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K-POPアイドルと日本アイドルの本質的な違いは?(なぜProductの差が出るか)ーIZ*ONE / 宮脇咲良 / AKB

私は普段、IT企業で新規事業の責任者をしていて日本のアイドルグループ櫻坂46が好きな者です。

Twitterで『「IZ*ONE」とは一体何だったのか…2年半で見えた日韓アイドルの「決定的な差」』という興味深い記事が流れてきて読んだ後、、、

、、、その読者の方で、一応経営のプロと言われているPEファンド勤務?の方が割と的外れなtweetをしていたのを拝見し、ちょっと深く考えてみようと思ってnoteを書いています。

本noteをいよいよ公開しようとしたタイミングで、私が普段ファンとして拝聴している音楽家のぱくゆうさんも動画で解説していて、本件はあくまでIZ*ONEの日韓チームの差であって、さらに言えば秋元康グループの制作体制に起因するものだとしています。

ただ、本件をproductとイネーブラー(制作チームや過程)に答えを求めると、当たり前の話として「制作体制・過程が違うから」にしか辿り着かなく、「何故その体制・過程を取らざるを得ないのか?」という対策を考える上の肝心要の根本にはたどり着けないと思います。

ということで、本稿では秋元康グループの制作体制と、一般的な韓国アイドルの制作体制の差を見ながら、「何故それが生まれているのか?」を考えていきたいと思います。

結論を先に挙げると、
韓国アイドルがフロー型ビジネスの立て方をしているのに対して、
秋元グループはストック型ビジネスの立て方をしていることが原因
であり、それぞれに戦略に対して最適化した結果がプロダクトの差として現れていると私は考えています。

そして解くべき問いは、
ストック型を維持しながら世界で戦うにはどうすべきか?
だと考えています。

ほかにもアイドルの分析記事を書いていたりするので、もしよかったら読んでみてくださいね

▶松谷さんの記事で書かれていた「原因」

FireShot Capture 2595 - 「IZ_ONE」とは一体何だったのか…2年半で見えた日韓アイドルの「決定的な差」(松谷 創一郎) - 現代ビジネス - 講談社(6_7)_ - gendai.ismedia.jp

まず、IZ*ONEが何か分からない方が多いと思うので、引用でご紹介すると

IZ*ONE(アイズワン、朝: 아이즈원)は、日韓合同のグローバル女性アイドルグループである。韓国のオーディション番組『PRODUCE 48』のオーディションで選ばれた韓国人9人と日本人3人の12人で結成され、2018年10月29日から2021年4月29日までの2年6か月の期間限定で活動した。(wikipedia)

ということで、日韓合同のアイドルグループです。

秋元康とタッグを組んだことで、日本側からはAKBのメンバー3名がグループに加わっています。その流れを汲み日韓で完全に別々のプロデュース体制が取られていて、1つのグループに各国のチームがそれぞれに作成した韓国曲と日本曲が与えられて活動をしていました。

松谷さんや音楽愛好家の多くは、韓国チームが制作した楽曲の品質が高いのに対して、日本チームの制作した楽曲の品質が低く、ファンからの支持も圧倒的に韓国曲に傾いていたとされています。ご参考に動画を張っておきます。

■韓国曲(La Vie en Rose)

■日本曲(好きと言わせたい)

再生数や楽曲を聞いて「確かに」といった感じでしょうか。

そして、この原因は、日本チームの制作能力が低かったのではないか?というのが松谷さんの仮説で、前述のぱくゆうさんは「超多忙な」秋元康さんが作詞を全曲担当していてクオリティを保てていないことが原因という仮説を立てています。

▶秋元康グループと韓国大手事務所との制作過程の差

制作過程

では実際の制作はどの程度違うのでしょうか。
内部の人間ではないので、漏れ伝わってくる話や別の方のnoteなどを総合した推測になりますが、大まかには図のようになっているようです。

違う点をまとめると、

①楽曲都度外注する箇所は、秋元グループが多い。その一方で、K-POPは内製化率が高い。
②K-POPは楽曲毎にオーナーを立て、クリエイティブ責任者と責任箇所を分担して進める。秋元グループの楽曲は秋元氏が全部作詞する。
③秋元グループではプロモーションが楽曲の完成目途を待たずして始めるが、K-POPグループでは完成確度が高くなってから始まる。

の3点に収斂しそうです。

この楽曲制作のサイクルに時間が十分に取られていないことと、外注箇所に十分な資金を投じていないことが「日本の制作チームの能力が低い」と言われる理由でしょう。要所にPJオーナーたる秋元氏が入ることで、トンマナの整合性を取りつつ、固定費を抑えて運営している様子がうかがえます。

K-POPでは内製化していることや責任を分担して持つことで、固定コストをかけてでも楽曲やクリエイティブのクオリティを高く保とうとしていることが分かります。

これだけ見ると、「じゃあ内製箇所を増やして、楽曲のクオリティを上げればいいんじゃないか?」と思いますが、それでは浅いと思うのです。

重要なのは、一見するとダメな制作手法をなぜ維持しているか?です。
何故このような形になっているか考察するには、音楽業界に何が起きているのかを正確に知る必要があります。

▶音楽業界大手のビジネスモデルはどう変わった?

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ドラマや映画などの映像作品ではネットフリックスやAmazonPromeVideoなどのサービスで単品課金からサブスクリプションへの移行が起きました。
これと同じことが音楽でも起きています。

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これは、世界最大級のレコード会社「UNIVERSAL」の四半期決算です。
見てわかる通り、他社プラットフォーム経由(subscriptions and streaming)での売上が最大で、ダウンロード・CDや版権収入の合計よりも大きいです。

これはSpotifyやAppleMusicといった音楽ストリーミングサービスの広がりが原因で、もはやストリーミングサービスに載ることなしでユーザーへ音楽へ届けることは難しい状態になってきました。

更に「音楽を作って届けることで生活する」ことは音楽ストリーミングサービスが台頭する前から難しくなっていました。

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このグラフは日本での音楽売上の推移ですが、2014年には既にコンサート入場料売上がCDセルを上回っています

つまりは「音楽を作って音楽で稼ぐ」自体が元々成立しにくくなっているなかで音楽サブスクリプションへの移行が起きたということです。

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上の表は、CDによる音楽販売と配信収益(ストリーミングサービスなど)の一般的な分配相場です。
パっと見ると流通にかけるコストが低いので配信サービスの方が実入りが大きいように見えるのですが、
・諸々のプラットフォーム手数料が約40%
・配信サービスの売上総額を参加している楽曲全部で按分して収益化
ということになるので、売上を維持し続けることは相当難しいことになります。

要は、音楽を作って音楽だけで稼ぐことはどんどん難しくなってきたということです。

この環境下で生き残るには2つの方向性しかなく
①純粋な音楽以外でのキャッシュポイントを厚くする
②楽曲を聞く頭数を極大化して薄い利幅でも十分な売上を立てる
のいずれかを選択することになります。

この方向性の違いが、秋元グループとK-POPグループの違いにたどり着くカギだと考えています。

▶アイドルをフロービジネスからストックビジネスにしたのが秋元グループ

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AKB商法とは何だったのか?
多くの方が分析していますが、私見では「AKB商法はフロービジネスだった音楽ビジネスをストックビジネス化した」と考えています。

単純化すると、フロービジネスはK-POPやPre-AKBの日本アイドルで楽曲売り切り型のビジネス、ストックビジネスはサブスクサービスのような定額課金ビジネスに近い物と考えていただければと思います。(厳密にはECモールもストック型だったりして奥深い話ですが、単純化します)

K-POPやPre-AKBの日本アイドルの基本は、各楽曲単位での売り切りモデル(=フロービジネス)です。高品質な楽曲をコンスタントに制作し発売することで売上成長を達成していきます。したがって、各曲のヒット具合がダイレクトに収益に響いてきます。

ただ、フロービジネスは、事業家や投資家目線で言うと好ましい構造ではないです。
楽曲がヒットするかどうかは、楽曲の品質だけでは当然決まらないので不確実性が高く、収益の予想が立てづらいです。収益の予想が立てられないと、どの程度の投資が適正かが分かりませんし、どの程度の採用をして大丈夫かもわかりませんし、資金調達へどの程度のリスクをとるべきかも分かりません。なので、多くの事業はストックビジネスへ変革されていきます

ストックビジネスは単純で

今年度利益=
{前年度顧客数×(1-売上ベース離脱率)+新規顧客数}×顧客当たり売上 ー 費用

売上ベース離脱率=
1-(期間Aに顧客になった人の期売上/期間Aに顧客になった人の期売上)
※人数の増減では無く、1人当たり売上の増加も加味した離脱率

で今年度の利益予想ができます。
※分かりやすくするため、SaaSのメトリクスをあえて崩してます。

これがなぜ良いかというと、注力する指標が明確化され
①売上ベース離脱率を下げる(ファンを引き留め既存顧客の購入量を増やす)
②新規顧客を増やす
③費用を削減する
の3点を改善し続けていけば、次年度の収益を予測しつつ、継続的な成長ができるようになると分かるからです。

AKB商法がしたことは、
・ファンクラブ会費の固定収入を厚くし、さらにCD売上のボトム予測を立てやすくした
・ファンの期間が長ければ長いほど楽曲外のグッズやコンサートなどの課金が増える構造をつくり、売上ベース離脱率をマイナスに維持した
・ファンが布教活動するような文化を作り、新規顧客の獲得費用を抑えることができた
の3つがポイントだと考えており、これらはいずれもストックビジネスとしての秋元系グループを強化しているように見えます。

そして、重要KPIの1つに「コスト削減」が含まれる以上は、楽曲制作におけるコストを削っていくのは経営として正しいということになります。

つまり、ケチだからとか、バカだから製作費を削っているわけではなくて、事業戦略遂行のために最適な製作をしているということになります。

逆に、コンスタントに良質な楽曲を制作してヒットを打ち続ける必要がある限り、制作には一定の固定費がかかり続け、フロービジネスであり続ける代償として不確実で変動する売上のために一定の固定費がかかるという経営上不健全な体制を取り続けることになってしまうという全く逆の事情が見えてくるはずです。

とは言え、低品質な楽曲を量産していれば急成長やヒットという世界からは離れていくので、ファンとしては寂しいですよね。

▶解くべき問いは、ストックビジネスのまま世界で戦うにはどうすべきか?ではないか

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フロービジネスであるK-POPは、楽曲を聞く頭数を極大化し、薄い利幅でも十分な売上を立てることが求められます。

その方向性に沿ってK-POPは海外戦略を推し進め、ツールとして唯一の選択肢になるSNS活用を強化していきました。SNSにおけるコンテンツパワーとはクリエイティブの品質に他ならないため、K-POP大手事務所ではクリエイティブ責任者をPJオーナーとは別においているというわけです。

ということで、プロダクトの差はフロービジネス/ストックビジネスの設計の差から生じた差異でした。

ただ、ここで考えたいのはストックビジネスであることと、K-POPのように海外でも戦っていくことは何ら相反しないということです。
その重要な実験がIZ*ONEだったと思うのですが、非常に残念な限りです。

欅坂46(現櫻坂46)を頂点に、秋元グループのビジネスの立て方には洗練されたものがあります。

この手法とSNS戦略を組み合わせることで、次のあるイノベーションが起きるのではないかとワクワクしますね。

▶(おまけ)競合を分析する時には「バカだから仮説」を捨てよ

今回、自分が土地勘のない内容が多く色々と調べてからnoteを書きました。そのなかで、多くの優秀(と言われている)ビジネスパーソンの発信やネット記事で気になったのが、「原因は明白だ。対策しないのは理解できない」というような文脈です。

例えば、応答に挙げたPEファンドの方が例に挙げている「ダサい説明的な広告クリエイティブ」ですが、決して作り手がバカだからそのようなクリエイティブにしているのではなく、その方が日本市場で成果が上がるのでそうしているのです。
日本で一番ABテストをまじめにやっているサービスは楽天市場です、と言えば何となく分かるのではないでしょうか。

どのサービスにも、その後ろ側にはテンポラリーで調査している方よりは真面目に深くサービスを考え抜いているスタッフがいます。したがって、「バカだからそうしている」のではなく「理由があってそうしているが、何故か」を考えなければ物事の本質にはたどり着けないと強く思います。

さて、最後に色々と本筋から外れてしまいましたが、

他にもいろいろと分析記事書いているので是非見てくださいね。コメントも大歓迎です!


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