じさつとたましい37
ワンピースの中年女性の雰囲気に触れて、
ついつい過去に戻ってしまっていた。
上の空のまま病院見学は終わりを迎えようとしていた。
「すえむつさん、あんまり話聞いてなかったでしょう」
岩井さんが笑いながら言った。
「あっ、いや、そんなことは…」
「いえいえ、すみません。僕が最初に来た時と似てるなと思ったんです。なんとなく1人、引き込まれる方がその時いて、なんだか見学どころじゃなくなっちゃったんですよねえ。不思議ですよね。私としては、やる気は満々だったんですけどね」
頭に手をやり、さすさすとしながら岩井さんは言った。
「すみません、家族のことを思い出してました」
咄嗟に本音を言ってしまい、驚いた。
「ほぉ、そうですか。じゃあまたよかったら聞かせてください。今後については、呉越くんともまた相談してもらって、ね。気軽に来てくださればいいですから」
「あの、呉越先生何か言ってましたか」
「呉越くんが?さあ、彼女変わっていますから、まあ変わった方が来るのかなと思ったくらいです。ああ、これ呉越くんに言っといてください」
岩井さんがまた笑い、私も笑ってしまったのだった。
病院を出ると、強い風が吹いていた。
バス停まで降りながら、働くかどうか自問自答するところを、
呉越先生と岩井さんの関係ばかりを予想していた。
同級生?恋人?旦那?腐れ縁?友達?なに?!
1人でニヤニヤ首を傾げていたように思う。
見学が終わったら、呉越先生のところに行くよう言われていた。
その時に聞いてみようと思い、後ろを振り返った。
病院を一度視界に入れ、またバス停を目指したのだった。
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