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アラスカの犬たち 【詩】

流氷
のうえを流れる風は
少し冷たかった

数知れない空の思い出が
ちぎれながら流れた

犬どもが吠える

船は
氷のうえで渋滞し
ひび割れていく

犬どもの声が聞こえる

凍った
赤い肉をほおばる
鯨の尻尾が
風をたたいている

テントから出てきた男は
また聞いた

今日は南に300キロすすむ

鳴いている声がある
風にまぎれていく
むすうの影が流れていく

指から血が流れている
橇の跡が乱れる
さっきからずっと聞こえている
女の唇は黒く汚れ
笛のようなものを鳴らす
さっきからずっと
風の記憶がよぎる
爪が割れている

犬が腹をゆする
赤い肉を咀嚼する
犬が背中をふるわす
黒い血を嚥下する

また 聞こえた

今日は300キロ南下する

風が強くなる

さっきからずっと聞こえている

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