脊柱

高い天井を見上げている。驚くほど真っ白だ。清潔感よりかは、いっそ、自分自身の色を吸い上げられてしまうような吸引力を感じた。
頭の中の宝箱にしまった、過去の鮮烈な記憶が、極彩色の映像となって投影された。
ああ、可愛らしい彼女の横顔だ。いじらしく気になって、ばれるかもと怖がりながら見つめていたことを覚えている。
ちょっと照れた引きつりを顔に感じて、隣で彼女が笑っている。彼女が頼まれた荷物を、勇気を出して、手伝うと言えたあのときの自分を褒めてあげたい。繋がりを得たあの瞬間の熱は、今でも心を焦がしそうだ。
進みはゆったりと、感情は激流のように流れる日々を過ごして、告白をした日、ストンと落ち着く、良かったという安堵と、意識が飛ぶほど沸騰した興奮、そして、意外と照れると表情によく現れるんだと、そんな彼女の一面を知った。
指を絡め、肩を寄せ合い、ふとした時にはにかみながら口を交わした。できるだけおしゃれに着飾って、あまり行かないところに挑戦してみて、あまり自分たちには合わなかったねなんて笑ったりした。
共に歩める時間は増えて、反発することも大いにあったが、互いが持つ言葉を真摯に交換することができた。
楽しくて、嬉しくて、とろけるような時間に、まばゆいフラッシュ、息もできない程体を打ち上げる衝撃に記憶は弾ける。ただ、決定的に何かが折れる聞いた。胸を突く痛みは、これが原因だろうか。
記憶の投影が散り散りになって終わり、体の奥底から船上に揺れる小波のような漣がやってくる。瞳を閉じて、静かに落ちていった。
つうと、高い電子音がまっすぐに鳴る。折れることなく、ただつうと、鳴って、鳴って、ぷつりと電源が落とされた。


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