岸志帆莉/大学研究員×文筆業
夏休みに親子で中国・雲南省を旅したときの思い出をつづったエッセイです。
家族との日々を綴っています。
私自身の「ライフキャリアストーリー」を少しずつ綴っていきたいと思います。 職業キャリアだけじゃないライフキャリア、人生の物語に光を当てたい。
エッセイや短歌など
ランサーズ主催 #新しい働き方LAB の研究員としての活動日誌を公開しています。#私の働き方実験
こんにちは。 前回の投稿でもお伝えしましたが、このたび私のnoteで連載してきた「オンラインで海外大学院に行こう!」マガジンが一冊の本になりました。 『海外大学院に「オンライン留学」しよう』 というタイトルで、本日11月3日(金・祝)より発売開始となりました。 noteマガジンが一冊の本になりましたこの本は、私がこれまでnoteで連載してきた「オンラインで海外大学院に行こう!」というマガジンがもととなって生まれた本です。マガジンからの選りすぐりの記事に加え、新たな書き
8月17日、午前10時。 昆明発・南通行きの飛行機はゆっくりと滑走路を進みはじめた。 機内は人々の話し声でざわついていた。その大半は聴き慣れた中国語のアクセントだった。久しぶりにこの四声をはっきりと発音するアクセントを聞いた気がする。まるで龍が目の前で踊っているようで格好いいと思う反面、あの雨音のように静かな雲南方言をすでにどこか恋しく感じている。たった10日ほどの滞在だったのに、耳が慣れきってしまったのだろうか。 飛行機は離陸に向けて加速をはじめた。息子たちは窓際の
雲南旅行、9日目。 今日はこの地で過ごす最後の日。 朝、宿のレストランで黒龍江省の李さんとばったり会った。「今日出発するんだよね」と聞いたら、「今から発つ」と彼は言った。李さんは車で中国大陸を旅して回っている。 「成都まではどのくらいかかるの?」 「スムーズにいけば10時間」 「今日中に着くの?」 「わからない」 「着かなかったら?」 「着いたところで寝るよ」 李さんははそう言って笑い、車のキーを宙に放り投げてキャッチした。 市場で買った鮮花餅をはなむけとして
雲南旅行、8日目。 きょうはメイさんの提案で、子どもたちを連れて少し遠出をすることにした。 向かった先は、昆明の郊外にある西山森林公園。雲南省最大の湖・滇池の西側にそびえる山々一体が森林公園になっている。湖水にかかるなだらかな山並みは、横たわった女性の姿にも見えることから「睡美人」と例えられる。元の時代から続く古刹や、「登龍門」の語源にもなった龍門石窟など、歴史的な見所が点在することでも知られる。 公園の入口付近でメイさんと待ち合わせをした。いつものように颯爽と現れたメ
雲南旅行、7日目。 朝から雨がしとしとと降り続いている。 今日は久しぶりに何も予定がない。宿のテラスでデリバリーの朝食を食べながら天気予報を見た。どうやら今日はずっと雨らしい。空を見ても確かに止む気配はない。しかし子どもたちのことを考えると、一日じゅう宿で引きこもるわけにもいかない。どうしたものかと思いながら、子どもたちを引き連れて一階のレストランへ降りていった。 レストランにはヨウコさんや李さんがいた。会話をしたり子どもたちを遊ばせたりしながら時間をつぶしているうちに、
雲南旅行、6日目。 久しぶりに昆明で朝を迎えた。きょうはメイさんと会う約束をしている。 メイさんは昆明出身の女性で、フランスのパリに暮らしている。私が過去にパリに暮らしていたころの恩人で、夏のあいだ昆明に里帰りをするという知らせを受け、私はいてもたってもいられず江蘇省からはるばる飛んできた。 メイさんが市内の動物園に一緒に行こうと提案してくれた。昔からある市民の憩いの場で、メイさんも子どものころよく遊びに来ていたという。子どもたちはメイさんにまた会えて、しかも動物園に行け
雲南旅行、5日目。 麗江で過ごす最後の日、少し遠くへ足を延ばしてみることにした。 行き先は旧市街の北に位置する「束河古鎮」。ナシ族の古くからの定住地で、麗江旧市街の一部として世界遺産にも登録されている。古代には、雲南とチベットを結ぶ茶の交易路において宿場町としても栄えたらしい。 宿からタクシーで15分ほど行くと、集落の門構えが見えてきた。門をくぐると、華やかで繊細なナシ族の伝統建築が石畳沿いに続いている。麗江の旧市街よりこぢんまりとしていて、小雨のためか人通りも少なく、ど
前編はこちら: 雲南旅行、4日目。 シャングリラの旧市街でチベット料理のランチを食べたあと、街の広場へ戻っていった。 しばらくしてツアーワゴンが戻ってきた。親子3人で乗り込み、後部座席にならんで座った。一人旅の男性とご家族連れもつぎつぎと乗り込んできた。ふたたび8名が揃い、ワゴンはつぎの目的地へ向けて走り出した。 そこから5分ほど走ったころだろうか。ワゴンは道路沿いの建物の駐車場に入り、そこで停車した。車のエンジンを切ったツアーガイドがおもむろに言った。 「吃饭(チ
雲南旅行、4日目。 シャングリラへと向かう朝、5時にアラームが鳴って目が覚めた。カーテンの外をのぞくとまだ暗闇だった。 ぼんやりとしたまま洗面所へ行き、顔を洗った。息子たちはまだベッドでTの字になって熟睡していた。自分の支度をゆっくり済ませたあと、息子たちを順番に起こして支度をした。その後リュックサックを背負い、3人で部屋を後にした。 向かいの道路に大型ワゴンが停車していた。近くにいた運転手らしき人に名前を告げると、車内へ通された。そこには家族連れとおぼしき3人組がすでに
雲南旅行、3日目。 麗江へ向かう朝、6時に起きると窓の外はまだ暗かった。 東西に広い中国では、西へ行くほど日の出が遅くなる。ひんやりと薄暗い真夏の朝を前に、遠くまで来たことをあらためて実感した。 荷造りは昨夜のうちに済ませていた。小型のボストンバッグに、いつものリュックサック。これで2泊3日、母子3人分の荷物だ。 出かける支度をしていると、息子たちが順番に起きてきた。用意しておいた服に着替えさせ、タクシーに乗り込み、一路昆明駅へと向かった。きょうの目標は、子どもたちを連
雲南旅行、2日目の朝。 ベッドでまだぐっすり眠っている息子たちを眺めながら、さて今日はどこへ行こう、と考えた。 メイさんが昨日、翠湖へ行くことを勧めてくれた。翠湖は昆明市の中心にある湖水公園で、今はちょうど蓮が見ごろだそうだ。伝統的な中国庭園が保存されていて、地元の人々にとって憩いの場でもあるらしい。あらためて地図を見ると、宿からもそう離れていなかった。今日はここにしよう、と決めた。 親子でタクシーに乗り込み、10分ほどで翠湖に到着した。正門の向かい側ににぎわっている飲食
昆明行きの飛行機はゆっくりと滑走路を進みはじめた。 機内は人々の話し声でざわついていた。その言葉の大半は、私にとって聞き慣れないものだった。少なくとも中国語のいわゆる普通話ではなかった。南国の風のようにからりとしていて、どこかけだるいボサノヴァのような響き。見た目から受ける印象も、漢民族の人々とはどこか少し違って見える。東南アジアあたりからの観光客だろうか、それとも、これから向かう雲南の地に多く住むという少数民族の人々だろうか。 飛行機が離陸に向けて加速をはじめた。窓際の
こんにちは。 岸 志帆莉です。 突然ですが、「脱・弧育て」や「シェア育児」といったテーマについて、お話やご意見を聞かせていただける方を現在求めています。 <お願いの背景>わたしは出版社勤務を経て、現在はノンフィクションライターとして活動しています。ここ数年は「脱・弧育て」「シェア育児」「チーム育児」などのテーマを追いかけています。 こうしたテーマを追っている背景には、わたし個人の過去の体験があります(以前、夫の単身赴任により一年ほどひとりで子育てをしていた時期がありまし
こんにちは。 こちらのnoteでは、全12回にわたり「わたしの転機をふりかえる」というテーマで連載をしてきました。 はじめはここまで長くなる想定ではなかったのですが、「転機」というテーマで振り返るといろいろなエピソードが出てくるもので、気づけば12回を数えていました。ここまでお読みいただいた方(がもしいらっしゃったなら)、本当にありがとうございました。 振り返ると、ささやかなものから大きなものまで、本当にさまざまな転機がありました。失業や出産といった大きなものから、友人
前回はこちら: ****** 2023年3月。たくさんの方々に支えていただいた思い出いっぱいの母子生活にひと区切りを打ち、家族で中国・江蘇省に引っ越してきました。 はじめて見る中国は、わたしにとって新鮮な驚きの連続でした。 飛行機の窓から見た中国大陸は黄色く、黄海もその名のとおり黄色でした。そのなかに赤の屋根や看板などが映えて、その色の取り合わせがまるで中国の国旗のように見えたことを今でも鮮明に覚えています。大地はうっすらと空気の層で覆われて、どこか謎めいていて、「な
前回はこちら: ****** 夫が中国に出発してから、母子3人の暮らしがはじまりました。当時、息子たちは3歳と0歳でした。 想像をはるかに超えて壮絶な日々のなか、体も心も早々に限界を感じるようになりました。家事の水準を下げたり「ヤメ家事」を実践したりして多少は良くなりましたが、根本的な解決にはなりませんでした。そこで、慣れないながらも少しずつまわりを頼ってみることにしました。 まずは幼稚園の先生方、保護者の皆さん、ご近所の皆さん。さらに、ベビーシッターさん、家事サポー