見出し画像

イギリスの大学院に「オンライン留学」する ― わたしの転機をふりかえる #5

この連載では、私自身のライフキャリアストーリー(=人生の物語)を少しずつ綴っていきます。今日は、20代後半で社会人学生になった日々のことを振り返ります。

前回はこちら:

*******

マララ・ユスフザイさんの国連演説に背中を押され、教育を学ぶことを決心しました。

あれこれ学校について調べた結果、大学院で教育学を専攻することにしました。しかし、そこで早速ひとつのハードルが立ちはだかります。

通学というハードルです。

当時はフルタイムの会社員だったので、全日制の大学院に通うことはできません。かといって、現職に生かすために学びたいわけですから、退職して進学するという選択肢もありません。学びたいのに学べない、というジレンマにさっそく陥りました。

そんなとき、あるネット広告が目に留まりました。それは海外の大学院のオンラインコースの紹介でした。しかも、教育分野で世界最高峰の評価を受けるイギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のコースでした。

UCLは、イギリスで最も古くから高等教育を開放してきたことで知られています。とくに、いち早く女子学生や外国人留学生を受け入れてきたことは世界的にも評価されています(ちなみに、UCLへの最初の留学生は実は日本人です。伊藤博文をはじめとする長州藩士たち、いわゆる「長州ファイブ」の一団がUCLで学んだ最初の外国人留学生となりました)。

さらに通信教育においても長い歴史を誇ります。通信課程で学ばれた有名な先人には、たとえば南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領がいます。同氏は母国での27年間にわたる投獄生活のあいだ、UCLが属するロンドン大学の通信過程で法学を学び、その後の政治家としてのキャリアにも生かしてこられました。

そうして早速UCLを第一志望に決めました。仕事の合間に出願準備を進め、2014年に晴れてUCLの教育学修士課程に入学することができました。

そこから2年間、日本で働きながらオンラインでイギリスの大学院に「留学」する生活がはじまりました。社会人、学生、妻という3つのわらじを履きながらの大学院生活となりました。予想をはるかに上回る忙しさでしたが、とても充実した日々でもありました。

2年間の大学院生活から得られたものはたくさんあります。

職場では新しい仕事を任せてもらえるようになり、社外でも役割や居場所が広がっていきました。大学で研究をしたり、文章を書かせてもらったり、大学生のメンターとして学生のさまざまな相談に乗るボランティアをしたり。さまざまなことにチャレンジしました。

また、意外にも子育てに生かせる学びがたくさんありました。これは私が教育を学んだことが大きいかもしれませんが、さまざまな情報に惑わされず、自分たちにとって大切なことを選び取るための軸が大学院での学びによって培われたと思います。

さらに、ごく個人的な面においても大きな変化がありました。

すこし大きな話になりますが、大学院への進学をきっかけに、自分自身とよりよい信頼関係を築くことができるようになったと感じています。

働きながら学習に向かう日々は、いま振り返ってもまさに試練の連続でした。学問の厳しさ、次々と降りかかってくるチャレンジ、私生活とのバランスの難しさ……。自分の能力に限界を感じたこともあります。そんな局面を経てたどり着いたのは、自分自身とのより強固な信頼関係(パートナーシップ)でした。自分自身をより深く理解し、よりよい関係を築けるようになったこと。これこそが、大学院生活から得られた最大の収穫だったと思います。

過去に、イギリスの俳優エマ・ワトソンさんがご自身のことを「セルフ・パートナード」(self-partnered)と表現して話題になりました。自分自身が人生のパートナーである。とてもすてきな考え方だと思います。

考えてみれば、生まれてから死ぬまでずっと付き合っていく唯一の人間は自分自身です。自分自身との信頼関係を築くことは、まさに生きる基盤をつくることだと思っています。簡単な道のりではありませんが、大学院への進学やその後に起こったさまざまなライフイベントを通して、少なくともその一歩を踏み出すことができたのではないかと思っています。

そんな貴重な社会人学生生活を終え、つぎに向かったのはフランス・パリでした。

つぎの投稿では、30歳を過ぎて降り立ったパリでの日々と、そこから得られた学びを振り返りたいと思います。

*******

オンライン留学をしていた当時の体験をもとに綴った著書『海外大学院に「オンライン留学」しよう』が近代科学社より好評発売中です:


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?