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小説

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小説まとめです
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#BL

シェイプシフター

 ただ踏むだけの地面を大理石にする理由がわからない。汚したくないのなら、汚れてもいいのなら、高級な床などなければいい。
 草壁智はヘラを握りながら、ロビーの大理石の床に目を落としていた。ぼけた薄青の作業着に身を包み、光を宿さない目をした青年は、人が行き交うのに何故、自分が掃除をしているのかを考えた。
 高層ビルの中に存在するオフィスに行くために、スーツ姿や、オフィスカジュアルの人間が次々ゲートに吸

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ss 「星の男」

星の男

 それは美しい男だった。この世すべての星屑を集めて光っているような人間は、街の広告になっている。
 都会の人混みの中、笑みを浮かべてそれを眺める男がいた。
「どうだ、自分の顔が見下ろしている気分は」
 隣の男に語りかける。猫背になったその青年は、広告の美しい男と同じ顔をしていた。
「……でも、つくりものだ」
「ばか。いまはこれがおまえの顔だよ」
 美しい男の腿を蹴る。彼はよろめいて、う

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あそこにベンツが停まっていますねから始まるBL 2

あそベン2

 広い。高級なにおいがするミスト。応接間でも座ったことのない質のいい革のソファー。流石にドラマで見たような果物はなかったが、高瀬の足元にワインの瓶の影が見えた。
 高橋は目ばかりを忙しく動かす。どこに行くのかもまるで尋ねる暇もなく成り行きで乗りこんだリムジンは、一体どこへ向かうのだろう。
「……あの、すごい、ですね……」
「リムジン?」
「はじめて、乗りました……」
 恐縮しきる高

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「あそこにベンツが停まっていますね」から始まるBL

あそベンBL

「失礼。煙草いいですか」
 顔色の悪い、よれたスーツを着た男から声をかけられた。ぼんやりと座っていた眼鏡の男は、少し慌ててあたりを見渡した。公園には子連れの親が数人いたが、距離は離れていた。
「ええ、どうぞ」
 身を縮めて、ベンチの隣を空ける。
 顔色の悪い男が首にかけているストラップが、同じ会社のものだった。
 見たことがない。階か部署か、異なるのだろう。
 男はどっかりと腰を

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