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兄が脳幹出血で倒れてからの日記

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高血圧の人は今すぐ通院してほしい
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#兄弟

2022.06.23/四十九日餅

2022.06.23/四十九日餅

法事に向けた準備なんて気が重いことを律儀にできるわけもなく、当日の朝、性懲りも無くバタバタと喪服の用意をした。先に家を出る両親を横目に、一人で身支度を整える。出発の予定時間を勘違いしていたので10分遅れでお寺に到着する。

兄の死を受け入れている自分と、受け入れられない自分が交互にやってくる。前者は「子どもや配偶者を亡くした人に比べれば、この悲しみは軽いものだ。どれだけ悲しもうが死んだ人は蘇らない

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2022.06.09/賽の河原

2022.06.09/賽の河原

知人の展示を観に湯河原へ向かった。物心ついてから湯河原へ初めて行ったのは、数年前に兄が仕事で作業中に、高いところから川へ落ちて湯河原の病院へ入院したときだった。お見舞いがてら遊びに行ったことも数回あるが、なぜかうまく遊べず楽しめなかった。それからずっと足が遠のいていた。

そのときの兄は幸い命に別状はなく、両足首の骨の複雑骨折で済んだ。相当痛かっただろうし、打ち所が悪ければ死んでいたし、しばらく歩

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2022.05.24/若葉、曙、産声、大地

2022.05.24/若葉、曙、産声、大地

葬儀が終わった。やはり母がいちばん泣いていた。父も弔辞を読む時に嗚咽していた。息子の葬式の喪主を務める瞬間とは、どういう絶望なのだろう。息子の冷たくなった顔に触れるときは。息子が乗った霊柩車に同乗するときは。息子の身体が焼かれるのを見送るときは。息子の骨を箸で骨壷に入れるときは。私にはわかることができない。ただ私が抱えるものより遥かに大きく、底が深い穴であることは想像できる。

お通夜の前に、兄の

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2022.05.20/分かること、分からないこと

2022.05.20/分かること、分からないこと

兄のスマホからありとあらゆる定額サービスを脱退したり、アカウントの持ち主を自分に移行させたりした。スマホの暗証番号は兄の誕生日4ケタだった。分かりやすすぎる。でもたしかに、見られて困るものも何もないんだろうな。

と思って勝手に、SNSからメッセージまで全部のぞいた。死後、これをやられたくない人は今すぐ他人が解明できないパスワードに変えた方がいい。

兄の交友関係、というかそもそも人間関係がほとん

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2022.05.19/残り香

2022.05.19/残り香

昨晩の病室での母の言葉を思い出す。

「ほんとうは私たちが死ぬのが先なのよ」
「代われるものなら代わってやりたい」
「私たちのために意識がなくなってもがんばって生きてくれた」
「やさしい子だった」
「何が好きとか、具合が悪いとか、何にも言わないんだもんあの子」
「まだ魂だけでも、そこにいてくれてたりしないかなぁ」

息を引き取る直前の兄を見たとき、また一回り小さくなっていた。本当はこんな骨格をして

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