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ファッション誌が学校制服をプロデュースした理由|FUDGE×品川学藝高等学校

私服登校を認めるようになった学校が増え、ユニクロの既製服を採用した学校が登場するなど、話題に事欠かない学校制服。

そんな中、本校ではファッション誌「FUDGE(ファッジ)」とのコラボレーションで、2021年に女子制服をリニューアル。さらに2023年春から品川学藝高等学校と校名を変え、男女共学校として新たに出発するのに合わせ、男子制服を新規でデザインした。

女子の冬服はブラックジャケットに、スカートとパンツ2種のボトムスは赤のタータンチェック。男子の冬服はオリジナルのレジメンタル・タイに、赤みのあるベージュのパンツを採用した。
一方で、夏服は男女ともに涼感素材を使ったセーラー服。ジャケットスタイルもセーラー服も、どちらも着てみたいという高校生のおしゃれ心を満たす、こだわりがたっぷり詰まった制服に仕上がっている。

学生服メーカーにデザインを含めて依頼する学校が多い中、制服のプロデュースをファッション誌に依頼したのはなぜだったのか。また、制服デザインにどんな思いを込めたのか。

FUDGEとのコラボレーションを提案した品川学藝高等学校を運営する学校法人三浦学園・三浦裕明常務理事と、FUDGEの“らしさ”を保つ誌面の編集・出版・イベントプロデュースを担当し、本校の制服プロデュースにも尽力してくださった関口啓子さんに話を聞いた。(取材・文 荒川ゆうこ)

お洒落と学校のアイデンティティを兼ね備える

- 制服リニューアルにあたり、ファッション誌・「FUDGE(ファッジ)」にプロデュースを依頼したのはなぜですか。

三浦(品川学藝):新制服の構想段階から、内部だけで新制服を検討することはやめようと考えていました。我々に熱い想いがあったとしても、ファッションに関しては素人ですし、独りよがりになってしまうからです。

その中、それぞれが独自の世界観を持っているファッション誌は魅力的でした。特に、トラッドでありながら若い世代に受け入れられているFUDGEさんの世界観は本校が積み重ねてきた歴史と思い描く未来にマッチしているように感じました。高校生向けならティーン誌にお願いするという手もあったかもしれませんが、本校の目指す方向性と合致していることを大切にしました。

関口(FUDGE):FUDGEとして過去にそういったご依頼をお受けしたことはなかったのですが、三浦理事の飾らないお問い合わせに興味を惹かれました。そして、制服を一緒に考えるのは「未来」をつくるお仕事と思い、ご一緒することに決めました。

制服づくりの過程では「制服に求められるもの」を考えることから始めました。制服は、アクティブな年頃の生徒さんが3年間ほとんど毎日着るもの。その性質上、耐えられる強度や、成長に合わせたサイズ調整が必要です。強度はもちろんのこと、近年のエアコンがないと過ごし難い暑さに耐えられるようにするなど機能面のアップデートも必要だと考えました。

また、服装で解決できると思うほど不遜ではないですが、多様性や通学中の痴漢被害など性に関する問題に少しでもお役に立てないかと先生方と話し合いました。

今だからこそ言えますが、制服づくりの難しさも感じました。制服は採寸が必要になるだけでなく、合格発表から入学式までの短時間での納品が求められるため、国内生産がほとんどです。国内生産という条件下で、価格を抑えるだけでなく、3年間着用できる質も担保しなければなりません。バランスが求められる作業です。

多様性、機能性をFUDGEが編集していく

- 女子制服は、タータンチェックのスカートとパンツ2種のボトムスから選べるようになっています。

関口(FUDGE):ジェンダーの問題を抜きに、1人の尊重されるべき人格を持った未来の女性として凛として過ごせるよう、パンツスタイルも選べるようにしたのは強いこだわりです。

品川学藝高等学校にはバレエやミュージックなどのコースもあり、自由に足を動かせた方が都合がいい生徒さんもいます。そういう方にとっても、制服にパンツがあることは悪くないのではないでしょうか。

三浦(品川学藝):学校で女子用パンツスタイルの制服を用意している場合、ジェンダー上の理由であることが多い印象です。本校としては大人の女性がパンツもスカートもその日の気分で自由に身に付けるのと同じように、制服のボトムスも選んでほしいと思っています。

関口:そういった意味もあって、デザインする際は「女子高校生のパンツルック」をめざしました。制服なのでいくつものパターンを用意する訳にはいかないですが、履きやすく、お洒落なパンツがあってもいいと思います。スカートと同じチェック柄のパンツは、女性の体に合うラインになるよう型紙から作っていただきました。

スクールカラーの1つであるバーガンディレッドをキーに構成したタータンチェックは、トラッドの象徴でもあり譲れないものでした。クラシックさを感じさせる学校の雰囲気に合うデザインに仕上がったのではないでしょうか。

合わせるジャケットをどうするかについても迷いましたが、ブラックかつ体のラインが出すぎないボックスシルエットを採用。かっこよさや強さも表現できたと思います。

人生一度の高校生活を彩る制服はおしゃれなものであってほしい

- 冬服がジャケットなのに、夏服はセーラーというのは驚きもあります。

関口(FUDGE):一生に一度しかない高校生活ですから、おしゃれ心を満たすのは大事だと考えました。品川学藝に入学すれば、ブレザーもセーラーも両方楽しめます。男子制服も、同じ学校であることや、元々は男性の服装であったことからセーラーの夏服を提案しています。いずれも涼感素材を使った前開きのデザインで、涼しく脱ぎ着しやすいものにしました。

女子用は愛らしく、男子用は精悍に見えるよう、えりの形にこだわりました。ボタンダウンシャツも用意はしていますが、セーラーならオーバーシャツで着られて熱を逃がせますので、夏をより快適に過ごせる点でもおすすめです。

-リボンやタイ、男子のパンツにも、細部まで語りきれないくらいこだわりが詰まった制服に仕上がっていますね。

関口:SNSで仕上がった制服をご覧いただいた方からの「FUDGEって感じだね」というコメントを見てほっとしました。先生や生徒さんの意見は取り入れつつも、FUDGEが得意とするトラッドスタイルと化学反応を起こして、品川学藝高等学校らしさを表現したかったからです。

三浦:先ほども申したように我々はファッションに関しては素人ですから、我々のめざすゴールや表現したいものだけをお伝えし、基本はFUDGEさんにデザインを委ねました。我々のゴールはお洒落であること、学校創立120年という歴史が醸し出すストーリーを守ること、そして教育がめざす「知性と感性の融合」を制服デザインに落とし込むことです。その上で学校現場での実用性を考慮していきました。

関口:この制服は、提案したスタイリングを崩さず、姿勢よく着用するのが一番美しく見えると感じます。表現として、あえて着崩す方法もありますが、それは正しい型を知っているからこそできる表現だと思っています。ファッションはTPO。フォーマルな服装は窮屈だと思う方もいるかもしれませんが、それぞれ理由や歴史があります。正装感のある上質な制服なので、赤が入っていても冠婚葬祭のような場にも問題なく着用できるデザインです。

三浦:生徒が制服を着崩すのも、より良く見せたいという気持ちの表れだと思います。ただ、どこの学校さんも同じような着こなしでは個性が埋没してしまうように感じます。細部にまでこだわってつくった今回の制服で、エレガントに着こなす気持ちよさを感じてもらいたいと思っています。

学校制服はどうあるべきかを考える

- さて、制服は無いほうが良い、服装も自由が良いのではないかという風潮もある中で、品川学藝高等学校として制服を提示するのはなぜでしょうか。

三浦(品川学藝):本校は2023年度から校名を変え、男女共学校になり、コースも再編と、大きく変化します。その中で、旗のない新しい学校になるのではなく、これまでの120年に及ぶ歴史や、特色である芸術の香りは残しつつ生まれ変わろうとしています。

我々はその想いを、教育内容を含めて様々な形で具現化することが必要だと考えています。その1つが学校制服だと捉えています。創立120年を迎えようとする学園の歴史やアイデンティティを守りつつ、身に付ける高校生自身がかわいい、かっこいいと感じられる形に落とし込みました。

関口(FUDGE):制服として、どうあることが正しいのかを決めることはできません。立場や、生徒さんの目指す将来によって何が正しいのかは違ってきますから。それでも、学校の旗印として品川学藝はここに軸足を置くことを「選んだ」ということが大事なのだと思います。

私学ですから、生徒さんはたくさんある学校の中から選んで入学してくることが多いと思います。「我々はこれを素敵だと思っています」という学校としてのこだわりを制服にも込めてお伝えしているので、それに賛同してくれる生徒さんが入学してくださると嬉しいです。

三浦:制服は作って終わりではなく、時間をかけて学校「らしさ」が醸成されていくものだと思います。品川学藝高等学校の歴史が次の120年につながっていくよう、新制服と共に前進していきたいと思います。


●品川学藝高等学校について
学園創立120周年を迎える2023年を機に、日本最古の私立音楽学校をルーツとする日本音楽高等学校が生まれ変わります。校名は品川学藝高等学校、男女共学校として新たに出発します。建学の精神に「愛と和と誠実」を掲げ、知性と感性の融合を通した「人間力」向上を最重要目標とする教育を実践。設置コースは普通科(リベラルアーツコース、eスポーツエデュケーションコース)と、音楽科(ミュージックコース、パフォーミングアーツコース:バレエ専攻、ミュージカル専攻)の2科4コース。大学受験対策を校内で完結できるよう、外部教育機関の校内予備校を設置するほか、学費無料制度など支援体制を充実します。またリニューアルする新制服はファッション誌「FUDGE(ファッジ)」とのコラボレーションです。

●FUDGEについて
シンプルだけれどこだわりが随所に詰まった特別なベーシックスタイルを提案している月刊女性ファッション誌。2022年は誕生から20周年を迎えるアニバーサリーイヤーで、アパレルブランド各社とのコラボレーション商品のリリースや記念イベントなどを実施している。