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#美の来歴

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古今の美術作品と歴史のかかわりをたどるエッセイ。図版と資料をたくさん使って過去から未来へ向かう、美の旅へようこそ。
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#ナポレオン

美の来歴㊷ 宮廷家族図が映すスペインの黄昏  柴崎信三

美の来歴㊷ 宮廷家族図が映すスペインの黄昏  柴崎信三

フランシス・ゴヤ『カルロス4世家族図』の魑魅魍魎

 そのころ、54歳のフランシス・ゴヤは宮廷首席画家という地位にあった。高給と自家用馬車があてがわれ、国王一族らの肖像画や教会の装飾画などを一手に引き受けたが、10年ほど前にアンダルシアのカディスでかかった疫病が原因で聴覚を失っていた。
 国王カルロス4世や王妃のマリア・ルイーザとマドリードの宮殿や夏の避暑先であるアランフェスの「農夫の館」で会う時

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三島由紀夫という迷宮⑨ 〈英雄〉と蹶起                      柴崎信三

三島由紀夫という迷宮⑨ 〈英雄〉と蹶起        柴崎信三

〈英雄〉になりたかった人❾

 自裁する三年まえの1967(昭和42)年2月、雑誌『芸術新潮』が「三島由紀夫の選んだ青年像」という主題で8点の美術作品をとりあげた。「闘志」「苦悩」「理知」「悲壮」といったテーマに合わせて、ティツィアーノの『手袋を持つ男』やベラスケスの『バッカスの勝利』などとともに、ジャック・ルイ・ダヴィッドの『ナポレオン・ボナパルトの肖像』が「英雄」の表象として紹介された。
 像

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美の来歴㉕〈流謫の英雄〉という肖像           柴崎信三

美の来歴㉕〈流謫の英雄〉という肖像   柴崎信三

皇帝ナポレオンと〈転向画家〉ダヴィッドの紐帯

アナトール・フランスの小説『神々は渇く』の主人公、エヴァリスト・ガムランは、その頃革命の記録画で知られたジャック=ルイ・ダヴィッドの弟子にあたる若い画家で、王党派と戦うパリのポン・ヌフ地区の能動市民(シトワイヤン・アクティフ)である。
  アンリ4世時代の古いアパートに寡暮しの母と住み、アトリエで売れない絵を描いている。革命は絵画の市場も洗い流

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