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【書評】酒井隆史『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか 』(講談社現代新書、2021)
酒井隆史『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか 』(講談社現代新書、2021)
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本書はデイビッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ』の日本語翻訳者、酒井隆史による解説書だ。
ブルシット・ジョブ(BSJ)とは「まったく無意味で有害ですらある仕事、しかも当人すらそう感じている仕事」であると述べられる(p.9)
J・M・ケインズは1930年代に100年後の労働時間は、週に15時間になるだろう、と予言した。例えば、レポートを手書きで書くこととキーボードで打ち込むことを比べると、後者の方が圧倒的に早く書き上げられる。しかも、早く書けたからといって、レポートの質が落ちているわけではない。むしろカット&ペースト機能を活用する事で文章の質すらも上がっているだろう。
このように、技術進歩によって同じ業務が、早く、質が高く行われるようになる。すると100年後には労働時間は激減している、というのがケインズの論理である。
しかし、そのケインズの予言から約100年近くが経った現在、労働時間は依然として長いままである。
では、ケインズはどこで間違えていたか。
その疑問点に立脚して、現代社会を分析した書物が本書である。
グレーバーは、短縮されて生産性が上昇した現代に、「なくてもいい仕事」が過剰に増えたからだ、と喝破する。
例えば、筆頭に挙げられるのが広告代理店だ。もともと「〇〇が欲しいのに、足りない」という不足に突き動かされて、会社は製品を作っていた。
しかし現代では、「〇〇が欲しいのに、足りない」という窮乏に陥ることはない。〇〇には、リンス、お弁当、など商品を当てはめてみてもらえると想像できよう。
リンスもお弁当も、それ以外も。買いたい人より、売りたいものの方が溢れている。すると、「他の製品ではなくて、この商品を買って下さい」と、自分の商品を選んでもらう必要が出てくる。他者を蹴落とす必要と言い換えても良い。そのためのブランディング施策の一翼を担うのが広告代理店だと解釈ができる。価値を生み出すのではなく、他者を蹴落とすような仕事は、かくして生まれるのだ。
以上のように、「なぜ仕事の大半が、BSJで占められていると感じるのか」現代人の現状分析を行ったものが本書である。
私は本書を読んで「仕事のやりがいがない」と語る人の、気持ちが分かった気がした。
学生から社会人への移行期に位置する現在、仕事について悩み、手に取った本だった。手に取って良かったと思えた一冊である。
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