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日本人の宗教観とアニメ


①まず初めに

 日本人はよく無宗教と言われる。キリスト教や仏教、イスラム教、バラモン教、ヴードゥー教など世界の宗教は様々あるが、そのどれも日本国内では海外と比べて浸透していない。日本の土着信仰と言われる「神道」も熱心に国民全員が信仰しているわけではない。無宗教とは言われるが、クリスマスは普通に祝うし、お盆には休むし、正月には初詣に行く。ある意味、宗教に寛容とも言える。神道は生活に浸透しすぎていて、我々が意識していない所為もあるだろう。

②「推し活ブーム」と日本人の宗教観と、そしてアニメ

 日本を代表すると言える、キリスト教やイスラム教のような宗教は無いが、代わりに日本には「アニメ」の文化がある。近年「推し活」がブームになっていることもあり、日本人のある種、多宗教的な価値観とアニメの文化における関連性を見出してみるのも面白いかもしれない。

 小村(2022)では、日本のアニメにしばしば実在の神々や宗教的な事物が描かれていることについて「日本人の宗教性」の影響という観点から考察しており、ギリシャ神話のような古代宗教はそれをとがめる信徒がいないため題材にしやすく、また、神道のように現在信仰されているものでも、課題らしきものがあまり浮かび上がっておらず、なおかつ神社への参拝者を増やすきっかけにもなり、新しい物を受け入れることに寛容な雰囲気も後押ししたと捉えている。

 そして、アニメ作品の中に宗教観が内包されていることにも言及し、『宗教の神々や聖人または宗教事物を登場させることによって、宗教を感じさせない緩やかな宗教性を持たせることとなる。またそれによって、その宗教事物を使ったアニメ作品に独自の宗教観が生まれてくるのであろう。さらに、それは宗教団体もその教義もない、明確性を持たない何か観念的なものであるといえよう。そこに日本人の宗教性を見出すことができるのではないだろうか。』と述べている。

 アニメで宗教の神々が描かれる作品は様々で『かんなぎ』や『いなりこんこん、恋いろは。』、『ノラガミ』、私の好きな『RDGレッドデータガール』、『聖闘士星矢』などもそうだ。しかしこれらの作品は決して宗教的な意図や神聖的な意味を持って作られているわけではない。

『かんなぎ』
『ノラガミ』
『いなりこんこん、恋いろは。』
『RDGレッドデータガール』

 日本では宗教的な話題や信仰の有無を日常生活のおいて問うことはタブーとされている風潮があるため、あまり強い宗教性を持つものは忌避されるのだろうか。しかし、現在の日本には数多の新興宗教が存在し、平安時代に疫病が流行った際は大仏を建立するなど社会的不安を払しょくするため、「見えない何か大きい力」に頼る、あるいは神聖性を見出すことは古来から変わらないように思う。「かわいい」、「萌え」という概念があるように日本人は小さい物や愛くるしい存在に親近感を覚える側面もある。それは例えば、猫だったりぬいぐるみだったり、あるいはパンダだったりする。

 心の拠り所というのも人によりけりだが、対象が可愛いものだと日々の辛さから解放され、疲れも吹き飛ぶだろう。

 正木(2023)では『「推し」を推すこと』について研究しており、何故人々がアイドルを育てるという幻想を抱くのか考察している。これも興味深い研究だと思った。アニメではなくアイドルについての言及だが、90年代においてモーニング娘がリアリティーショー番組で多くのファンによる応援を受けたことで、「推し」が評価されて欲しいというような思いを抱く、「推し」に夢を託す、自分を重ね合わせる事を「リアルを生きる力になる」と評している。 

 自分の不甲斐なさやままならなさを、現実から離れたドラマティックなアニメの世界に投影して楽しむというのはどの世代でも多分一緒だろう。コロナ禍で鬼滅の刃が流行したのもうなずける。女児がプリキュアなどに熱狂する理由やバブル崩壊後に自分を励ます広告が増加したのも、同じ理由だろうか。
 コロナ禍の自粛期間で巣ごもりを余儀なくされる中、アニメブームが一般まで浸透し、NetflixやU-NEXT、電子書籍など個人で楽しめるコンテンツの増加と多様性の尊重という社会背景が後押しし、それぞれが「推し」を作るようになっていった。

③多宗教性

冒頭でも触れたが、日本人はとても多宗教、多神教的な信仰心を持っていると言える。表向きでは「無宗教」を標榜している人が多いが、無意識のうちに宗教的な考えは私達の生活のうちに浸透している。「雷が鳴るとおへそを取られるからおへそを隠せ」、「悪いことをするとバチが当たり、最悪の場合地獄に落ちる」、「神社で合格祈願をする」は立派な宗教行為に当たるだろう。神道はユダヤ教やキリスト教、イスラム教のような一神教ではなく「八百万の神々」の概念を信奉する多神教的な側面がある。そして神道がこれらの一神教と根本的に異なるのは、「開祖がいない」「万物に神が宿ると信じる」「土着信仰」ということだろう。厳しい戒律などがなく、教義も曖昧なため、島国特有と言ってはなんだが日本人の控えめな性格に合致した信仰と言える。

多様性尊重、趣味の多様化という社会背景と「万物に神が宿る」という神道の概念は「推し活」にぴったりだ。

④まとめ

 神道の「八百万の神々」、「万物に神が宿る」、「開祖がおらず厳しい教義や戒律がない」という概念や信仰とアニメのキャラクターに神聖性とともに親しみを持つ、バブル崩壊やコロナ禍などの社会不安などの現実から逃れて架空のキャラクターに自己を投影して非日常を想像して満喫するという感覚と、そして日本人の島国特有の控えめな性格と宗教観が、日本においてアニメがここまで人気な一因と考察する。
もしよかったら皆さんのご指摘や意見、アドバイス等頂けたら幸いである。それでは今回はここまで…。

最後に私の推しを添えて。

『RDGレッドデータガール』
鈴原泉水子

◇参考文献リスト


◯立教大学学術リポジトリ「アニメと宗教:日本人の宗教に対する姿勢を考える」2022年

◯京都女子大学、正木大貴『「推し」の心理 ―推しと私の関係―』2023年


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