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詩の場所

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小山伸二の詩の置き場所です。
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2015年8月の記事一覧

夏に

夏に

大勢のひとが亡くなってしまった夏に
無料動画配信のなかで戦争を眺めている
都会では若者たちが集まって
人生を語りはじめているらしい
昭和初期
京都の下宿で詩人たちが神を語り
アフリカの砂漠に消えた陽炎について議論した
丸善の書棚に置かれた檸檬のその後を伝えるひとの
Facebookを眺める夏
甲子園の戦いも終わって
今夜もまた
マウンドには孤独の影が降って来るのだと言う
てのひらの小さな画面の中に

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Urn of August/八月の器

Urn of August/八月の器

Urn of August


On an August afternoon,
being aware of her absence,
we the family who were left
are having lunch in a small room set in the mountains.
Just outside the room, her seventy-four summer

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夏のグラウンド

夏のグラウンド

十五日がやって来た
堅いグラウンドに
八月の太陽が降り注ぐ
だれもが汗を拭いながら無口になって歩く
蝉の声
図書館前では子供たちがはしゃいでいる
読み込めない物語に
いらだつ大人たちと
にやけた老人が手をひらひらさせて
ドラッグストアの女性店員をからかっている

マウンドでは投手役の男が
捕手役の男のサインを覗き込んでいる
世界のスパイたち
わかならいことだらけの暗号を
灼けつくリズムで唄いたいの

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百年の夏に

百年の夏に

長い休みのはじまり
沸騰する夏の時間がリセットされる
仕事も休んで
悩むことから自由になって
手に入れられるミライがある
夏休みが教えてくれたこと
カブトムシよりクワガタムシが好きだった
理由はわからない
だれとだれとが手をつないでいても
そんなこと関係ない
だって
汗くさい男たちが酔っ払う夏の裏路地で
死んだ虫みたいに
匂いをはなつ動かない石ころだよ、夏は
ハイボールを下さい
それでいいんじゃな

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