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大学入学後、私はゲイに愛を求めた

これまでを振り返りながら、この一連の記事を書き綴って気づいたのは、「高校までは意外とまっすぐに、人並みの人生を歩んでいたかもしれない」ということ。

狭いコミュニティから抜け出し、今までに出逢ったことのない人たちと繋がり、アイデンティティが音を立てながら不安定になりはじめたのが大学時代だったんだと思う。

「あそこに入ればもう安心」と地元では言われているような大学に無事に入学した私は、新入生歓迎会で飲酒を覚えた。酒を飲むと、気持ちが大胆になった。知らない人とも愉快に話すことができた。例えば自分の肌のことや、自分の発言で相手がどう感じるかと心配になることなど、普段気にしているいろんなことが気にならなくなったのだ。

同じ学部には、同じ高校から進学したT君がいた。彼とは高校時代は顔見知り程度だったが、大学では急速に仲良くなった。というのも、誰とでもすぐ打ち解けるT君に私はついてまわって、良く飲み会に参加していたからだ。

入学直後は、T君を中心とした仲良しグループでよく遊んでいた。北海道から来ていた女の子のアパートが根城のようになった。男女6人のグループで、沖縄本島を一週したこともあったっけ。

T君は背が高くてハンサムで、スポーツもできて明るくて、音楽や映画なども好きな人で、誰とでもすぐ仲良くなれるような人に見えた。いつもの根城でふざけてキスすることがあって、思わず私はディープキスをしてしまった。「まさか舌を入れてくるとは思わなかった」と笑いながら言っていたと記憶している。恋愛感情のようなものは抱いていなかったので、その行為自体は完全におふざけだった。その当時はまだ、私はゲイとしての自覚はそんなになかったと思う。

入学直後、女の子と良い感じになったこともあった。同い年ながら大人っぽい彼女と2人で大学生向けの安い居酒屋で酔っ払って、その場でテーブル越しじキスしたりしたことがあった。いろいろあって、良い感じになった際、彼女が別の男の名前を呼んだので興ざめした。そうだ、あれは彼女に遊ばれていたのだ。いま思い出した。

地元にはいなかったタイプの人が、大学にはたくさんいた。めちゃくちゃ頭が良くてイケメン、女子にもてるのに気取っていない人とか。初対面なのにめちゃくちゃ親しげに話してくる人とか。私の数億倍、音楽に詳しくて、演奏経験も豊富な人とか。そしてみんな、わたしより賢かった。

大学入学後は、アルバイトにも精を出していた。もちろん、飲み代を稼ぐためだ。バイトと飲み会に明け暮れる日々を送り、私はまともに勉学に励もうとしなかった。

T君は、仲良しグループの女の子と付き合い始めた。さすがは人柄もいいイケメンだ。人見知りして自信のない私とは大違いだと思った。その頃から、顔面にはびこるニキビとニキビ跡に恨みを募らせるようになったと思う。

俺は、こんな顔だから、誰からも愛されないんだ。
こんな自分でも、誰かに愛されたい。

そう思って、自分の中では自然な流れで手を出したのが、ゲイの交流掲示板だった。

今でこそゲイ専用の出会い系アプリがあるが、当時はまだ掲示板だった。伝言ダイヤルというのもまだあった。とにかく、自分を愛してくれるなら性別はかまわないという感じだったと思う。いや、もしかすると、中学時代からすでに興味の芽はすくすくと育っていたのかもしれない。とにかく、私はその時期から、本格的にゲイの世界に足を踏み入れた。


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