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たのしい、デバッグ

たのしい、デバッグ

信じられません。信じたくなかったです。

「………………柳谷」

 ぼそっと、こころが言いました。わたしを見て。どよんと濁った瞳で。殺伐としたオーラをまとって。冷たく感情の抜け落ちた声で。
 干渉をすべて撥ねつける、拒絶する態度で。
 わたしの、可愛い妹が。

「仕事中ですから。気安く話しかけないでください、大鳥さん」

 頭がくらくらします。
 時間が巻き戻ったような気がしました。
 あの頃に。

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ひと夏の選択(肢)

ひと夏の選択(肢)

 ひと夏の経験、という言葉があります。
 経験(値)で成長するのは〝RPG〟というもので。
 わたし達、ユリイカソフトが作ってるのは(葉亭さん達はまた別ですけど)
 ノベルゲームというもので。
 ノベルゲームは経験(値)ではなく
ストーリーの分岐、キャラクターの選択で成長するものなんだそうです(ほのかさん談)
 なるほど?
 ……すみません、よくわかってません。
 ともかく。だから。つまり。
 こ

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夜と鍋とキスの話

夜と鍋とキスの話

 キス。

 接吻。

 口づけ。

 ちゅー(……いきなり子供っぽくなって、すみません)

 それは。
 好きなひと同士がすること。わたしとこころがすること。
 よくすること。本当に……よくすること。

 年の瀬迫る、ある冬の夜のこと。

 ユリイカの寮のわたしの部屋で。
 おこた(炬燵です)に入って、湯気の立つ土鍋を挟んで、こころと向かい合って。こころは「ほふほふ」と美味しそうに鍋の具を頬張っ

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夢現の国のアリス

夢現の国のアリス

☆ ご注意︕ ☆
このSSはメタ的表現を多分に含む、夢現Re:Master本編とは異なる物語となっております。その旨ご理解頂ける方のみ、お読みください。
また、本編オールクリアを前提としておりますので、
まだの方は作品をオールクリアした後にお読みください。

そこは だれも しらないところ
せかい と せかい の あいだ
とおく ゆらぐ ふしぎのくに───

~はじまりのまえ~
アリス「ふぇ︕?

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夢現Re:Unification

夢現Re:Unification

――もう一度”逢える”のなら。優しい、キスを。

         1虹園寺の空は抜けるような春晴れ。
わたし、大鳥あい。ユリイカソフトのAD、アシスタントディレクター。
二年目の春です。

「さて、みな揃ったわね。それでは『ニエ魔女』ファンディスク制作に向けて第一回の会議を行います」

会議室にそろったわたし達に向かって、社長、ほのかさんが言います。
襟を正して、厳かな口調です。
なんだか、らし

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夢現Re:入院生活

夢現Re:入院生活

いつだって、
  わたし達は、手を伸ばしています。
    ―――あの星空に。



帝都と、実家のある街はずいぶん違います。
都会と田舎。
ひとことで言ってしまうなら、そういうことかもしれませんけども。目に映る景色の色が違う。耳に入る音の数が違う。ひとの多さが違う。車の多さが違う。夜の明るさが違う。同じところを探すほうが難しくて。
でも。
そんな帝都に出てきて、そろそろ一年。三月。春の近づく、

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真夜中のふたり ほのか×さき

※『夢現Re:Master』感想コンテスト賞品SSとなります。
▼本作の詳細はこちらよりご確認ください。▼

――これは運命が動きだす、前夜のお話――

          *****

 いつだって、無限堂さきと醍醐ほのかの間には、“彼女”がいた。

「こんばんー。あ、やっぱり、さきちゃん起きてた」

 0時を回った深夜。
 ユリイカソフト社長、醍醐ほのかが酔ってない状態で真夜中のオフィスを訪れ

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死と罠のユリイカソフト〜眠れない不夜城の探索〜

死と罠のユリイカソフト〜眠れない不夜城の探索〜

※注意
 本書は「ゲームブック」の体裁をとっていますが、いわゆる”なんちゃって”であり、いわゆるゲームブック”風”というやつですので、深く考えず、気楽にお楽しみください。
                         ――――筆者より。

               【1】
帝都東京、虹園寺。
急行が停まらないその街の一角に、小さなゲーム制作会社があった。あなたは今日、そこに〝会社案内〟を受

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夢現Re:Master前日譚_「Ever starting Games」

夢現Re:Master前日譚_「Ever starting Games」

―――ね、ゲームとわたし、どっちが好き?

          1

初めてプレイするゲームの、タイトル画面で。
スタートボタンを押す。
そのときの緊張感が好き――と、こころは言っていた。 

***

大鳥あいには、忘れられないゲームソフトがある。

『スーパーマリコシスターズ』通称「スーマリ」。
買ったからには、どんな”くそげー”も完全クリアするのが真のゲーマーだよ!と、いつも言っていた妹ここ

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虹園寺シスターアラート

虹園寺シスターアラート

“濃厚接触”って、やっぱりちょっと、なんていうかちょっと……ですよね……?

          ***

 終わります。終わってしまいます。
 なにが?
 みなさん知っての通り、例のあれです。緊急な事態が宣言されていた、あれです。早くありませんか。「すてい」してなくていいんですか「ほーむ」に。
 あんなに大々的に謳っていたのに。いいものですよ、「すてい・ほーむ」。というか、わたしと妹は律儀に、き

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『神様のメモ帳』についてあれこれ

『神様のメモ帳』についてあれこれ

『神様のメモ帳』1巻の発売年を藤島鳴海高校一年生の年だとすると、今日は彼の30歳の誕生日ということになる。ついでにアニメ放映からちょうど10年が経ったし、なんとなく節目の年だ。なにか書いておこうかな、と思い立ち、(おそらく最後の)短編一本と、備忘録の意味も込めてそれぞれの巻を書いたときのあれこれを思い出せる限りここに書き記した。

短編の方はカクヨムにアップしてある。

以下、全巻解説。当然だがネ

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