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大学生向け「アントレプレナーシップ教育」を考える。

"アントレプレナーシップ"を持つ人材を育てていこうという動き(期待)が、行政・教育・産業の各セクターから出てきています。背景には、VUCAの時代と呼ばれるような不確実性の高い時代を生き抜いて行かねばならないという時代の要請があると思われます。"アントレプレナーシップ"とは何なのか?その意味・意義とは?といった点について、「アントレプレナーシップ教育」の元受講者として、現実践者としての立場から考えていきたいと思います。


1. 「アントレプレナーシップ教育」とは

▷"アントレプレナーシップ"の定義

そもそも、"アントレプレナーシップ"とは何を意味する言葉なのでしょうか?

"アントレプレナー"の語源は、フランス語において貿易商や仲買人を意味する「Entrepreneur」からきているといいます。この言葉が時代の変遷の中で、起業家や創業者といった意味合いへと変わってきたという解釈がされています。"アントレプレナーシップ"は、起業家や創業者的な思考性という点から日本においては「起業家精神(企業家精神)」と表されることが多いようです。

そして、辞典や学者による定義としては、下記のように表されています。

企業家精神。新しい事業の創造意欲に燃え、高いリスクに果敢に挑む姿勢。

出典:デジタル大辞泉

イノベーションを武器として、変化の中に機会を発見し、
事業を成功させる行動体系

ピーター・ドラッカー(経営学者)

イノベーションを遂行する当事者

シュンペーター(経済学者)


▷"アントレプレナーシップ"の発揮に必要なスキル

続いて、"アントレプレナーシップ"を具体的スキルの面からみていきます。

ここでは、ヨーロッパ委員会(Education, Audiovisual & Culture Executive Agency)の調査レポートのフレームワークを引用します。

*引用:Entrepreneurship Education at School in Europe(ヨーロッパ委員会,2016) https://publications.europa.eu/resource/cellar/74a7d356-dc53-11e5-8fea-01aa75ed71a1.0001.02/DOC_1

ヨーロッパ委員会が2016年にヨーロッパ各国のアントレプレナーシップ教育の実態を調査したレポートでは、"アントレプレナーシップ"を「Skill(スキル)」「Knowledge(知識)」「Attitude(態度・マインド)」から検証しています。

○ Skill(スキル)
 ⇨計画性・有限資源管理・チームワークなど

○ Knowledge(知識)
 ⇨財務リテラシー・機会発見・起業家の役割・起業とキャリアなど

○ Attitude(態度・マインド)
 ⇨自信・主体性など


▷「アントレプレナーシップ教育」とは

本章では、「アントレプレナーシップ教育」を考えるに際しての前提として、"アントレプレナーシップ"の定義及び、"アントレプレナーシップ"の発揮に必要なスキルについてみてきました。

定義・スキルいずれの点においても、確立されたものはなく、まだまだ検証段階の新しい教育であるものの、『自らリスクをとり行動を起こすイノベーションの主体』という人物像が浮かび上がってきました。



2. "アントレプレナーシップ"はなぜ必要か?

前章では、「"アントレプレナーシップ"とは?」について読み解いてきました。
本章では、「なぜ、今、"アントレプレナーシップ"なのか?」という社会の潮流について、みていきます。


▷個人編

現代は、不確実性が高く将来の見通しが立てにくい「VUCAの時代」、長寿化に伴う生き方・働き方の変化が生じる「人生100年時代」と言われています。こうした時代を生きていくためには、学校を卒業し就職したら終わりではなく、自身のキャリア(人生)を自身で定義していくという(主体性を持つ)"アントレプレナーシップ"を持つ人材が求められています。


▷学校編

行政・企業といった外部からの要請による影響を受けての取り組みという側面が大きいものの、大学における"アントレプレナーシップ"を持つ人材育成という点においては、研究シーズを活用した事業化を通じた稼げる大学へという期待も窺えます。


▷行政編

日本は、2008年をピークに人口減少社会に突入。今後、国内市場の縮小+労働人口の減少が見込まれます。また、震災・コロナ禍などが契機となり、さまざまな社会課題が顕在化してきています。こうした社会構造の変化に対応しうる人材という面で"アントレプレナーシップ"を持つ人材が求められています。

<実施施策>
2014-2016年度:グローバルアントレプ レナー育成促進事業 (EDGE)
2017-2021年度:次世代アントレプレナー 育成事業 (EDGE-NEXT)
2021-2025年度:スタートアップ・エコシステム 形成支援
*参考:https://www.mext.go.jp/content/20210728-mxt_sanchi01-000017123_1.pdf(文部科学省,2021年)


▷企業編

日本企業の国際競争力は、年々下がっており(IMD「世界競争力年鑑」によると1990年代前半は1位であったものの、2020年には34位と大幅に下落。)、その背景には、「国際化対応の遅れ」「生産性の低さ」などが挙げられています。国内市場が縮小する中、既存事業だけに止まらず、時代を機敏に捉え、新たなトライをしていく"アントレプレナーシップ"を持つ人材が求められています。



3. 「アントレプレナーシップ教育」 -元大学生の視点から-

前章では、社会の潮流として「アントレプレナーシップ教育」が求められている理由についてみてきました。
本章・次章では、「アントレプレナーシップ教育」の当事者として、元大学生と元実践者の立場から、何を思い・感じたかを書いていきます。

はじめに、「アントレプレナーシップ教育」を1学生として受講した元大学生の立場から、当時を振り返っていきます。

岩手県の大学に通う大学生だった当時、参加したのは、文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」として実施された「いわてキボウスター開拓塾」というプログラムでした。

*文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」:https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/coc/
*いわてキボウスター開拓塾 HP:http://cocplus.iwate-u.ac.jp/about/kiboaster/

引用:いわてキボウスター開拓塾 HP


▷活動内容

地域の若手起業家の提示するお題(プロジェクトテーマ)を参加学生がチームを組んで取り組むという6ヶ月間のプログラムでした。(その他、ビジネスに関係する講義やフィールドトリップも。)

自分たちのチームは、岩手県花巻市を拠点にリノベーション町づくり(遊休不動産を活用したエリア価値向上)を手がける株式会社花巻家守舎 代表取締役の小友康広さんと『上町エリアで遊休不動産オーナーと事業者をマッチングさせる。』をテーマに活動を行いました。

活動では、実際に地域を歩き遊休不動産に係る実態調査をしたり、仮説に基づくインタビュー調査をしたり、ビジネスプランを考えたり、地域の方たちとWSをしたりといったことに取り組みました。

最終的には、「花巻市の中高生が地域との繋がりを感じ、チャレンジしたいと考える機会・きっかけを提供する」との目標のもと、元カフェだった遊休不動産を活用したカフェ事業「Grow cafe」の構想を発表しました。

チームを組み、お題を考える
地域の方たちとのWS
事業構想を提案「カフェ事業「Grow cafe」」


▷活動を振り返って

当時、チームとして目指していたカフェ事業構想の実現は実現させることはできませんでした。(今、改めて考えて見ると想い・覚悟がなかったからだろうなと。)

とはいえ、何も得るものがなかったかというとそんなことはなく、

(在学中)
遊休地を活用し、学生が生産〜販売まで一貫して実践する畑づくり「遊休地活用プロジェクト-畑ラボ-」をプログラム同期と立ち上げ

(卒業後)
IT関連事業やアントレプレナーシップ教育事業を展開する会社「株式会社カルティべ」をプログラム卒業生らと立ち上げ

などなど、プログラムでの繋がりがきっかけとなり、様々なチャレンジをすることができました。

また、プログラムで出会った企業に就職し、岩手に残るという決断をしたということを思うと、このプログラムがあった影響は大きかったのだなと。

これらの振り返りを踏まえて、「アントレプレナーシップ教育」を通じて得たものを、あげるならば『繋がり』の一言に尽きるのではないかと思います。プログラムを通じ、同じ思考性を持つ同世代の仲間と出会えたからこそ、その後のチャレンジに繋がり、岩手という地域で面白いチャレンジをするオトナの方と出会えたからこそ、大学を卒業しても岩手に残り働く・暮らすという選択をしたのだと。



4. 「アントレプレナーシップ教育」 -現実践者の視点から-

次に、「アントレプレナーシップ教育」を行政と共に企画運営をする元実践者の立場から、R3年度・R4年度に仙台市事業として実施した(する)、大学生向けプログラムについて書いていきます。


▷事業内容

仙台市では、震災以降顕在化してきた東北の社会課題をビジネスを通じ解決することを目指す社会起業家の育成・支援事業を2017年から行っています。その一環として、次世代人材育成を目的に実施するのが「Social Innovation Accelerator College(SIAC)」です。

○R3年度事業(SIAC1期)
アクセラレータープログラムに参加する『東北の社会起業家』に伴走しvisionやビジネスモデル検討のサポートや取材活動を同世代の仲間と共に取り組む6ヶ月間のプログラム。


(R3年度事業⇨R4年度事業でのアップデートPoint)

R3年度事業は、"学び"の比重が高いプログラムでした。R4年度事業では、"実践"の比重を高くすることに加え、プログラム終了後も継続して、東北との接点を作っていける「場」づくりの要素を取り入れています。

<今年度プログラムの3つのPoint>

☑︎総勢16名の東北の社会起業家を”ビジネス”と”キャリア”の2軸から
⇨社会起業家の事業課題解決や新規企画に向けて協働する3ヶ月の実践型PJ
⇨社会起業家のWhyを深ぼる取材活動+トークイベント

☑︎実践⇄内省の反復を
⇨visionWSやキャリアモデルWSを通じた内省機会の提供
⇨2ヶ月に1度の1on1面談を通じた内省機会の提供

☑︎仙台・東北との継続した接点創出を
⇨プログラム終了後のチャレンジ応援の「場」
⇨プログラム卒業後も(大学卒業後も)ゆるく仙台・東北と繋がれる「場」
*公式LINEを通じたコミュニティ運営。

そして、今年度プログラムでは、自身が大学時代に参加した「起業家人材育成プログラム(キボスタ)」の先輩方にも、参画いただいています!


○R4年度事業(SIAC2期)

『東北の社会起業家』と共に課題解決に向けてアクションをする実践型プロジェクトや取材活動を同世代の仲間と共に取り組む6ヶ月間のプログラム。


▷事業への想い

本プログラムでは、”起業家人材育成”を謳っていますが、その出口としては、「自分自身のキャリアに対しオーナーシップ(=自分軸・ありたい姿)」を持つ学生の輩出を掲げています。

そして、その結果(手段・選択肢)として、起業・社内起業・事業承継・ライフワークとしての団体運営などが出てくるのだと考えています。

とはいえ、最初から、自身の自分軸やありたい姿を明確に持つというのは難しいです。

自分自身の経験を振り返ってみると、大学時代に参加した「起業家人材育成プログラム」などがきっかけとなり、東北の人・地域・産業に触れ・多くを学び、東北で働く&暮らすことに”ワクワク”を感じたからこそ、こうして、今、東北で仕事をしているのだと感じています。

人・地域・産業が持つ多様な価値観や行動に触れることで、揺らぎながらも自分の"ワクワク"を見出していくことができる(解像度を上げていける)のではないか。

そのために、
・仙台・東北を様々な角度から切り取り、接点を提供していくこと
・”ワクワク"のSeedsとなるような機会提供をしていくこと
(”ワクワク"のアンテナに刺激を当てる!)

こうした、接点・機会の提供をとの想いで、INTILAQの強みである「東北」×「ソーシャル」の切り口から、プログラムを企画しています。

東北は、東日本大震災の影響で日本の他の地域と比べても社会課題が先鋭化した“課題先進地”となりました。 INTILAQでは、2013年以降、『東北で起業家が生まれ育つエコシステムの創造』をミッションに掲げ、多様化・複雑化する社会課題解決に挑戦する起業家が生まれ、育ち、そして後輩たちのロールモデルになっていく、そんなエコシステムを創っていくことこそが真の復興と地域の成長に繋がる、そう信じて活動をしています。仙台市をはじめ多くの行政・企業・団体の皆様と協力・連携をしながらこれまでに100名以上の社会起業家の立ち上げ・成長支援を実施してきました。このように、「東北」には、様々な社会課題が顕在化しており、課題解決に向けチャレンジをする多くの社会起業家が存在するという地域性があると考え、この「東北」の地域特性である「ソーシャル」を軸としプログラムを設計しました。



5. 「アントレプレナーシップ教育」の意味とは

学問的な定義・社会の潮流・元学生として・現実践者として、様々な切り口から「アントレプレナーシップ教育」をみてきました。

「アントレプレナーシップ教育」と一括りに言っても、
・ビジネスモデル論や財務リテラシー論などというような学問的アプローチ
・地域行政(自治体)と行う実践的アプローチ(#地方創生、#町づくり)
・地域企業(ローカル企業)と行う実践的アプローチ(#ローカル、#地域産業)
・地域企業(ソーシャル企業)と行う実践的アプローチ(#ソーシャル、#社会起業)
様々なアプローチがあるわけです。

どのアプローチが正解だということではなく、
こうした様々なアプローチでの学び・実践を繰り返すことで、
『学生が地域・社会に多角的に触れ、重層的に理解をしていく』こと。
すなわち、『学生と地域・社会を混ぜていくこと』が大切なのだと思います。


ー仙台・東北を起点に、
若者がワクワクと挑戦できるエコシステム実現に向け1歩1歩ー


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