緒に考えていかなければならない問題になってきています。
今回のテーマは、子どもたちの未来に、必要不可欠な抗菌薬を残しておくために、とても大切な話なのです。
AMRについてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
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