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昔もいまも、絵本が大好き ~子どものころ胸に刺さった、祈りのような思いが伝わってくる名作

 子どものころから、私は絵本が好きでした。
 そこで、これまで2回の記事↓で、私の好きな絵本を紹介してきました。

 今日は、子どものころに出合って胸に刺さった、戦争に関する絵本をピックアップしてみます。どれも、祈りのような思いが伝わってくる作品です。

 まず、『猫は生きている』(理論社)。文は早乙女勝元、絵は田島征三、1973年の刊行です。調べると、いまも手に入るのですね、感激です。

 タイトルに猫とあるとおり、たしかに猫が出てくるお話ですが、東京大空襲の残酷さと悲しさを描いた、反戦絵本の名作です。私はこの絵本を読んだおかげで、戦争のむごさや、焼夷弾のおそろしさを子どもながらにイメージでき、絶対にもう二度と、こんな戦争をしてはいけないんだと思いました。
 絵にも文にも凄みがあり、大人になってから読み返すときも覚悟がいりますが、忘れられない一冊です。

 次は、『チロヌップのきつね』(金の星社)。たかはしひろゆき文・絵、1972年の刊行です。これも、いまでも手に入るロングセラー。

 人間の世界では戦争が起こっている時代、北の海に浮かぶチロヌップという小さな島が舞台の物語です。
 2匹の子を育てているキツネの家族が、やがてたどっていく悲しい運命。それを、繊細なタッチの絵とともに綴っていきます。彼らを狩る兵隊、優しいけれど無力だった老夫婦……人間もまた、戦争という暴力のなかで運命を狂わされていく。
 切ない余韻の残る結末に、しかし人間は「戦争をしない」という選択ができるはずだ、未来はそうしていかなければならないという、強い願いを感じます。

 同じく金の星社の『かわいそうなぞう』は、ノンフィクションの絵本。つちやゆきお文、たけべもといちろう絵、1970年刊行です。

 戦時中、上野動物園で3頭のゾウが殺された――その事実を丁寧に描いた作品。飼育員の苦悩や悲しみ、死んでいくゾウたちを救えないもどかしさ、思い出すだけで涙が出そうになります。
 つらい話だけれど、このように絵本にして残してくれることで、私たちはこの事実を思い出し、繰り返してはいけないのだと胸に刻むことができる。これも、現在も手に入るロングセラーです。

 最後に、ベトナム戦争を描いた絵本を。
 岩崎ちひろ作『戦火のなかの子どもたち』(岩崎書店)。1973年の刊行です。

 この絵本が描かれた1972~1973年は、ベトナム戦争の末期。日本のなかの米軍基地から、ベトナムへ向けて爆撃機が飛び立っていました。著者はそうした現実に胸を痛め、ベトナムの子どもたちを思ってこの絵本を描いたそうです。そして、本作の制作中から体調を崩し、刊行の翌年に亡くなりました。
 文は短く、詩画集のようなつくりです。著者の描く子どもたちはあどけなく、純粋。言葉は少なくても、印象的な瞳で静かに読者に訴えてきます。子どもたちにそそがれる、著者のあたたかいまなざしにも胸を打たれる一冊。いまも手に入ります。

 いわさきちひろさんの平和への願いは、公式サイトのこちらもどうぞご覧ください。↓


 こうしてピックアップした絵本を並べてみると、すべて現在も販売されているロングセラーでした。
 ふだんはつい新刊にばかり目がいきがちですが、こうやって、時代を超えて伝えるべき良書を、紙の本という形で出し続け、次の世に残していく、それも出版の大切な仕事だなあ、とあらためて感じます。(私も出版界で長く仕事をしてきたので……)
 これらの絵本、どうかこの先も、長く読まれていってほしいです。



◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから、あい(ai_kotoba)さんの作品を使わせていただきました。ありがとうございます。

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