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エッセイ・評論など

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音楽、その他の芸術や社会問題についての評論やエッセイなど。力を入れて書いたものから、気軽に一気に書いたものまで。とりとめのない雑感も。
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#現代音楽

生の哀しみ──向井響の新作「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ」

生の哀しみ──向井響の新作「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ」

 生は、始めさせられてしまったものである。自ら望んでこの世に生まれるということは、誰にもできなかったはずだ。私という存在は、存在させられたのである。自分が生まれ、生きていることにたいして、一度も疑念を抱いたことがないという人でも、この前提を否定することは、決してできない。
 私は特に反出生主義者を自認しているわけではない。けれども、自分のものであれ他者のものであれ、生の過程で直面する苦悩の根源を探

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「死者の声」は聴けるか?──三善晃の音楽

「死者の声」は聴けるか?──三善晃の音楽

 作曲家の故三善晃氏の音楽を最初に聴いたのは、大学一年のときだったと思う。ある授業で、その年に逝去された氏への追悼として、一度、内容を変更して氏についての講義になり、童声合唱とオーケストラのための『響紋』がかけられたのだった。作品については後述するが、そのときに私が受けた衝撃は大変なものだった。「現代音楽」を含めて、それまで聴いてきたどのような音楽にもない表現、「音楽」という枠には収まらない、しか

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孤独ゆえの輝き――濱島祐貴の二胡協奏曲「Altair」

孤独ゆえの輝き――濱島祐貴の二胡協奏曲「Altair」

 この世界は、一人の人間が向かい合うにはあまりに広い。
 宇宙という途方もなく広大な空間にあるこの地球という星に、いま自分が存在していることの不思議。
 本当に自分は、「いまここ」に存在しているのだろうかという不安。
 世界の広さを前に、心は常に震え、慄いている。……
 存在をめぐる様々を述べたもののようだが(実際そうでもあるのだが)、これは、濱島祐貴さんの二胡とオーケストラのための協奏曲「Alt

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