すえむつ

すえむつ

最近の記事

  • 固定された記事

自己紹介

『たましいに気づいた人は 人生の優先順位が圧倒的にそれになる』 と言われてから、より翻弄している人です。

    • 自殺と老衰

      2024年になってから、 自殺とは何かを追いかけている。 新年が明けて、ふと思い立ったかのように、 自殺とは何か、あの自殺はなんであったかを 追いかけるようになったのだ。 自殺が起こった場所に行ってみたり、 故人が亡くなる間際に 会っていた人に会いに行ったり、 自死遺族の集まりに行ってみたり、 本当にたくさんのことをした。 そしてそのたくさんのことは、 したいと思ったタイミングで必ず叶った。 自殺を追いかけるにあたって、 障壁となったものは何もなかった。 そんな中で

      • じさつとたましい47

        呉越先生を訪ねると、先生は実習室Aで 箱庭をしていた。 「最近、レポートの添削やら実習やらで。 疲れちゃってねえー」 渦を巻いた砂の上を、人や動物や魚たちが 円になって歩いている箱庭を作っていた。 「輪廻転生〜!なんちゃってね」 円の中には、カバもいた。 カバは生きていた。 あの日、Aが亡くなった夏、 帰省する前に呉越先生のところに寄った。 先生は新しく買った箱庭の玩具だと、 ピンクのカバを私に見せた。 あの日私は確実にカバと目があった。 それから、馨に誘われて行

        • じさつとたましい46

          『小瀧さん最近どう』 アメイジンググレースが残ってしまった私は、 3年ぶりに小瀧さんに連絡をしていた。 サカガミ経典を読む会に急に誘ってきた小瀧さん。 親が出家したために、残される弟を思って 大学を辞めた小瀧さん。 今はどうしているだろうか。 『お久しぶり!すえむつちゃん! 私は元気にしています。すえむつちゃんは 今どこで何してるの?』 すぐに返信が返ってきた。 お互いに時間があるということで、 電話をすることにした。 近況を話し合い、大学をまだ卒業していない

        • 固定された記事

          じさつとたましい45

          いつものように一部屋一部屋病衣を配っていた。 みなさん大分私に慣れてくれて、 挨拶や雑談をしてくれる。 折り紙や、作業療法で作ったキーホルダーを くれる人もいた。私はそれを名札につけ、 ちゃらりと揺らしていた。 さて次は408号室だ。 山根さんという患者さんの部屋で、 歳は30代前半くらいである。 患者さんの中でも背が高くて がっちりとした体型だった。 ぎょろぎょろとした目で、会釈だけするのが 彼のコミュニケーション方法だった。 あの、ぎょろぎょろとした目で見られる

          じさつとたましい45

          じさつとたましい44

          自殺したAの部屋と 興奮して暴れた患者さんの部屋。 どうもその人自身の力だけでは 起きたわけではないと思える雰囲気が流れていた。 人を超えた何か大きい力が そこで、はたらいたのだと感じる雰囲気だった。 Aは自殺で済んでよかった。 あのパワーが他者に向かってはたらいていれば、 きっとその人は死んでいただろう。 なんて恐ろしい話しだろう。 そう、だからAは自殺で良かったのだ。 あの日、Aが死んだあの日、電話に出なかった私 私は悪くはないのだ。 いのちに対してなんて不誠

          じさつとたましい44

          じさつとたましい43

          夏休みも終わりに近づいた頃だった。 そろそろ退勤時刻だと思いながら、 ナースステーションの片付けをしていると、 セーフティアラームが鳴った。 セーフティアラームとは、患者さんの部屋で 大きい物音がした時に鳴るアラームだ。 「あら大変!急変だわ!他病棟から応援集めて」 看護師さんたちがザワザワと動きが出す。 モニターをみると、アフロの田中さんに向かって 患者さんが物を投げ、暴れている。 たちまちお医者さんがやってきて、 バタバタと他の病棟からも男性スタッフたちが 集ま

          じさつとたましい43

          じさつとたましい42

          また岩井さんと松前さんの体を拭いた。 「今日は頭も洗いますよー」 そういって、頭の下にオムツを敷き始めた。 これには少し驚きだった。 「ベッド上で髪を洗う時は、 オムツを使って洗うこともあるんですよ。 ビニール製の桶みたいなのもあるんですけど、 今それ破れちゃっててね」 あたたかいお湯をそっと頭にかけていった。 松前さんは口元をガチガチさせていた。 「熱くないですか。松前さん髪の毛綺麗ですね」 柔らかく岩井さんが髪の毛を洗っていく。 お腹周りのナース服がきつそう

          じさつとたましい42

          じさつとたましい41

          アフロの男性看護師田中さんは、 ひょろひょろながら、渋い中々良い声をしていた。 「元は声優志望だったんすよ、俺」 と話していた。 田中さんが共用スペースで 談笑をしながらオセロを患者さんとしていた時があった。 すぐそばのソファで、若い女性患者さんと 中年の女性患者さんが並んで目を瞑っていたので、眺めていると、声をかけられたのだ。 「ほらほら、すえむつさんも座って座って。 目を瞑って。田中さんの声聞いてみて」 時折挨拶はするが、しっかり名前を 覚えてもらっていること

          じさつとたましい41

          じさつとたましい40

          「すえむつさん、松前さんの体を拭くのに手を貸してくれますか」 精神科で働き初めて1ヶ月が経った頃、 あの419号室の寝たきりの患者さんのところに 行くことになった。 病衣配りで部屋には何度か入ったが、 あの人が何者かはいまだに知らなかった。 「松前さんおはようございます。 今日担当の岩井です。よろしくお願いします。 今からお体拭いてもよろしいですか」 岩井さんが、松前さんの視界に入り話しかけた。 「…。」 松前さんは口元をガチガチとさせるだけで、返答はない。 し

          じさつとたましい40

          魂!だがしかし待てない!

          時機に合わせて使命をなんて、待てない! 人にはいろんな側面があるが、 もちろんこの前の章で書いたのも本音とも言えるが、 それを書いた後には、待てない!待てないよう!と駄々をこねている。 神谷美恵子の「生きがいについて」では、 神秘体験について書かれていて、 ああいった爆発的な体験は人生の休憩のようなもので、 そのあとはまた生活が続くのだというようなことが書かれていたように思う。 19歳で魂と出会い、 20歳で自殺を通して黒い海や自分の中の光と出会い 22歳で魂以外の何か

          魂!だがしかし待てない!

          命日に精神科ではたらく

          そろそろAの命日がやってくる。 Aは自殺したわたしの家族だ。 この前、七回忌があった。 法事に出ていた家族は高齢者ばかりで、 いわゆる若者はわたしだけであった。 ふと自分の将来が不安になった。 この高齢者たちを今後自分1人でどうにかしていかなければならないのかと。 高齢者たち亡き後は、家族なき子になるのかと。 ふと、Aの遺影に目をやった。 お前はいいよな、生きる苦しみがもうないのだから。 とは、思わなかった。今後生きる苦しみ全てを持って、 自殺は行われたように思われ

          命日に精神科ではたらく

          じさつとたましい39

          「はい、じゃあ今日から看護助手さんとして入ってくれるすえむつさんです」 「す、すえむつです。よろしくお願いいたします」 岩井さんの紹介の後、おどおどと名乗った。 大学で残りの単位を取りながら、 まずは週2回フルタイムでバイトをすることになった。 問題なければ、来年度はそのまま就職になる。 両親はもはや、大学さえ出てくれば良いんだよスタイルだった。 「はいじゃあすえむつさん、こちら看護助手15年目の鳴沢さん。今日はこの人について回って、お仕事を習ってくださいね」

          じさつとたましい39

          じさつとたましい38

          「なんで、すえっちゃん、あれなの、就職の見学行って真っ先に出てくるのが岩井くんと私の関係なのよ」 呉越先生はお茶を淹れながら爆笑していた。 病院見学の翌日、呉越先生を訪ねたのだった。 「内緒よ〜内緒。言っとくけど、岩井くんの方が変な人だからね。で、見学はどう思ったの?」 「はぐらかさないでくださいよ。気になります。呉越先生のこと呉越くんって呼んでたし。男と女の何かって感じがしました!」 恋バナパワーとでもいうのか、なんとなくAの一件以来、まだ残り香のように漂っていた

          じさつとたましい38

          じさつとたましい37

          ワンピースの中年女性の雰囲気に触れて、 ついつい過去に戻ってしまっていた。 上の空のまま病院見学は終わりを迎えようとしていた。 「すえむつさん、あんまり話聞いてなかったでしょう」 岩井さんが笑いながら言った。 「あっ、いや、そんなことは…」 「いえいえ、すみません。僕が最初に来た時と似てるなと思ったんです。なんとなく1人、引き込まれる方がその時いて、なんだか見学どころじゃなくなっちゃったんですよねえ。不思議ですよね。私としては、やる気は満々だったんですけどね」 頭

          じさつとたましい37

          じさつとたましい36

          テレビやソファが置かれているスペースに人が集まっていた。 「ちょうどこれから、作業療法士さんがヨガをしてくれるところですね」 ポロシャツにチノパン姿の、男性と女性のスタッフさんが、アロマスプレーをふわぁっとまいていた。 BGMとして、ハワイの朝みたいな穏やかな曲が流れている。 「作業療法士さんというのは、リハビリの仕事なんですね。麻痺なんかで体がうまく動かせなくなった方の体のリハビリをしたり、こうして、精神に疾患を持っている方のリハビリをしたりします」 遠巻きに、作

          じさつとたましい36