相槌

うら若き女子高生がカチャカチャケータイをいじり寝っ転がりながら喋り続けていた。どうにも、通話している様子はみられない。ずっとマシンガンの様に学校のことでのあれやこれや、殆どが愚痴の話を打ち続けていた。
この独り言の極地とも言えるような所業、かれこれ丸一年、続けられている。感想としては、もううんざりと言ったところか。
「いや、本当に保体のゴリ松がホント性欲猿過ぎてありえないんだけど。ずっとずっと胸とかお尻見られてんのわかってるっつぅのに、言うに事欠いてトスのフォームが悪いから、指導する?ばっかじゃねぇの!?なんで人間ですらない猿畜生に体触れないと行けないの?生理的に無理、ってか無理、いや存在が無理。あいつのこと誰か呪い殺さないかな。」
随分物騒発言だ。確かに粘っこい視線やら接触やら、セクハラされていらつくのはよく分かる。俺だって、セクハラじゃないが、パワハラには痛く悩まされたものだ。もっとハラスメントについて考える時代が早くやってきてくれればよかったのにと何度も思う。そういえばこいつは何時も誰かがいなくなって欲しいなり、痛い目にあって欲しい、という時は、やたらと呪いなり霊障なりスピリチュアルなことを言う。まさに女子高生と言ったところか、占いで運勢わるかったのぉ、とかキャピついてるのがJK?だったはずなのでイメージと一切のズレがない。
いやしかし、最近の女子高生はルーズソックスなり、濃い化粧なりはしないのだろうか。彼女みたいにブイブイ言わせるタイプの女子高生というのは、そういうギャル的な装いをしているのかと思ったが、そこは想像に反し、結構落ち着いていたりする。自分の知っている女子高生像は最早10年以上前のことなので、正直時代が変わっていると思った方が良いのだろう。まさかそんな事で時代の流れを感じるとは思わなかったが。
いや、それにしたって、毎回登校する際の格好については思うところがある。なぜあんなにスカートを捲って短くするのだろうか?年頃の可愛い?綺麗がわからない。絶対に寒いだろう。なんでその見てくれを見て俺が寒いと感じないといけないんだ。逆だろ逆、なんで溌剌と外へと出ていくんだ。もっと寒がれ。それで寒いのに気づいて防寒しろ。
「それでサッカー部の先輩が、彼女いるのに私にすり寄ってきやがって、毎回きっぱり断って線引いてるのに、ずぅっとすり寄ってくるから彼女にバレやがるし、しかもその彼女の取り巻き巻き込んで私のことけなしてくるって何?意味わっかんない!悪いのはあの馬鹿でアホな性欲モンスターの球蹴りでしょ!なーにが私の彼氏に色目使いやがってだよ!そう思うより前に彼氏が目移りしないように自分磨きしやがれブスが!」
まさに暴言のオンパレードだったが、確かに話を聞いていると頷ける。女性社会と言うのは今も昔も厳しいものがあるのだろう。俺が知らぬ女の園の中には、それこそ山よりも険しく、深海よりも光の刺さない暗い戦いがあったりするのだろう。本当に女じゃなくてよかったと思う。少なくとも自分が悪くないのに、仲間を引っ連れて理不尽をふっかけられたことはない。
しかし、自分磨きしろといって、ブーメランになっていないのだからすごいものだ。部屋はいつだって綺麗に保ってるし、下着姿で部屋を歩き回ることもないし、適度な運動もして食事もそこそこに管理されている。一人暮らしで、特に親に制限されてるでもなく、ここまでしっかりしているのは珍しいと本当に思う。思うが、いかんせん口が悪い。ストレス発散が必要という事については、よくよく理解できるが、聞く方の身にもなってほしい。まぁ、嘆いたところでどうしようもないことではあるが。

こういった、ひたすら彼女が愚痴を吐き散らし、それを、何もすることがないので仕方がなく頷いていた日々が一年も続くとは思いもしなかった。最初こそ慣れないのか随分としおらしかったくせして、一度慣れ始めると、どんどんあけすけに言葉を吐くは吐くは、いっそあっぱれと言ったところか。
まったく、できることなら離れてしまいたい。離れることができないからため息しか出ない。ほら、今もこうやって心が動きたがっているのに、体は動いていかない。……あれ?いやまて、動くぞ。あ、動けるなこれ!なんだか知らないがいつの間にやらしがらみが消えてたのか!なんてことだ!そんなことならさっさと去ってしまおう!そうしようそうしよう!
「え?ちょちょ、ちょっと!えなに出てこうとしてるの!?いや、一年もずっと居座ってうら若い女子の生活覗いてたってのに嬉々として出ていこうとするというかホント何様のつもりなの?通すべき筋ってのがあるでしょ!!」
彼女の怒号が響く。よくわからないが堪忍袋の緒が切れるようなことがあったようだ。だがしかし俺は自由なのだからその内容を知る必要は一切ない。少々動きづらいがちゃっちゃか出ていってしまおう。
「いやだから勝手に出てこうとすんな!おい!こっち見ろ!」
……ん?こっちを見ろ?おずおずと振り返ってみる。怒り心頭な彼女目とばっちり合った。
「ほら、説教するからこっち来て座って!!」
うわ、嘘だろ…。目があった瞬間に、なんか、こう、縁が繋がれちゃった気がする…。すっごく外に出づらくなってる…。ってかお前……見える子ちゃんだったのかよ…。
「ほら!そこに正座!」
正直な感想…げんなりです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?