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アニメ聖地巡礼ビジネスに感じる違和感

 昨今アニメの聖地巡礼が盛んに行われている。私はそれに常々、疑問と違和感を感じている。
 聖地巡礼はアニメや映画、小説の創作物のファンが、舞台となったロケ地を巡る事を表しており、2007年の『らき☆すた』以降、急速に流行し始めた。
聖地巡礼は地方の活性化やPRも見込める事から、それにあやかる自治体も増え始めた。現実の自治体を舞台としたアニメが多数制作され、P.A.WORKS制作による『花咲くいろは(石川県金沢市)』や京都アニメーション制作の『響け!ユーフォニアム(京都府宇治市)』、他にも『ラブライブ!サンシャイン(静岡県沼津市)』、『ガールズアンドパンツァー(茨城県大洗町)』、『氷菓(岐阜県高山市)』などが代表的だ。


①聖地巡礼の失敗例とそこから見えてくるもの

 しかし、有象無象の聖地巡礼アニメが製作されるにしたがって、それによって成功する自治体と、当初の目論見通りにいかず失敗する自治体の格差が出始めてきた。千葉県鴨川市を舞台とした美少女ロボットアニメ『輪廻のラグランジェ』は失敗例として未だに語り草となっている。何も作って満足という訳にはいかないだろう。聖地巡礼の本来の目的は、それまで観光に行かなかった、悪く言えば「日陰者」のオタクに、コンテンツとのコラボを通じて地方の魅力を再発見し、地域にお金を還元させるためだ。

輪廻のラグランジェ
©ラグランジェ・プロジェクト
ヨスガノソラ
©sphere/奥木染町内会
©copyright King Record Co.,Ltd. All Rights Reserved.

 こう言っては何だが、ラグランジェは聖地の立地が悪いと言わざるを得ない。鴨川は人口の多い都心部から遠く、アクセスも悪い。そのような地域をPRしていくには、ただアニメの題材にして、キャラクターを表象として消費するだけではなく、「行ってみたい」と思えるような工夫あるいは差別化が必要だ。その地域が元々持っている魅力に加えて、地域が持つ問題点や、あまり見せたくないところまで描き切ってこその聖地巡礼アニメではないだろうか。どうせ作るなら、しっかりとマーケティングして骨のあるストーリーで売れる作品を作っていただきたい。
 栃木県足利市を舞台とした『ヨスガノソラ』は地元とのコラボレーションという趣旨を全く無視した近親相姦などの猥褻な内容で物議を醸した。栃木県民である私からすると、憤りを覚える。昨今、アニメの性的描写がフェミニズムの観点から非難を浴びることが屡々あり、議論の的になっているが、このような事こそ批判されて然るべきではないだろうか。
 アニメ制作会社の利益や利権、競争のためだけに一地方を消費しては食いつぶす商法は、トレスクをして「文化の売春」と呼べるものであり、如何なものだろうか?

②アニメ聖地巡礼とオーバーツーリズム

 また、一部のファンによる迷惑行為が発生している例もある。何度も繰り返すようで申し訳ないが、アニメの聖地巡礼の本来の目的は、アニメを通して地方のPRや活性化を図る事であり、オーバーツーリズムや迷惑行為、コンテンツが売れずに失敗することは、関わった人達の苦労が浮かばれない。聖地巡礼におけるオーバーツーリズムの代表例は『ラブライブ!サンシャイン』と『スラムダンク』だろう。ラブライブサンシャインは聖地となった学校へファンが不法侵入したり、観光施設のキャラクターのパネルで迷惑行為をしている事が問題になった。スラムダンクは有名な江ノ電鎌倉高校前の踏切に大量の観光客や外国人が押し寄せ、地元の人から苦情が寄せられる事態が発生している。一般の観光客とオタクの住み分けは難しいだろう。しかし、節度がないファンがあまりにも多いようなコンテンツはいずれにせよ未来はないと思っている。

鎌倉高校前駅近くの踏切で江ノ電を撮影する外国人観光客ら=9日午後、鎌倉市腰越1丁目
「鎌倉高校前駅の踏切 警備員増強を「検討」 アニメ・スラムダンク〝聖地〟で観光客殺到」より

 これを読んでいるアニメ関係者の方がもしいるのだとしたら、地方を舞台としてアニメとコラボレーションする企画を立てる際に、その作品がどれだけ地元に貢献でき、利益還元できるか(慈善事業ではないにしろ)、一旦立ち止まって再考して欲しい。

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