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網走の夜に君臨する『ジアス』(全国バー行脚①北海道)

   流氷と刑務所の街、網走。この地に君臨する絶対王者が『ジアス』です。名前の由来は「THE EARTH(ジ・アース)」。雄大な自然に囲まれた網走のバーに、ぴったりなネーミングですね。

   同じ名前で新千歳空港にも店を出しており、私はそちらでジアスの存在を知りました。空港のジアスも素晴らしくて、いつか網走にある本店に行きたいと思っていたのです。念願叶ったのは2021年の3月でした。

流氷、麗し

   網走駅から徒歩で15分くらいでしょうか。観光に便利なバスターミナルや、私の泊まっていた「ドーミーイン」からは、ほど近くです。食べログでは「桂台駅から832m」とありますが、地元の人に聞くと、この駅を使う人はあまりいないとのこと。網走駅から電車に乗って桂台まで行くより、素直に網走駅や、その周りにあるホテルから歩いた方がよほど早いので注意が必要です。

丸い看板が良き。ひょっとして地球を意識?
バーの扉はいつでもわくわくする

   ジアスの開業は1990年。数百種類のお酒を揃え、ウイスキーはスタンダードからレア物まで豊富。食事・おつまみもたくさんの種類があり、一つひとつが凝っています。店内は広く、静かにまったりできるカウンターも、わいわいと語らうことのできるテーブルもあり、とても楽しい空間でした。

   店の造りで面白いのは、カウンターが、店の奥と中央付近とに二枚あること。奥のカウンターはまっすぐ長く、中央のそれにはカーブがあります。お店の方に聞くと、もともと奥の部分だけで店をやっていたが、隣の店舗が撤退したので、後から壁を壊して繋げて拡張したのが今の店だそうです。だからカウンターが二枚あるんですね。

   ジアスで「必飲」と言えるのは、流氷を使ったソーダ割りやロックでしょう。本物の流氷を加工したものです。流氷だから塩の味がする、なんてことは一切ないですが、耳を澄ますと、パチパチと空気が弾ける微かな音が聞こえることがあります。流氷には多くの気泡が閉じ込められているため、溶ける際にそんな音を立てるそうです。

   その辺の話、連日通っているうちに詳しくなりました。網走には、本物の流氷に触ることのできる観光施設「流氷館」があります。流氷館が新たな流氷を入手する際に、そのごく一部を店に分けてもらい、加工して芯の綺麗な部分だけを氷として使っているそうです。かなりの労力ですね。そんな流氷を300円で頼めます。

   もちろん網走に来たら、流氷は味わうだけでなく、見た方がいいです。私も砕氷船に乗って流氷見学をしましたが、興奮して船内で座っていられず、ずっとデッキに出ていました。めちゃくちゃ良かった。一面の流氷と、吹きつける冷たい風。船が分厚い氷を砕く轟音。こんなに雄大なのかと。自然を見て感動したのはいつ以来だろう。強烈に打たれました。ジアスでも、オーナーバーテンダーのSさんが、流氷の魅力を生き生きと語って下さいました。強く頷くばかりです。

   さて、お酒は土地柄、厚岸ウイスキーが全種類あります。さも当然のようにあるのが良きですね。

厚岸は鉄板の一杯

   こちらは、流氷の丸氷を浮かべて冬のオホーツク海をイメージした「プラネット オブ ブルー」。お店の看板カクテルです。

見目美しき、味も良し

   ほかにも、写真はないですが「五月の桜」というカクテルが美味しかったなあ。

パブなら『ザ ギネスバーアイラ』

   ところで、ジアスのご近所にはグループ店の『ザ ギネスバーアイラ』があります。名前の通りギネスが美味しい。網走で唯一、樽生のギネスが飲める店と聞きました。大きめのボリュームで音楽がかかった、バーとアイリッシュパブの中間のような店という印象です。ここで、「から酒」のウイスキーソーダ割りバージョンをいただきました。

ボトルにカニの殻を漬けている

   から酒は、近年、網走が力を入れて発信している、炭火で炙ったカニの殻を浮かべたお酒です。居酒屋で日本酒のから酒を飲みましたが、フグのヒレ酒ほどの強い味わいや余韻はなく、ちょっと物足りなさを感じました。

   ただ、こちらではカニの殻を浮かべるだけでなく、使用するウイスキー(タリスカーストーム)自体に、カニの殻と、さらに昆布を漬けています。それにより、しっかりと海の風味を楽しめる一杯になっていました。

   なお、グループ店には居酒屋『喜八』もあり、オホーツクの海産や「鯨づくし」をたっぷり味わえます。ここにもお世話になりました。

穴場の『ジャックローズ』

   さて、ジアスの近場には、元スタッフの方が独立して開業したバー『ジャックローズ』もあります。綺麗な一枚カウンターに立つのは、かっちりした服装のバーテンダーさん。ジアスがわくわくするバーなら、こちらは落ち着くバー。正統派のオーセンティックです。ここ、網走の穴場かもしれません。近所にあったら、ちょこちょこ通ってしまいそうです。

個性が際立つ『ROOM』

   ほかにも、ジアスとは無関係ですが、外装も内装もドクロだらけの個性派バー『ROOM』も良かった。お酒の種類は豊富で、他の店のスタッフや大学生が、朝の5時や6時にやって来て飲む「超夜型」の店です。こういう店が一軒あると、夜に働く人にとっては、仕事上がりに飲みに行けて嬉しいもの。オーナーは「大変だけどそれが定着しちゃったから、もう変えられません」と笑っていました。

ROOM。お通しの代わりに駄菓子を出します

   網走にはたったの三泊しかしていませんが、他にもたくさん魅力的なお店があるようでした。できれば一年くらい滞在して楽しみたいものです。

   その上で、帰結するのはジアスになるんだろうなと。居酒屋、バー、寿司屋など、網走ではどこのお店に入っても「本格派はジアスさんがある」と称えられていました。網走では(バー業界では全国的にも)有名すぎる存在です。

   私にとっても、ジアスは網走観光のメイン、いわば網走の中央でした。この列島最北東端の街に、圧倒的な存在感で煌めくジアスに、ひとりのバー好きとして思いを馳せる日々です。ああ、また行きたい。(了)


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