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男二人、行き当たりばったりすぎる南東北旅【1日目】

 2月11日、朝。

出発点は船橋駅。今回使用する「週末パス」(by shiosai)

 日が昇り始めたばかりの船橋駅から、今日は始まります。

 今回は、小学生のころから十年来の付き合いになる友人との、二人旅。どこへ行こうか、という話になったときに、

「東北、行ったことないな」

友人のこの言葉がきっかけで、東北に行き先が決まりました。
 お手頃な「週末パス」を使って、福島と宮城を二日間旅します。僕はもう行き慣れた土地になりつつありますが、誰かと行くことで、違った一面も見えてくるかもしれません。初めて行く場所もありますし、何より東北本線を北上する旅自体、かなり久しぶりなので。

朝日が差し込む西船橋駅 (by shiosai)

 その友人とは西船橋で合流する手筈になっていたので、まずは総武線で一駅、西船橋へ。降りてみると、ちょうど顔を出した朝日が、きらきらと輝いていました。今日はいい天気になりそうです。
 そして無事に友人と合流。会うのは1年ぶり、髪型が変わっていてちょっとびっくりしました。高校の同級生もそうでしたが、大学に入るとイメージって変わるものですね。でも、総武線の車内で話す内容は鉄道のことばかり。中学生の頃は「大回り乗車」に何度も行っていたので、「やることはあの頃と変わってないねぇ」なんて話をしていました。実際そう。

 総武線と京浜東北線を乗り継いで、降りた上野で朝ご飯。ホーム上の立ち食いそば屋にお邪魔してそばをすすります。安いうえに美味い、あぁ何たる安心感。すっかりお腹も満たせました。やはり北への出発点は上野でないと締まりません。

 8時ちょうど発、宇都宮線の快速「ラビット」に乗り込み、いよいよ北進を始めます。ボックスシートを確保し、1時間半の道のりへの準備は万端。旅気分も上がります。
 快速なので途中いくつかの駅を飛ばしながら走り、1時間ほどで栃木県の小山までやってきました。「大回り乗車」を北関東でやると必ず乗り換えをする駅なので、二人とも何度か来た覚えがあります。今はなきホーム上の「きそば」を懐かしみました。足利市にできたという新しい店も、いつか行ってみたいものです。

思い出となった小山駅宇都宮線上りホーム「きそば」の月見そば(2018.2.25 by shiosai)
今なお宇都宮に残る旧式の駅名標(by shiosai)

 しばし新幹線の高架橋に沿って走り、終点の宇都宮に到着しました。ここも何度か乗り換えで訪れた駅。友人とは数年前に「関東の県庁所在地全制覇」の旅でここまで来ています。あの時食べた、本場の宇都宮餃子の味が思い出されます。

LRT乗り場(by shiosai)

 ご無沙汰だったうちに、宇都宮では新しい鉄道が開通しました。そう、LRTの宇都宮ライトライン。令和の時代になってまさか路面電車の新規開通とは、と随分驚かされましたが、走り出しはかなり好調の様子。乗り場では多くの人が電車を待っていました。写真には収められなかったものの、僕たちがいる間にも芳賀・高根沢工業団地行きの電車が出ていきました。機会を作って乗りに行きたい、今注目の鉄道路線です。

 宇都宮からは、2駅間のみ新幹線でワープします。理由は関所が隔てる栃木・福島の県境区間の本数が少ないから。在来線だけで行こうとするとさらに1時間以上の早起きを強いられてしまうため、無理は禁物とこのルートにしました。
 やってきた「なすの255号」は東京方面からのお客さんでそこそこの混雑でしたが、二人席が空いていたので確保。約30分、悠々と移動できます。
 各駅停車タイプの「なすの」ですが、それでも駅間では最高260km/hを叩き出す俊足ぶり。「はやぶさ」にこそ遠く及ばないものの、鈍足といった感じはまったくなく、冠雪した那須岳を左に見ながら気が付けば福島県へ。下車駅の新白河には、あっという間に到着しました。

白河の関を軽々と越えて、いよいよ東北へ(by shiosai)

 在来線ホームでは、すでに次の郡山行きが発車の準備中。東北仕様の緑と赤の電車を見ると、東北に来た、と気分がいっそう高揚します。芭蕉は『おくのほそ道』の中で、「心もとなき日数重なるままに、白河の関にかかりて旅心定まりぬ」と記しています。東北へは300年前よりもはるかに行きやすくなり、芭蕉が感じたものと同じものはもはやここからは汲み取れませんが、思うところは今でも似ているのかもしれません。

 黒磯方面からやってきた普通列車のお客さんがどっと流れ込み、ほぼ満員で新白河を発車。青春18きっぷのシーズンでもないのに何だこの混雑は、と困惑しきりでいるうちに、そのほとんどが次の白河でどっと下車。嵐が過ぎ去って呆然としていると、ケータイを見ていた友人が正解らしきものを教えてくれました。どうやら白河では年一度の「だるま市」がちょうどこの日に催されていたらしいのです。城下町の白河は観光スポットが盛りだくさんとはいえ6両の列車が満杯になるとは考えにくいので、きっと「だるま市」効果なのでしょう。県外からも人を集める「だるま市」、どんなイベントなのだろう。まだまだ知らないことがたくさんあるものです。

(by shiosai)

 そんな白河を出ると、列車はすっかりがら空きに。ボックスシートを二人で占有し、左手にそびえる山々を見ながら、列車に揺られて進みます。晴れているのに白いものがちらちらと舞っており、どうやら山から雪が飛んできているようでした。南相馬ではよくあることなので、すぐにピンときました。

郡山駅にある受験生応援メッセージ(by shiosai)

 40分ほどで郡山に到着です。改札口には黒板に書かれた受験生への立派なメッセージがありました。僕たちもつい1年前は受験生の身だったので、このような粋な計らいには尚更心を打たれます。皆頑張れ。
 ここでいざ昼ごはん、と地図アプリを開いて確認すると、事前に当たりを付けていた定食屋さんがなんと両方とも定休日。
「どうするどうする……?」
「もう乗り継ぎの電車出るぞ」
「じゃあもう福島行っちゃおう!」
 知り合いも何人かいる郡山ですが今回は駅から出ることすらできず、買おうと思っていたクリームボックスも諦め、すぐさまホームに戻って福島行きの電車に乗り込みます。ギリギリセーフ。

車窓から見える安達太良山(by shiosai)

 電車は安達太良山の立派な山体を横に、東北本線をひたすら北へ進みます。この旅に出る1週間ほど前には大雪が降りましたが(その日はアルバイトのシフトが入っていて死に物狂いで帰宅しました)、やはりこちらは関東よりも幾分か雪が残っている印象がありますね。

福島盆地が見えてきた(by shiosai)

 城下町の二本松で多少の乗り降りがあり、大学のキャンパスがある金谷川でドカッと大学生たちが乗ってくると、福島盆地に向けて一気に下ります。車窓がぱっと開けて、その先には県都・福島の街。久しぶりに見るこの景色に、気分が高ぶります。

「上野行き」(by shiosai)

 40分弱で福島に到着しました。電車から降りて向かいの乗り場の発車標を見ると、なんと「団体 上野」の文字が。寝台列車が東北の地から消えた今、上野行きなど滅多に見られないので、相当なレア物です。思わずシャッターをパチリ。振り返れば、この日は沿線にカメラを構える人がずいぶん大勢いました。この前日にE655系「なごみ」が常磐線を仙台まで下ったのはTwitterで見ていましたが、これが復路だったのでしょうか。
 人口に関しては郡山市といわき市に後塵を拝しているものの、ここは県庁所在地・福島市。ごはんを食べるところはあるはず、と駅前をうろうろします。僕も福島駅前をまともに歩くのは初めてだったので、何があるかはまったく知りません。もちろん、そんな状態でよいお店をキャッチできるはずもなく、収穫のないまま再び駅へ。名物の円盤餃子を出すお店ものぞいてみたものの、信じられないくらいの大行列でした。

 これは無理だ、もう時間もあまりないということで、福島駅を離れ次の場所へ向かうことにしました。その次の場所というのは、福島が誇る一大温泉地、飯坂温泉。福島駅からそこまでの9km余りは、福島交通が飯坂線という電車を走らせています。
 東急のお下がりの電車に乗り込んで、いざ福島駅を出発。小さな駅にこまめに止まり、少しずつ坂を上っていきます。松川に架かる鉄橋を渡ると、雄大な山々を窓越しに眺められました。

飯坂温泉駅に到着(by shiosai)
改札口(by shiosai)

 ほどなくして電車は飯坂温泉に到着です。行き止まり式のプラットホームに、レトロなサイン。銀色の有人改札のラッチには駅員さんが立っていて、昭和の雰囲気が漂います。

和風の駅舎(by shiosai)
温泉街が広がる(by shiosai)

飯坂電車の駅は街中にあり、周りにはお店が立ち並んでいます。川沿いに旅館が多くあるのも、温泉地らしい光景です。
 さあここでランチタイムだ、とお店を探すべく観光案内所に突入してパンフレットをいただきましたが、お昼営業のお店が意外と少ない。温泉地だからでしょうか、宿泊する人の多い夜の営業が中心です。とはいえ何も食べないのはもったいない、と駅のすぐ近くにある中華料理屋さんに目星を付けました。円盤餃子も食べられるというし、期待です。
 ところが当のお店は昼1時過ぎにもかかわらず列ができています。並んでみはしたものの、一向に列は縮まりません。刻々と迫るラストオーダー。そして山の近くゆえに風がとにかく冷たく強く、徐々に僕らの身と心を蝕んできます。

日帰り温泉で心身ポカポカ(by shiosai)

「もう昼は適当に済ませて夜に贅沢しようか……」
「そうね……」
 そんな感じのことを言い、お昼ごはんをコンビニの菓子パンで済ませてしまって、せっかくなので温泉に入りに行きます。時刻はちょうど午後の3時。ちょうどよく、この時間から日帰り温泉を開けている旅館が見つかりました。しかもなかなかリーズナブル。ガラガラと扉を開けて、入館です。
 旅館の方に案内され、通路を抜け階段を上がるとお風呂に出ます。ありがたいことにタオルも貸してくださって、いざ入湯。飯坂温泉のお湯は熱いといわれ、共同浴場などでは熱いお湯とそれよりはぬるめのお湯、二種類の浴槽を設けているとか。こちらの旅館のお湯も、一度手を差し入れてみると「ちょっと熱いな……」と感じる温度でしたが、かけ湯をしたり体を洗ったりしてから湯船に浸かって、少しするとちょうどよい体感になります。
 僕がお風呂に入るのがいつも遅めだからなのかもしれませんが、お湯に浸かっていて「体の芯まで温まる」という体験をしばらくしていなかったので、感動すら覚えました。お風呂ってこんなにほっこりできるものだったのか、と。
 友人と会うのが久しぶりだった分、積もる話を湯船に浸かってのんびりとしました。裸の付き合い、ってまさにこういうことですね。

駅前の芭蕉像(by shiosai)
十綱橋(by shiosai)

 しばらくゆっくりしたのち、飯坂電車の駅まで戻ってきました。駅があるのは、摺上川に架かる十綱橋のたもと。旅の途上でこの地を訪れた、芭蕉の像も立っています。『おくのほそ道』の舞台に、また一つ自ら足跡を刻めたことをうれしく思いました。


福島駅に戻ってきた(by shiosai)

 20分ほど電車に揺られ、再び福島駅へ。まだ体がぽかぽかしています。
 ここからは東北本線に戻り、さらに北を目指します。次の電車の行き先は、東北一の大都市、仙台です。

(by shiosai)

 ボックスシートを無事確保して、列車が出発。体の温かさと疲れもあって、この辺りになってくると眠気が襲ってきます。終点まで乗りっぱなしなので寝過ごしというものはないのですが、やはり久しぶりの乗車、外の景色は目に焼き付けておきたいところです。頑張って起きることにしました。
 福島から4つ目の藤田を過ぎると、列車は一気に坂を上って峠越えにかかります。高度を上げていく中、右手に意識を移すと保原や梁川の町が遠くに見えました。福島盆地が少しずつ小さくなっていきます。

遠くに蔵王山を眺める(by shiosai)

 宮城県に入り、峠を駆け下ると白石に到着。左手には山形県との間に聳え立つ蔵王山が見えました。すっかり夕暮れです。
 白石からは川沿いを行き、やがて一目千本桜の真横を走る区間へ。美しい桜と列車を一枚に収められる有名な撮影地ですが、そういえばまだ桜が咲く時期に訪れたことはありません。東北で咲くのは4月に入ってからで、学校があったりそれ以外でも忙しかったりして、なかなか来られないのです。余暇を作って見頃の時期にまた行きたいところです。
 常磐線と合流する岩沼まで来ると、日はとうに山の向こうへ沈んで車窓は真っ暗。しかしこの辺りからは仙台のベッドタウンで、建物の明かりがぐっと増えます。各駅で、お客さんが乗ってきました。

(by shiosai)
立派な仙台駅の全貌(by shiosai)

 上野を出てからおよそ10時間。杜の都、仙台にたどり着きました。久しぶりの大きな都市、ビルの明かりが煌々と街を照らします。
 まだホテルのチェックイン時刻までは余裕があるので、夕食のお店を探すべく街を歩く……前に、パルコの中にあるスターバックスでドリンクを購入。友人は行き慣れているようで、注文内容をさらりと店員さんに伝えます。何を言ったのか、スタバ初めましての僕にはさっぱりわかりません。

ビル明かりが街を照らす(by shiosai)

 ドリンクを片手に、仙台に来たなら牛タンでしょ、という友人たっての希望でお店を探すことにしました。試しに駅近くのお店をのぞいてみましたが、行列も行列、しかも整理券を持っていないと入れない様子。3連休、しかも人気店だからどうしようもないなと、さっぱり諦めて街中に繰り出します。名掛丁のアーケードには多くのお店が軒を連ねていて、たくさんの人が歩いています。人の多さと街の明るさは、今日通ってきたどの街よりも――もちろん東京にはかないませんが――抜きんでていました。「仙台なめてたわ」とは友人の弁。あらためて仙台は大きなところだな、と認識させられました。

地下鉄南北線で移動(by shiosai)
勾当台でお店探し(by shiosai)

 地図アプリでいろいろとお店を調べてみると、どうやら今日の宿がある勾当台公園方面によさげなお店があるようです。時間もないしこのままホテルにチェックインしたいし行ってしまおうか、と仙台駅から地下鉄に乗って2駅。勾当台公園駅で電車を降ります。この辺りは仙台の繁華街らしく、やはり多くの建物があります。
 肝心のお店を訪ねてみたものの、見てみると店頭の明かりは消えていて「準備中」の看板。まだ閉店まで30分以上もあるのに、と思って見ていると、なぜかお客さんらしき人が数人出たり入ったりしていきます。開いてるの?閉じてるの?どっち?と二人揃って困惑しきりのまま、時刻は19時半を回ってしまいました。
 これから入ってもご迷惑だろうと、「仙台らしい」夕食探しはここで無念の打ち切り。コンビニで買い出しをして、早々に投宿することにしました。下調べして場所を決めていればよかったものを、行き当たりばったりで歩き慣れない仙台までやってきてしまったゆえのミスです。また学びを得ました。

セブンイレブンのマーボー焼きそば(by shiosai)

 ホテルに着いて、コンビニで買ったごはんを広げます。僕が手に入れたのは「マーボー焼きそば」。僕も初めて知りましたが、仙台のご当地グルメの一つなのだそう。辛口のマーボー豆腐が、炒めた香ばしい中華麺と合わさって、よい味わいです。どうせならお店で食べたかったところですが、僕は旅先での食にこだわりがない人間なので、これでそれなりに満足です。

 テレビを見ながら雑談して、シャワーを浴びて寝支度をして、などとやっていると気が付けばもう夜の11時。この時間になると眠くなってくるので、友人を置いて眠りにつきました。というか、いつの間にか眠りに落ちていました。

 男二人の行き当たりばったりすぎる旅は、明日も続きます。


≪続く≫↓
(3月中に書けたらいいな)


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