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夏のグラウンド

十五日がやって来た
堅いグラウンドに
八月の太陽が降り注ぐ
だれもが汗を拭いながら無口になって歩く
蝉の声
図書館前では子供たちがはしゃいでいる
読み込めない物語に
いらだつ大人たちと
にやけた老人が手をひらひらさせて
ドラッグストアの女性店員をからかっている

マウンドでは投手役の男が
捕手役の男のサインを覗き込んでいる
世界のスパイたち
わかならいことだらけの暗号を
灼けつくリズムで唄いたいのに
ぼくの喉はからからに渇いていている
井戸を探す
透明な水を

女の映像が繰り返される
スクリーンの事実
積みあげられる八月が色あせた書類になる
いつからだろう
詩を書かなくなったトモダチの
右手に握られた鉛筆は
ひとりひとりの名前を筆記する
小さな壷のなかで軽くなっていくノートに

何回も話し、書いて来たことだ
流れる車窓に映る
ぼくたちの物語が交錯して
その境界が見えなくなった
語らない数十年の母たちが夜を背にして
畦道に突っ伏した夏
虫たちが見上げた空がピカピカで
終わりの始まりなのか、始まりの終わりなのか
わからなくて

ごめんなさい、と
か細い声だけを茶筒のそばに置いた夜
やがて闇のなかに数千の霊たちが
灯火となって空に昇っていくと
テレビの中継がうるさく伝えている
漂流しているんだね
小さな壷たち
もう抱きしめることができないよ

泣きはらした川原の道
虫たちの奏でる
音の階梯さえも見えなくなって
厚いヨロイのなかで蠢いている虫たちの
命のリレーみたいに
夏の巨匠の未完の作品だ
蜜のように甘いしずくを下さい
夏の虫たち


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◎国立ランブリング「創作ノオト」

70年目の夏がやって来た、この国立にも。
八月の図書館。
近くのグラウンドでは炎天下、野球をするひともいる八月。
そして、国立の町をさすらうぼくのランブリングも続く。

https://happyspot.jp/blog/theme.aspx?id=%81E%8D%91%97%A7%83%89%83%93%83u%83%8A%83%93%83O

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