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“民話×ビール”の里「遠野」で光るオーセンティック『パートナー』(全国バー行脚②岩手)

  遠野が好きです。

  これまで取材で2回、プライベートで5〜6回は行ってます。好きになったきっかけは柳田國男の「遠野物語」ですが、行くたびに違う魅力に気づきます。

 初めて遠野に行ったのは20年近く前、小泉純一郎政権の構造改革で、遠野の「どぶろく特区」認定を取材したときでした。当時から遠野物語好きだった私は喜び勇んで取材に行き、ついでに観光したものです。

 遠野はそのときから変化しています。何よりお酒好きの視点で言えば、遠野物語による「民話・民俗学の里」に加え、クラフトビールを街全体で造る「ビールの里」の顔を持ったこと。直近で行った2021年8月は、遠野のビールをあれこれ飲んで来ました。

「相棒」の名に偽りなし『パートナー』

 ビールの話は後ほどとして、その際に初めて入ったバーが『Partner(パートナー)』です。遠野駅から伸びる県道を、博物館方面へまっすぐ3分ほど歩いた左手にある路面店。遠野に来るたびに気になっていたのですが、タイミングが悪く伺えていませんでした。

艶やかな入り口

  パートナーの開業は1990年前後。遠野で唯一のオーセンティックバーと言って良いようです。カウンター6席とテーブル席がひとつ。加えて、バックバーに背中を向け反対側の壁に向かう形の「ミニカウンター」のような空間が4席分あります。

  ウイスキーは、なかなかの品揃え。私の大好物「スプリングバンク」もありました。それも、おお、久しぶりに見る旧ラベル!

  しかし、このお店の特色はウイスキーやジンなどの数ではなく、オリジナルの果実酒が沢山あることでしょう。果実酒の材料は、買うだけでなく山から摘んで来る物もあるとのこと。どんな果実酒があったかというと…思い出せません。複数並んでいたのは確かです。二日続けて伺ったのですが、楽しく飲んで酔っていれば覚えていられませんよね。すみません。

店内の明かりは青ベース

  さらなる魅力は、女性オーナーバーテンダーのTさん。おひとりで運営しています。気さくで話し上手。常連さんにも、私のような一見にも分け隔てなく接して下さいました。

  遠野のどこに魅力を感じてるんですか? 今度はどこそこに行ったら良いですよ、なんて定番の話をしているうちに、地元の方や、年に何度も遠野に通い詰めている観光客のお客さんも話の輪に加わります。Tさんのさりげない相槌や問い掛けが潤滑油。シェイカーを振れば凛々しく、オリジナルカクテルもあります。

  気づけば閉店間際。居心地、抜群。土地の人に愛され、観光客も暖かく迎えてくれるお店の存在はなんとありがたいことか。遠野に行きたい理由がまたひとつ増えました。

「バー行脚①」で言及した『ジアス』はバー業界の超有名店ですが、こちらはおそらく、遠野の外から見れば、あまり知られていない店でしょう。しかし店名通り、多くのお客さんのパートナーになっているバーなのだと、はっきり言い切れます。

ハイネケンで陽気な夜に乾杯『リバース』

  さて、小さな街ですから、民宿の親父さんに「昨日はどこで飲んだの?」と聞かれて店の名を出せば「Tちゃんのところか〜」となります。そんな話の流れで、もう一軒、当たりをつけていた店について聞くと「そこは、お客さんがいれば朝まででもやってるよ」と言います。

  行ってみました。名前は『REVERSE(リバース)』。バーというよりパブですね。遠野駅を出て右手方向へ歩いて3分ほどの、こちらも路面店です。

無骨な扉と看板が格好良し

  店内、とてもアメリカナイズしてます。壁には、これでもかと言わんばかりに沢山のコカコーラのタペストリーが飾られていました。お店の看板ドリンクは、ハイネケンの生です。

  ちなみにですが、ここのご主人、宿の親父さんやご飯屋さんなど、けっこういろんなところで“個性強め”と言われてまして、どんな人なのかしらんとドキドキしつつ扉をくぐったのですが、もう最初から楽しい。歓迎していただきました。ビールを飲めば、みんな仲間。ご主人とスタッフの女性の掛け合いも漫才みたいで楽しかったなあ。

  お店の造りだけでなく、ノリもアメリカン。遠野の夜はとても静かですが、リバースに一歩入れば別世界のよう(感染対策はしっかりしてますよ)。陽気なお酒で乾杯したい時、あるいはハイネケンやギネスが飲みたい時、リバースのドアをくぐりましょう。

クラフト&遠野パドロン『TAPROOM』

  バーから話が逸れますが、地ビールのお店にも触れておきます。いや、触れざるを得ません。

  遠野は元々、全国随一の生産規模を誇るホップの名産地です。近年はホップの生産にとどまらず、クラフトビールで地域振興を目指す「ビールの里プロジェクト」を官民一体で推進しています。そうした流れがある中、2017年に醸造所の「遠野醸造」が発足。同社が、醸造所と酒場(飲食店)を併設した店舗として2018年にオープンしたのが『TAPROOM』です。

街中、駅から徒歩5分くらい

  遠野の地ビールには、以前から「ZUMONAビール」(上閉伊酒造)シリーズがありますが、それにとどまらず、遠野醸造が作った各種の自家製ビールなどを飲むことができます。

  食事も充実していて、絶対的なお勧めは遠野パドロン。パドロンは、ししとうの仲間で、食べると「ほろ苦甘辛旨」で止まらない。何度目かの遠野行の際に好きになりました。東京・中野に住んでいた頃は、行きつけのスペインバルが、わざわざ遠野パドロンを仕入れてメニュー化してくれたほどです。私が行くと必ず出してくれました。

遠野パドロン。左はフリット、右は素揚げ

  お腹と心を満たしたら、博物館方面に少し歩いて、観光施設の「とおの物語の館」に行きましょう。

“ホップ博士”が店を守る『BREWNOTE 遠野』

 目的地はここ。「とおの物語の館」の敷地内に2020年にオープンしたジャズカフェ&バー『BREWNOTE 遠野』です。

このアルファベットの字体、好き
店内、沢山のレコードが迎えてくれる

 こちらの店主のMさん、キリンビール社でホップの研究者として活躍し、世界でも数少ない、ドイツホップ研究協会の技術アドバイザーになった方です。人呼んで“ホップ博士”。いつもお世話になっている「一番搾り とれたてホップ生ビール」も博士の手掛けた商品です。新たな国産ホップ「MURAKAMI SEVEN」も育種しました。

  さまざまなビールをいただきました。遠野産のホップは「IBUKI」のブランド名で展開されていますが、そのIBUKIだけを過去最大級にどっさり使った、ZUMONAシリーズのこのIPAが特に好きです。

味のイメージは「IBUKIの豪速球」

 Mさんは、遠野に限らず岩手県内で美味しくクラフトビールが飲める店を教えてくれました。遠野を発った日、その中のひとつ、花巻駅近くの店に寄ってクラフトの飲み比べをしてから帰ったのですが、それはまた別のお話。

  ここまで書いて、やっぱり遠野は良いなと思います。TAPROOM代表のHさんによると、遠野は駅周りに飲食店が約60店舗あり、その中にチェーン店はひとつもないそうです。人口2万6000人の小さな街に湧き立つエネルギー。これからも遠野行は続きそうです。(了)





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