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36年の嘘~上海列車事故~第2章「変な事故」

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正面衝突と物理法則

 列車同士の正面衝突。その言葉から想像される光景と、上海列車事故の実態。そこには大きな隔たりがある。

 通常、列車の正面衝突では先頭車両、それも前に進むにつれて被害が大きくなる。これは単なる常識ではなく、物理法則に基づいた現象だ。しかし、上海列車事故では、この「当たり前」が覆された。なぜ、中間車両に被害が集中したのか。この疑問は、鉄道の専門家でなくとも、誰もが抱くはずだ。

 本章冒頭の画像は1991年5月14日に発生した信楽高原鐵道列車衝突事故の現場写真である。30年以上経った今でも、その悲惨な光景は多くの人々の記憶に焼き付いている。私自身、当時わずか4歳だったにもかかわらず、テレビに映し出された惨状を鮮明に覚えている。
 この信楽高原の事故こそ、悲しくも「教科書通り」の列車正面衝突だった。先頭車両に近づくほど被害が拡大する——これは物理の基本原理に従っている。

 運動量保存の法則により、衝突時のエネルギーは先頭から後方へと伝わっていく。先頭車両が最大の衝撃を受け、後方に行くほどその影響は小さくなる。つまり、正面衝突では「前に行けば行くほど被害が大きくなる」のが自然なのだ。

 しかし、上海列車事故はこの常識を完全に覆した。

上海列車事故の被害状況概略図

 両列車とも、先頭車両ではなく中間車両が大きく損壊している。29名の犠牲者のうち、28名が311号列車の3両目で亡くなった。残る1名も208号列車の2両目付近だった。驚くべきことに、双方の先頭車両からは一人の犠牲者も出ていない。

上海列車事故で正面衝突した双方の機関車。

何の意義もない中国政府の公式見解

 中国政府は上海列車事故の事故原因について、311号列車の運転士による停止信号の見落としによるものと断定している。当時、この路線は単線区間であり、311号列車は匡巷駅の待避線に入って停止し、対向してくる208号列車との行き違いをする予定だった。しかし運転士が待避線の停止信号を見落として停止せず、急ブレーキをかけるも間に合わずに本線に進入して208号列車と正面衝突したというのが中国の公式見解である。

事故現場付近概況

 後の章でも述べるように、この運転士による赤信号見落としには大きな疑義がある。しかし仮に中国の公式見解が事実だったとしても、なぜ物理法則に反する被害状況になったのかについては、今に至るまで何一つ説明がないのだ。

 中国は「法律よりも、仏よりも共産党が上にある」と揶揄される国だ。しかし、どんな政治権力や宗教的権威をもってしても、物理法則を曲げることはできない。科学の法則は絶対だ。
 この絶対的な物理法則に大きく反するように見える上海列車事故。それはあまりにも不可解で、ありえない事故ではないだろうか。

 失われた命、奪われた未来——もはやそれらを取り戻すことはできない。金銭で解決できる問題でもない。しかし、せめて亡くなった人々の墓前に、なぜ、どのようにして突然命を絶たれなければならなかったのか、その真実を伝える必要があるのではないだろうか。

高知学芸高校正門付近に建てられた上海列車事故慰霊碑「永遠の碑」

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