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読書まとめ「汝、星のごとく」

本屋さんに行くと、必ず「汝、星のごとく」(凪良ゆう著)が週間ランキングに入っていて、お店の見えやすいところに置いてありました。なんとなく気になっていたものの、なんだか難しそうなタイトルに購入を渋っていましたが、インスタでの評価と「2023年本屋大賞の大賞」を受賞していることを知り、購入してみました。
これからの文章はネタバレも含まれるので、見たくない方はご遠慮ください。


精神的に不安定な母親と暮らす暁美(アキミ)と男がいないと生きていけない自由奔放な母親と暮らす櫂(カイ)

主人公の暁美の家族は複雑な家庭環境にあります。父親は浮気相手の家に入り浸り、妻と娘・暁美(アキミ)がいる家には帰っていません。暁美(アキミ)の住んでいる瀬戸内の島は、噂がとんでもない速さで広まります。娯楽施設がない島では、噂話が一番の娯楽なのです。もちろん、暁美(アキミ)の父親が家に帰っていないことも、島内では知らない人はいません。
父親の浮気と島内の人たちによる目もあり、母親は精神を病みます。飲酒の量が日に日に増えている母親の世話をするのは、高校3年生の暁美(アキミ)です。

京都で暮らしていた櫂(カイ)は、男のためなら幼い息子を1人にして外出できる母親と共に暮らしています。櫂(カイ)は幼い頃から、男に捨てられて泣く母親を慰めていました。そんな母親の姿に怒りをぶつけることはせず、櫂(カイ)はいつでも母親の味方になって生きていました。高校3年生の春、母親と惚れた男を追いかけて瀬戸内の島に引っ越してきました。
そこで、暁美(アキミ)と出会います。


転校生として暁美(アキミ)の高校に転入してきた櫂(カイ)

京都から瀬戸内の島に引っ越してきた櫂(カイ)、都会から来た転校生に校内はざわつきます。櫂(カイ)の母親のことも校内で知れ渡っていて、暁美の耳にも届いていました。あるとき、市場で母親と魚を貰っていた櫂(カイ)は同級生の暁美と出会います。その時、暁美(アキミ)は、母親とのことで悩んでいました。暁美は精神を病んでいる母親に浮気相手の家にいって父親を連れて帰るように頼まれました。浮気相手の家に入り浸りの父親は、親戚に説得され、一時は家に帰っていましたが、結局は浮気相手の家に戻っています。暁美は、この状況に父親は二度と戻ってこないと悟っています。だからこそ、浮気相手の家に父親を取り戻しに行きたくないし、訪問したとしても1人で帰ることは目に見えていました。憂鬱で仕方のない時に櫂(カイ)と出会い、一緒にバスに乗って父親の住んでいる浮気相手の家に乗り込みに行きます。


幸せとは、ほど遠い家庭環境で似た者同士の暁美(アキミ)と櫂(カイ)

暁美の父親が住む、浮気相手の家に一緒に乗り込み、修羅場を乗り越えてきた、櫂(カイ)と暁美(アキミ)。どうしようもない2人の家族の話に、親近感が湧いて、気持ちを支え合う恋人同士になります。家に居場所がない2人にとって恋人になることは、お互いを認め合える存在がいることへの安心感から強い愛に結び付き、2人の世界にいるだけで幸せな気持ちになります。特に、母親の愛に飢えている櫂(カイ)は暁美(アキミ)を溺愛していて、花火大会の暁(アキミ)の浴衣姿にも発情し、花火そっちのけで浜辺で欲をぶちまけます。欲を抑えられない高校生らしい行為ですが、一般的には、「ヤバイカップル」の部類に入りますね。屋外の行為は盗撮の危険もあるので、読んでいてハラハラするのですが、人口のすくない瀬戸内の小さな島だからこそ、屋外行為に及べるのかもしれません。


お家デート

コンビニのない瀬戸内の島には、娯楽施設もないのでデートで遊びに行けるような場所も無いです。なので、櫂(カイ)と暁美(アキミ)は、お家デートが主です。漫画家志望の櫂(カイ)は黙々と漫画を描いて、櫂(カイ)の後ろで暁美(アキミ)は、刺繍を刺しています。それぞれが、異なる活動を同じ部屋で行うことが櫂(カイ)たちにとってのお家デートでした。
お互いがお互いの作業に、誇りを持っていて、それぞれがお互いを見る想いが、かけがえのない存在を伺わせる場面です。


東京で漫画家になる櫂(カイ)と瀬戸内の島に就職する暁美(アキミ)

高校を卒業したら東京で一緒に暮らす計画をしていた二人。櫂(カイ)は相棒の尚人(ナオト)と作った漫画の連載が決まり、高校を卒業後は、東京で漫画家になります。暁美(アキミ)も父親の浮気相手に学費の援助をしてもらい、櫂(カイ)と暮らしながら東京の大学に進学する予定です。しかし、暁美(アキミ)両親の離婚が正式に決まり、病んでいる母親の世話をするために、島に残ることになります。一緒に東京で暮らすことができなくなったと発覚した日、暁美(アキミ)と櫂(カイ)は浜辺で、たくさんの約束を交わしました。見えない未来に不安にならないように、浜辺で話し合う二人は、切ないワンシーンだと感じました。


人気漫画家になった櫂(カイ)と夢を諦めて母親の世話をしながら会社で働く暁美(アキミ)

櫂(カイ)と尚人(ナオト)の漫画が大ヒットし、人気漫画家として活動をしている櫂(カイ)は収入が増えたことによって、生活が派手になっていきます。一方で暁美(アキミ)は、精神的に病んで何もできない母親の世話をしながら、会社員をしています。女であるために昇給は絶望的な会社で、少ない給料をもらいながら、夢も希望も持たずに働いている暁美(アキミ)は、趣味の刺繍だけが唯一心が休まり、現実から引き離してくれました。
東京にいる櫂(カイ)に会いに行くたびに、暁美(アキミ)は、金回りの良い櫂(カイ)に高級なお店や高価なプレゼントを貰っていましたが、自分の給料の何倍もの物を楽々買ってしまう櫂(カイ)に虚しさを感じてしまいます。漫画家として人気になり天狗になってしまった櫂(カイ)と暁美(アキミ)は、置かれている状況の違いからだんだんと、気持ちがすれ違ってしまいます。


暁美(アキミ)との破局

才能を過信して天狗になってしまった櫂(カイ)は、恋人の暁美(アキミ)と会う時も仕事をしていました。暁美(アキミ)が何度話しかけても、返事は一言二言くらいです。そんな、櫂(カイ)の愛を感じない態度に不信感を抱きます。櫂(カイ)は、暁美(アキミ)と一緒にいるだけで幸せで、傍にいてくれるだけで、心が休まる存在だから会話なんて必要ないからこそ傲慢な態度を暁美(アキミ)にとります。しかし、彼の態度に暁美(アキミ)は恋の終わりを感じ始めます。別れを切り出そうとすると、櫂(カイ)からプロポーズされて、一瞬気持ちが揺らぎますが、その場しのぎの言葉だと確信してしまい、別れてしまいます。櫂(カイ)は別れ話をされた日、忙しさのあまり、一方的に暁美(アキミ)に会う約束を取り付けていました。暁美(アキミ)は会いたいと言われれば会いに来てくれる「都合の良い女」と思われても仕方ない、約束の交わし方、このような櫂(カイ)の態度に暁美(アキミ)は怒りが湧いて、別れに繋がってしまったわけです。本当は暁美(アキミ)にプロポーズする予定だったのに、相手の予定も考えずに自分の意見を押し付ける櫂(カイ)の態度は自業自得です。


漫画は打ち切りで絶望の櫂(カイ)

櫂の描いたセリフを絵にしてくれる相棒の尚人(ナオト)はゲイです。未成年と極秘で付き合っていましたが、スキャンダルが記事になってしまいました。記事は瞬く間に炎上し始め、漫画は廃盤、打ち切りになります。稼げなくなった櫂(カイ)は、バイトをしながらライターをして、なんとか生きていました。病んで引きこもってしまった尚人(ナオト)と再結成したいと思いながら過ごしてきた日々に影が差します。櫂(カイ)の身体に胃ガンが見つかってしまいました。ヒモとして暮らしていた女の家から追い出され、住むところがない櫂(カイ)は、尚人(ナオト)の家に居候します。尚人(ナオト)と楽しくお酒を飲んでいるとき再結成の話をして、盛り上がり前向きな尚人(ナオト)を久しぶりに見て、安堵した櫂(カイ)でしたが、翌朝、お風呂で自殺しているところを見つけてしまいます。親友の死に絶望のどん底まで落ちてしまった櫂(カイ)は、大量にお酒を飲んだせいで胃ガンが悪化し、入院になります。


暁美(アキミ)との再会

櫂(カイ)が胃ガンだと聞いたのは櫂(カイ)の母親に見に行ってほしいと頼まれたからでした。母親はどうしょうもない人で、病気で苦しんでいる櫂(カイ)のお見舞いに行くのが不安で「一生懸命育てたのに死んでしまうのが辛い」と実の息子の置かれている状況から逃げたい態度に暁美(アキミ)は怒りが湧いてしまいます。高校の恩師と結婚していた暁美は、櫂(カイ)の状況を伝えてその日のうちに、東京に向かいます。入院中の病院に暁美(アキミ)がいることに、櫂(カイ)は驚きます。しかも、暁美(アキミ)の普段から一緒にいるようなしゃべり方に、夢を見ているような感覚にさえなってしまいます。だけど、今は現実で暁美と住むことに決まりました。


末期ガン、最後は瀬戸内の島で花火がみたい

胃ガンは完治する見込みがなく、痛みを緩和させる治療に切り替えた櫂(カイ)は暁美(アキミ)と見れなかった花火を一緒に見るのが夢でした。その思いをかなえる為に、暁美(アキミ)は病院と相談し、今治の病院とも連携をとれるように手配し、万全の態勢で櫂(カイ)と島に帰る事を決定します。島に着いた櫂(カイ)の体調は、衰弱しながらも安定していました、花火大会当日にはさらに、衰弱していましたが、なんとか花火を見る日を迎えられました。色とりどりの花火を見ながら、櫂(カイ)は星のように光り輝く星の仲間となりました。


まとめ

高校生の頃から親の世話をして、社会人になってからも親という重い荷物を持たされ、夢すら犠牲にして生きていかなければならない境遇の暁美(アキミ)の状況は読んでいる私も一緒に苦しくなってしまうほどの問題です。切りたくても切れない親子の縁。切りたいのなら罪悪感も不安感もせをわなければならないと思うと何とも言えない気持ちになります。暁美(アキミ)も櫂(カイ)も安心感を求めあっていたからこそ、相手に甘えて別れに繋がったのかもしれません。切ない物語の中に紡がれる言葉が良い表現となって生きているところがこの小説の好きなところです。


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