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人には言えない事をしたい。人には言えない話をしたいin中央線

ファンタの果汁くらいの0.00%のノンフィクションと、あとは100%フィクションな小説のカクテルです。


飲み心地か読み心地がいいかは、読んだあなたが決めて下さい。

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「代わりのきく僕と、代わりのきくあなたが出会って、人には言えないことをした記憶が薄れてしまうのが悲しい」
という歌詞みたいなエッセイを読んだ。

たしかに性行為が特別なものとは言えないかもしれないけれど。

性行為の記憶をインターネットに書き散らす悲哀は、それすらもあけっぴろげに書いたら、人には言えないことはなんなのか。見失ってしまう事ではないか。

人に言えないことなんて、別になくてもいいだ、と言われればそれまでだけれど。


小学4年の担任は、「親に言えないことはしないで下さい」と道徳の時間に言い聞かせていた。

それから10余年。
親にも、恋人にも、友達にも言えないことは増えた。

これは誰にも言えないんだけどさ、と、飲んでいてふとぽろっと話を聞くことも。逆に自分が話すことも。

10代後半の孤独はニコニコ動画に荒らしコメントと、ツイッターに溶かした。

20代前半の寂しさは、中央線沿いの居酒屋と渋谷のクラブと歌舞伎町のラブホテルに溶かした。

「誰もが見れるネットじゃなくて。
仲良くなった誰かにだけ、こっそりと教えてくれる人が、僕は好きだよ」

と2年前の僕は酔って呻いていたらしい。

ジェラピケの寝具が敷き詰められている部屋のベッドの上で、二日酔いに頭を押さえながら、そんな数時間前の居酒屋の夜の痴態を聞いた。知らない天井だ…と思いながら。

ジェラピケよりも、マイメロが似合っていたが、少なくともメッシュの入ったショートカットは、めちゃくちゃ似合っていた部屋の主。

ベッドサイドに降りた時。床に落ちていたZONEの空き箱を踏んだ。昨夜使ったのか、何もしていないのか、覚えていなかった。聞かなかったことを、少しだけ後悔する。

高円寺の駅のホームで電車の扉が閉まってから、連絡先も聞いていないことに気がついた。そのことには、かなり後悔した。交換しても連絡は取れなかっただろうけれど。

名前も、肩書きも知らないから、気が許せて素敵に思えた関係に、名前がつくと色褪せるのは残酷だ。

スーツを着て中央線に乗っていたら、そんな2年前に呻いた(そして記憶はないけれど吐いたらしい)居酒屋が電車の窓越しに通り過ぎた。

その頃飲んでいていて、今は何しているのか分からない友人と、いまはもう会えない関係に名前がつけられない異性のことをふと思い出して中央線からnoteに綴る。
だから何というわけではないけれど。

ところで
本当に誰にも知られたくないなら、一生胸に仕舞えばいいのだけれど。
「あなたにだけ」と告白めいた接頭語をつけて、ふと夜に酔うと、誰にも話さないつもりだった話を、涙ながらに話していることが1年に一回くらいあるのはなぜなのでしょう。

自己顕示欲というか、「わかってほしい」
そして、あまつさえ、そんな情けない自分まで飲み込んで受け入れて欲しい。
そんな欲望は、時に、腕を組んだ異性の胸が当たったまま夜道を歩くときの性欲よりもやっかいだ。

そして、そんなだらしなくも、人間らしい欲に振り回されてエッセイや小説は書かれるのだろう。
少なくとも、俺は、何割かはそんな欲でnoteを書いている。

2022/08/04(木)

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