デザインシンキングで生まれた工場の祭典

毎年10月に金属加工品の産地、新潟県燕三条地域で町工場が一斉に開放されるイベント「燕三条 工場の祭典」。期間中は街全体がピンク色のストライプで彩られ、4日間で約3万5,000千人以上を動員する(2016年実績)。2013年から始まり昨年で5回目と、持続可能な地域活性の取り組みの「代表例」となっています。

ということで、今回は「工場の祭典」について考察していきたいと思います。燕三条シリーズもお陰様で第三弾です。

工場(こうば)の祭典の始まり

新潟県のほぼ中央に位置する燕三条地域は、江戸時代から続く金属加工産業の集積地。刃物や金属洋食器をはじめプレス、鍛造、機械加工など優れた技術を持つ中小企業約4000社が集積し「石を投げれば社長に当たる」と人口比あたり日本一社長が多い街とも言われています。

しかしながら、企業の6~7割が下請メーカーで、高い技術力を持っていても基本的に自社製品は持たないところがほとんどで、最終製品を製造している工場も、問屋の名前が前に出て、社名が知られることは少ない。流通構造の変化や、生産コストの安いアジア諸国の台頭、担い手の高齢化などで、経営難に苦しむ工場も少なくないという状況。

さらに、金属加工という独自の事情もあり、騒音や公害対策で工場を郊外に追いやったりと、モノづくりの町でありながらもその雰囲気や匂いが感じられないといった課題があった。

こうした課題解決をしながら、地域に人を呼び込む施策として「工場の祭典」は2013年から始まりました。課題は山積だったけれど、モノづくりの町の財産は工場にあるとして、工場を活用して人を呼び込むことができないかと考えたわけですね。

三角形が作る持続可能性

図1は現在の「工場の祭典」という事業の持続可能性とその拡がりを関係性として表したものです。

地域活性化プロジェクトにおいては、点の盛り上がりをいかに線にし、面的に広げるか、そしてその盛り上がりをいかに継続させるかが、事業デザインの焦点と言えます。これはどこの地域にいっても変わりません。

工場の祭典に関しては、それを3つのポイントを作ることで実現しています。

1.地域の魅力が詰まった工場を集客装置に

2.ピンクストライプで「開かれた工場」をデザイン

3.見られることで工場経営が変わる

これら3つのポイントが「三角形」を作り、工場の課題解決と地域への集客を同時に行うエンジン的(事業コア)な役割をしています。見ての通り、この三角形は、サイクルするようになっていて年を重ねるごとに力は増していき、そのエネルギーは金属加工業以外の分野にも波及しているという状況です。

ちなみに、地方創生がなかなか上手くいかない地域は、図2のように1→2でどん詰まっていることが多く見受けられます。

強み弱みは分かっているし、活性化に向けて努力もしているんだが、圧倒的に不足しているのは効果的な情報発信、いわば「デザインである」ということに気付いていないという状態。そのため、折角やり始めた事業は継続せずに、当然周りにも波及はしていきません。逆に言うと、この三角形を作ることが出来れば、その事業は持続する可能性が一気に高まるということになります。

ですから、工場の祭典の事業において、2.のピンクストライプで「開かれた工場」をデザイン、の部分が最重要だったということになります。

開かれた工場をピンクストライプでデザイン

工場の祭典に行ったことがある方はご存知かと思いますが、期間中は街全体がピンク色のストライプで彩られます。行ったことのない方のために実際に写真でお見せしますね。

このように、街のあらゆる所にこのピンクストライプが現れます。訪れた人はこのピンクストライプを目印にして、工場やワークショップの場所を見つけて中に入ります。ピンクがとってもビビッドなので「あ、ここか!」と直感的に分かります。見すぎると目がチカチカするんですが.....笑

イベントの実行委員会は、工場、三条市、燕市、燕三条地場産業振興センターと外部のクリエイターで構成されています。「工場の祭典」というネーミングや「開け、工場」というコンセプトなど、肝となる部分は職人が自ら考えたそうです。

工場は職人の聖域、技術的な守秘義務があるものもあり、本来、見せるためのものではないのだが、普段、閉じている工場を開き、来て、見て下さいとアピールするためには新しいデザインが必要である。ということからデザイナーに工場を見てもらい、ピンクストライプをメインデザインとして統一したそうです(図3)。

通常、立ち入り禁止区域は黄色と黒のストライプで表現するけれど、ピンクストライプにすることでオープンなイメージを与え、工場独特の閉鎖感を和らげています。また、火や炎のイメージが強い鍛冶屋や金属加工業。炎が青から赤に変わる途中に現れる鮮やかなピンクから着想を得ているとのこと。

参加企業は、イベントにあわせ、ピンクのテープやピンクストライプの段ボールで工場を装飾し、見学できることをアピールします。見ての通り、装飾コストがとても安く済むのと、可変性が大きいのもポイント。参加企業の手間がかからない、参加しやすく、こうすれば良い、と直感に訴えかけるデザインには秀逸という言葉がとても似合います。(サービスデザイン的にいうとバックエンド、サービスブループリント側のデザイン)

このピンクストライプで「開かれた工場」のイメージを作りあげ、中川政七商店による工芸イベント「大日本市博覧会・新潟博覧会」と同時開催なども実施。地元のタクシー会社と連携して、タクシー利用券を来場者に配布すなど、二次交通網の整備にも力を入れるなどして、3万5000千人規模のイベントへと成長させました。

見られることで変わっていく

ここから先は当然のストーリーでしょう。来場の約4割が県外からだそうですが、参加企業は見られることで、工場内を一層綺麗に整理したり、人に説明することで、職人自身が仕事や自社の強みを見直したりといった、目に見えない効果もとても大きい。普段は直接接することのない末端の生活者の言葉が、新たな商品開発の発想を生み出すヒントにもなっています。

図1の3→1の部分で、見られることで経営が変わり、職人や従業員の意識が変わる。そうすることでまた一つ二つと参加企業は磨かれていくという仕組み。写真にあるような、各社の素敵なコーポレートデザインも「見られること」の代物だと思います。

デザインシンキングで生まれた工場の祭典

工場の祭典の監修をされているのは、method(メソッド)山田遊氏のようですが、恐らく「デザインシンキング」あるいは「サービスデザイン」を起点にして、事業のデザインを行ったのではないでしょうか。なぜならば、私が書いた最初の図を改めて見直していると「中心に人がいる設計(HCD:Human Centered Design)」になっているように見えてくるからです(図4)。

私としては、持続可能な地域活性には「デザイン」の力が120%必要だと思っているのだが、そうはいっても問屋が卸さない。(予算の都合や短期的な指標のせいで)なかなか理解が進まない地域も多いのが現状です。それに、地域毎で課題に個別性があり一様に「デザインで」とは言い切れない部分があるのも分かりますが、そうだとしても多くの地域をデザインで「良い方向」へ変えることができると思っています。

最後に

途中途中「三角形の図」を入れて説明していますが「三角形」を作ることを意識すると、これまで繋がっていなかったことが急に繋がりだします。フットボールで、三角形を作ると急にパスが回り始めるというアレと同じです

Takramの田川さんが提唱するBTCモデルも三角形。

発酵デザイナーの小倉ヒラクさんもブログで「三角形」の重要性を述べています。「読モ」理論。三角形の幸せなコミュニケーション。

普通に考えれば、AとBがあれば、そこにインタラクション(双方向性)が生まれそうなイメージがありますが、実はそうでなくて、AとBの直線関係の上にもう一つ点を置いて三角形を作ることで初めて、インタラクションは発生し、そこに持続可能性が生まれ、爆発的な能力発揮が起きる。ということです。これに共感された方は、色々なところで「三角形」を作ってみてください。(そしてそれを良ければ教えてください!)

以上、「三角形は正義である」ということで、燕三条シリーズ第3弾を終えたいと思います。その他の燕三条シリーズは下記よりどうぞ。

玉川堂が伝統工芸と呼ばれる理由

マルナオから考える競争力としてのXIの重要性

包丁工房タダフサや、諏訪田製作所などまだまだ書けるネタはあるので良き頃を見計らって、燕三条シリーズは少しづつ増やしていきます。2018年ですが、この他に、別の「地域とデザイン」の考察や、大事にしている考え方、フレームワークなどを少しづつnoteに書き溜めていこうかなと。

この記事が誰かの何かのお役に立ったら幸いです。それでは今日はこの辺で。


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