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成人発達理論を組織開発の文脈で実践するために

もうすでに3年以上も経過していた。
『2018年3月1日開催 組織開発×成人発達理論講座 開講記念セミナー』

「組織開発(OD)×成人発達理論講座」開講に先立ち、本講座の監修を担当した知性発達科学者の加藤洋平氏をオランダからオンラインでつなぎ、講座メイン講師を務める立石慎也氏とのインタビュー形式で成人発達理論の系譜や、「個人」の発達段階と「組織」発達段階のプロセスや関係性について、話を聞かせてもらった。

 3人の発達心理学者(ロバート・キーガン博士、オットー・ラスキー博士、カート・フィッシャー博士)の成人発達理論をカバーしながら、組織開発の文脈で成人発達理論を実践する方向性を探るという本当にチャレンジングな講座だった。成人発達理論に関するプログラムは僕の方で作成し、全て加藤洋平さんにレビューしていただき、このイベントに際しても洋平さんと打ち合わせを重ね、当日のテーマも全て用意して臨んだのだった。
 この学習と実践と省察によって僕自身の学びは確実に深化はした。同時に、「知らない領域」と「問い」は膨れ上がったけれど笑。
   全ての関係者に心より感謝している。

今後は「芸術と人間発達」も探究していきたい。 3月1日のイベント(満員御礼受付終了)では、加藤洋平さんからそんなお話も伺えそうです。 まだまだ氷点下のフローニンゲンからお打ち合わせありがとうございました^^

Posted by 立石 慎也 on Sunday, February 25, 2018

 日本アクションラーニング協会さんの当時の記事を引用しながら、いつものようにつぶやきつつ簡単に振り返りたい。


アクションラーニングはオンラインで学ぶことができる

僕がシニアアクションラーニングコーチ資格を取得した際の研究テーマは『発達志向型アクションラーニング』。僕自身は、コーチング(通常の1対1)においては発達志向型は選択しないけれど、アクションラーニングにおいてはなぜ発達志向なのか?そのテーマについては、また別の機会に書いてみたい。


キーガンとラスキーの発達理論のコンセプトや対象領域の違いとは?

 加藤氏によれば、ラスキーとキーガンの発達理論のとらえている射程は「間違いなく違う」とのこと。
 キーガンの大きな功績は、人間が自己や社会をどのように認識しているのか、経験に対してどのような『意味づけ』を行っているのか、という機能の発達段階(自己認識の発達段階)を明らかにして理論化したことで、意味づけが変わる時、その人の「視野」が拡大し、物事を広く、深く捉えることができるようになっていると考えられている。
 一方ラスキーは、キーガンの理論を「より洗練」させた、といってもいいもの。ラスキーは、もともとハーバードにいた発達論者であるマイケル・バサチーズの理論を取り入れ、『思考』や『意識』そのものではなく『認知』の世界に着目し、認知・思考パターンを理論化した。
 ラスキーとキーガンの理論の最も特徴的な差異は、キーガンやバサチーズが垂直的な人間の心の成長(いわゆる、人間としての「器」の成長)だけでなく、「精神やパーソナリティといった側面にも着目したことであり、人間を無意識に抑圧しているものや個性といったパーソナリティにも着目した理論や能力測定モデルを提唱した」点とのこと。

オットー・ラスキー博士は、ロバート・キーガン博士の理論を、3つのサブシステムからなる変動的なシステムに深化させた。
その3つとは…
1)『社会的感情的発達段階(ステージ)』
2)『認知的発達段階(フェーズ)』
3)『心(ニーズ、プレス(抑圧))』

コーチング、とりわけ発達志向型アクションラーニングにおいて主に介入するのは、2つ目の『認知的発達』になる。


カート・フィッシャーのダイナミック・スキル理論について

 続いて、加藤氏著の『成人発達理論による能力の成長:ダイナミックシステム理論の実践的活用法』(日本能率協会マネジメントセンター)でも扱われているフィッシャーの「ダイナミック・スキル理論」の特徴や、キーガンとフィッシャー理論の学術的な違いなどについて話してもらった。
 フィッシャーのダイナミック・スキル理論は、具体的なスキルを対象として、これらのスキル能力の発達プロセスを数理モデルやコンピューターシミュレーションによってモデル化し、人間の複雑な思考や行動パターンを分析している。
「キーガンは自己認識力と他者認識力の成長に着目し、フィッシャーは私たちが社会生活を営む中で発揮する諸々のスキルの成長に着目している」(加藤洋平、発達理論の学び舎、2015年7月24日付“人間としての器の成長と実務能力の成長“より)といえる。
 そして、フィッシャーの定義している「スキル」は「具体的な文脈における具体的な課題に対して発揮される、思考・感覚・感情から生み出されるもの」であり、「フィッシャーの発達思想の根幹を成すものは「人間の活動は組織的かつ変動的なものであり、活動を通じて発揮されるパフォーマンスレベルは文脈に応じて動的に変化する」」というものである(加藤洋平、発達理論の学び舎、2014年5月5日付“カート・フィッシャーのダイナミック・スキル理論が持つ発達に対する根幹思想“より)
「スキル」というカタカナを見たとき、私たちはそれを、何か表面的・固定的な技術のように捉えてしまいがちだが、フィッシャーは、スキルを肯定的、静的に見るのではなく、私たち人間が置かれた文脈の中で発揮する認知や行動と切っても切れない、いわば「動的」なものと捉えている点が特徴といえる。そのような解釈を裏付ける表現として、フィッシャーは「スキルとは存在である」(加藤洋平氏 発達理論の学び舎,2017年10月10日付“カート・フィッシャーが定義する「スキル」の定義“より)とも言っている。
 私たち人間は、多様な能力を持っているが、どのような環境に置かれているか、周囲にいる人間との相互作用・関係性によって、そこで生み出される思考やひいては、発揮できる能力・スキルは変わってくる。そういった意味で、フィッシャーの述べる「「ダイナミック・スキル」は「動的に変化する自己」だと捉えた方がいいように思う」と加藤氏は述べている(加藤洋平氏 発達理論の学び舎,2017年10月10日付“カート・フィッシャーが定義する「スキル」の定義“より)。
 加藤氏がフィッシャー理論に出会ったのは、マサチューセッツ州にある人間発達の研究機関レクティカという研究機関にいた時だった。
 レクティカは、フィッシャーの理論を使って組織、企業、学校組織にアセスメントとトレーニングプログラムを提供していた。これをきっかけに加藤氏は「フィッシャーの理論に注目するようになった」。
 意識の深層的な機能レベルを、1カ月間で発達段階3から4にすることは非常に難しい。「キーガンが取り扱っている発達領域は非常にデリケート」であり、人間の器の発達には長い年月がかかると考えられている。
 加藤氏によると、フィッシャーは、人の成長、スキル発達においては現段階の発達段階を把握したうえで、小さなアクションを積み重ねることが非常に大切だということを説いており、発達を急がせることの危険性はフィッシャー理論においても同様に認識されているが、「発達が起きる場をつくり個人個人が小さな発達を積み重ねていく」ことをファシリテートしていくことが鍵になるとのこと。


ラスキーとフィッシャーの捉え方の違いについて

 ラスキーは、能力を「コンピテンシー」、「キャパシティー」、「ケーパビリティ」という3層でとらえている。ラスキーは能力を「have(保持・所有している)」という観点で捉える。一方、フィッシャーは、能力を「Being(存在)」と捉える。
 「私たちは能力を所持しているのではなく、能力は環境に埋め込まれており、私たちの存在がまさしくそこにある」と考えているのがフィッシャーであり、「Having」 と「Being」という捉え方の違いは大きい。

『個』がその構造を内面の保持している(Having)という捉え方と、『場(環境』に動的なシステムとして組み込まれている(Being)という捉え方。
 内面に局在化・結晶化しつつ変動しているという観察も、全体性に遍満しているという観察も美しい。どちらも大切にしたい視座。


フィッシャーが言うところの「Being」としてのスキルをどのように測定・評価するか

 「スキル」を「存在」や動的な心の構造捉えながら、そのような絶え間なく変化する動的なスキルを実証的に計測・評価し紐解いているのがフィッシャーである。「実証的に」という点がフィッシャーの大きな功績といえる。
 フィッシャーは、企業組織が社員の能力開発体制を構築する際、文脈を規定したうえで評価できるアセスメントモデルや、各種文脈に基づいて能力を発揮できる機会や教育プログラムを構築してきた。
 加藤氏によれば、「私たちの能力が長方形のような領域であったとき、キーガンやラスキーは垂直で能力様式を説明する。フィッシャーは、縦ではなく横軸。縦軸を図るために普遍的な共通な物差しを考えたというのがフィッシャー」であるとのこと。
加藤氏の説明をもう少し補足すると、発達測定を行う場合、フィッシャーの発達測定手法とキーガンやラスキーの手法は特徴が異なる。詳細な説明はここでは割愛するが、簡単に言うと、キーガンやラスキーの測定手法は、ある「特定の領域」に的を絞り、その特定領域内での発達を計測する、というもの。
 一方フィッシャーの場合、特定領域を対象とするのではなく、あらゆるスキル領域の発達を計測することができるという。
 フィッシャーが提唱するダイナミック・スキル理論においては「どんなスキルもそれが発達する際に共通の発達パターンを持っており、ダイナミック・スキル理論の測定手法は、そうした共通のパターンを測る物差し備えているからです。」(加藤洋平氏 発達理論の学び舎,2014年5月21日付“発達測定の共通の物差し:領域特定的な測定手法と領域一般的な測定手法の違い”
「(スキルの)固有の成長プロセスを明らかにしてトレーニングプログラムを設計できるようにしたのがフィッシャーのすごいところでそれを具現化しているのがレクティカ」と述べる加藤氏。

 ダイナミックスキル理論の醍醐味は、多様で個別具体的な能力を言語によって操作するメタ能力は、普遍的に評価できるというところ。コーチングや組織開発において、「その能力をどの言語レベルで操作しているのか?」という視点に基づく介入は明瞭であり実践的でもある。


組織の発達プロセスについて

期間など
 通常、個人が発達段階を上げるには15、20年というまとまった期間が必要となるといわれている。組織の場合はさらに数十年といった単位が求められる。加藤氏も「組織や社会全体の発達には長大な時間がかかると思う。」と述べつつ、「個人が集まった相互作用のところに、組織開発の妙があると思う。」と語った。
 組織の意識段階の支援は、複雑なプロセスを要し、かつ緩やかなプロセスを描くため期間は長くなることが一般的に想定される。一方で、「組織の構成員の人がどう相互作用するかによって、もしかしたら6か月後に組織として大きな変容があるとも考えられる。」とのこと。
 これは、いわゆる「Emergence(創発)」であり、「(組織内)メンバーがダイナミックインタラクションして想定していなかったプロセスにジャンプする、短期間のうちにそれが起こりうる可能性も残っている。」という。
これは、先に述べた組織は「個の総和」にはならない、という見解に立脚しているものである。

 より複雑さを増す組織においては、その複雑性ゆえに、発達のポテンシャルもリスクもあるということ。この洋平さんの回答を単純に”いける!”とシンプルに解釈できるなら、それはまだ発達に関する介入の準備が調っていないシグナル。

『ティール組織』について

知性発達科学者から見たティール理論は?
 書籍『ティール組織』(英治出版)フレデリック・ラルー、嘉村賢州、鈴木立哉(翻訳)がもとにしている理論は、「スパイラル・ダイナミクス理論*」であり、ドン・ベックが提唱した理論だが、もとは社会学者のクレアグレーブス、ジーン・ゲブサーの発達理論をもとにつくられた。
 加藤氏によれば、スパイラル・ダイナミクス理論の信頼性と妥当性は低いとのこと。レクティカがさまざまな発達理論とそれらに付随しているアセスメントの質を調査したところ、スパイラル・ダイナミクス理論は「かなり簡易的な測定手法」をとっていることがわかった。
 スパイラル・ダイナミクス理論のアセスメントとは、簡易的なチェックボックスで調査を行っている。本来重要視されるべきは、「チェックボックスで測定されえないものを測定する」という発想、つまり、言語や行動を生み出す「心の構造」の測定を試みることだが、その視点は現状カバーされていないとのこと。

 ティール組織を自社で実践しよう、何かの支援をしようとされてらっしゃる方にもお届けしたい内容。組織の発達を厳密にアセスメントできる日は来るのだろうか。個人でさえその精度を極めるために、全体(人間性)ではなく部分(特定の文脈における能力)に限定しているというのが現状ではないのかな。


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