見出し画像

マインドフルネスストレス低減法(MBSR)とは?


2019年11月5日、イギリスの新聞紙The Guardianにこんな記事が載りました。


これは、イギリスの警察職員が瞑想レッスンを受けたことに関する記事です。以下がその要約です。

“何もせず、ただ呼吸する:警察職員が瞑想レッスンを受講“
ストレス軽減を目的とした瞑想レッスンを試験的に5つの警察部隊に受講してもらった。その結果、瞑想が平均的な幸福度、人生の満足度、(病気などからの)回復力、仕事のパフォーマンスを向上させたことが分かった。それを受けて、今後イングランドとウェールズで働く警察職員20万人すべてが瞑想レッスンを受講できるようにする予定である。

ここ数年、欧米ではストレスや病気の症状を軽減するために、瞑想を基にした多くのプログラムが開発されてきました。そして、医療、教育、スポーツ、ビジネスなどさまざまな分野で活用され始めています。

その背景には、ストレスが原因で心身に支障をきたす人々が急増したこと、そして瞑想やマインドフルネスが健康の維持や幸福の向上に極めて有効であることが科学的に証明され始めたことがあります。

日本でも企業が社員にストレスチェックを実施し始めるなど、メンタルケアへの関心が徐々に高まってきています。

とはいえ、プレッシャーやストレスを効果的に対処する方法を身につけている人はまだまだ少ないのが実情です。その理由の一つは、情報量が少ないために、そもそもメンタルケアの手段が正しく認知されていないからではないかと思います。

そこで今回は、マインドフルネスストレス低減プログラム(MBSR)というものを簡単に紹介したいと思います。

画像1

MBSRとは?

1979年、大学教授であるジョン・カバットジン博士は、マサチューセッツ大学メディカル・センターのストレス・クリニックにて「マインドフルネスストレス低減プログラム(以下MBSR)」を開始しました。これがアメリカの現代医療分野におけるマインドフルネスの始まりです。

MBSRは、“注意集中力”を高めるトレーニング「マインドフルネス瞑想」を中心に体系的に組み立てられた、8週間のトレーニング・プログラムです。

プログラムのルーツはアジアの仏教の瞑想の1つにありますが、カバットジン博士はそのアプローチは宗教を超えた普遍的なものだと考えました。そして、万人が実践できるよう宗教色を排除し、一般の医療処置の補完療法として開発しました。

2013年時点で、世界中で約720の病院とクリニックで採用され、MBSRを修了した人は2万人を超えています。

画像3

マインドフルネスとは?

「マインドフルネス」にはさまざまな定義が存在しますが、MBSRでは次のように定義しています。

「今この瞬間に、意識的に、価値判断せずに、注意を払うことで生まれる気づき」

“The awareness that arises by paying attention on purpose, in the present moment, and non-judgmentally” (Kabat-Zinn. J  Full Catastrophe Living 2013)


自分の心の動きに注意を集中していると、自分の心が現在よりも過去や未来に思いを馳せている時間のほうがずっと多いことに気がつきます。心がどこかへ行ってしまっているとき、私たちは”今”起こっていることについては、少ししか自覚していません。

ご飯を食べようと手をつけ始めて、気づくといつの間にか食べ終わっていた、なんていう経験はありませんか?

私たちは、1日の多くの時間をロボットのように無意識に、そして習慣的にすごしています。そしてそのせいで、一瞬一瞬に起こる大切な経験や価値の大部分を見逃してしまっているのです。

マインドフルネスを養うとは、心が何をしようとたくらんでいるのかを知り、自分の考えを見つめ、その意図にとらわれたり、流されたりすることなく、瞬間瞬間を意識的に生きるスキルを磨くということです。

画像3

今日これを読んだ後、3分間瞑想法というものを一度試してみてください。ここで説明したことを経験的に理解してもらえると思います。

3分間瞑想法

誰にも邪魔されない静かな空間を用意しましょう。静坐もしくは椅子に座り、肩の力を抜き、背筋を伸ばします。目を閉じ、呼吸に意識を集中します。呼吸のリズムは自然にまかせ、空気が鼻を出たり入ったりする感覚を客観的に観察しながら、呼吸していることを経験しましょう。心が呼吸からそれたら、それに気づき、また呼吸に意識を戻しましょう。これを3分間行います。

3分間の間、あなたはどのくらい呼吸を意識できるでしょうか?

画像4

MBSR8週間プログラムの内容

8週間の間、参加者は講師が開く週1回のクラスと1日のサイレント・リトリートに参加します。クラスでは、ストレスや脳や体に関する講義とプラクティスが行われます。また週の6日間以上、参加者はクラスで学んだプラクティスを1日45分自宅で実践することになります。(*サイレント・リトリート:人と一切話さず、沈黙を守り、ヨガや瞑想などを行う取り組みです。)

プログラム内で実践するプラクティスをいくつか簡単に紹介します。

正式なプラクティス

◾️マインドフルネス瞑想
静坐した状態で呼吸や音など、特定の対象に意識を集中させる
◾️ボディスキャン
仰向けに寝た状態で、体の各部に意識を向け、観察する
◾️マインドフルヨガ
体の動きに伴う感覚に意識を向け、観察する
◾️マインドフルウォーキング
歩行に伴う体の感覚に意識を向け、観察する

日常のプラクティス

◾️食べる瞑想
◾️マインドフル・リスニング/スピーキング等


こういったプラクティスを通じて、参加者は自分の体験していることに対しての気づきを向上させ、その体験が「自分自身にどのように影響を及ぼしているか」「体験自体にどのように対応しているか」ということに意識を向けることを学びます。そうして、ストレスを感じる状況に直面したときに、無意識で反射的な反応をするのではなく、自分が意図した対応を選択するスキルを徐々に身につけていきます。

画像6

マインドフルネスの効果

数多くの臨床実験、研究の結果から、MBSRは心身の健康に多大な良い効果があることが認められています。以下にいくつかの実験内容とその要約を紹介しておきます。

・マサチューセッツ総合病院とハーバード大学の研究者がMRIを使って行った実験の結果、MBSR8週間トレーニングを終えた人の脳に明らかな変化が見られた。学習、記憶、感情制御、自意識、他社の立場に立つことに関連する脳の多くの部分が肥大化した。一方、危険に対し評価判断、反応することに重要な役割を担う扁桃(へんとう)と呼ばれる脳の部分が縮小していることも分かった。(扁桃が大きいと、些細なことでも危険だと判断し、恐怖や怒りなど感情を生み、過剰に反応しやすくなる)

・トロント大学の研究者がMRIを用いて行った実験の結果、こちらもMBSR8週間トレーニングを終えた人の脳の特定の部分に変化が見られた。現在の自分の経験に関連する脳内の神経活動が活性化し、逆に自分の物語(自分が思う自分のイメージや、過去や未来に関して空想すること)と関連した神経活動が低下した。ここから分かることは、MBSRなどで、「いま、この瞬間」に留まるトレーニングを行うことで、人は無意識に生まれる空想や思考から抜け出し、今最も自分にとって重要なことに意識を戻すことができると言える。

・ウィスコンシン大学の研究者は、MBSRが身体的な症状に与える心理的ストレスの影響を低減する効果を証明した。実験は、健康な人たちの肌に意図的に起こした水ぶくれに、ストレスを感じる状況でMBSRと健康促進プログラム(HEP)を行うことでどのような変化が起こるのか調べたもの。(HEPはマインドフルネス以外の点でMBSRと酷似していたため、2つを比較することでマインドフルネスの効果を測った。)結果、MBSRを受けたグループの水ぶくれは、HEPのグループに比べて、一様により縮小したことが分かった。

・同じくウィスコンシン大学の研究者とジョン・カバットジン博士とその同僚が、健康だがストレスを抱えている一般企業の従業員の協力のもとMBSRを使い実験を行った。結果、MBSRを受けた人たちの脳内の活動に変化が見られた(比較対象として、受けていないグループも設定)。感情表現に関わる前頭前野の活動が、右側から左側へと変化した。前頭前野の左側の活性化は、その人が不安や苛立ちといった感情を効果的に対処していることを表している。この右から左への変化は、プログラムが終わって4ヶ月後の調査でも変わりがなかったことが分かった。
また、MBSRを受けたグループと受けていないグループにインフルエンザワクチンを打ち、免疫システムの反応を観察した。その結果、MBSRを受けたグループの免疫システムの抗体反応が、受けていないグループに比べ、非常に大きく上昇したことが確認された。

・カリフォルニア大学ロサンゼルス校とカーネギーメロン大学が55歳から85歳の大人を対象に行った実験では、MBSRが孤独感を低下させることが分かった。その他に、炎症反応に関連する遺伝子の発現が低下したことも分かった。またC-reactiveたんぱく質として知られる炎症の指数の低下も確認された。炎症に関するこの2つの発見は、極めて重要だと考えられている。それは、炎症がガンや心臓血管疾患、アルツハイマー病の発生の中心的な要素だと考えられているからである。

以上のように、マインドフルネスは単なる思想や哲学ではなく、心と身体の健康への極めて実用的なアプローチであることがわかります。

画像5

マインドフルネスはある特定の人が行う特別なものではありません。慌ただしい日常のなかにあっても自分を見失わず、冷静な目でものごととの関係を新しい枠組みでとらえる余裕を作り出すスキルです。そして、それは誰でも身に付けることができます。

これを読んで少しでもマインドフルネスや瞑想に興味が出たら、まずは1日5分でいいので、自分の時間をつくり、静かに呼吸を観察してみてください。それだけでも自分自身についてたくさんの気づきがあるはずです。


マインドフルネス瞑想がストレスを軽減する仕組みについて以下の記事で説明しています。ぜひご覧下さい。


マインドフルネス瞑想を始めてみたい方
始めてみたけどいまいち分からない方

ぜひ私と一緒にマインドフルネス瞑想をしましょう!

毎週、朝に無料のマインドフルネス瞑想ライブを行っていますので、一度覗いてみてください。

私のLINE公式アカウントにご登録頂くと、無料の瞑想ライブへの参加に加え、実践するための音声(合計13個!)を無料でプレゼントしています。

大したことないな、と思われたら音声だけ手に入れて退会してくださって構いません。

落ち着いた、スッキリした朝から一日を始めたい方は、ぜひご参加下さい♪

この投稿が少しでもマインドフルネスの理解を深めるのに役立てば嬉しいかぎりです。最後までお読みくださりありがとうございました。


(引用元 Full Catastrophe Living, Kabat-Zinn. J 2013
             マインドフルネスストレス低減法 Kabat-Zinn. J  春木豊 訳 2007)

この記事が参加している募集

サポートして下さるととても大きな励みなります!より良いものシェアしよう!というモチベーションに繋がります! 頂いたサポートは知識と経験を深めるために使わせて頂きます!