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短編小説

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2020年5月の記事一覧

煮えきらない男

 まじで? ってそれを今ってゆうか今さらいうのぅ? 目の前じゃなくコロナなので横並びで座っている男が唐突になんの脈絡もなく、あ、そこの天かすとって、というような軽い口調で切り出した。
「でもさ、なんで寿司屋じゃないのに並んで座ってんだろうね」
 なるべく対面ではなく横並びに座りましょう。とお店のドアに書いてあったのであたしと男は律儀にそれを守っている。ただの古くさい喫茶店だ。結構奥ばったところに位

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シャセイしない男

シャセイしない男

 同じ派遣会社の男だった。配属された工場の製造ラインまで一緒で、そこの工場長が嫌なやつで嫌なやつだったお陰でその男と工場長の悪口をいう中で仲良くなっていき、気の利いた言葉などはまるでなくいつの間にかセックスをする間柄になっていて挙句あたしはその男のアパートに転がっていたしもっといえば、すっかり男のことをいや正確にいうと男とのセックスが好きになっていた。特に顔も性格も普通よりもやや下の方で決して好き

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さけのみの男

さけのみの男

 あうといつも酔っていた。酔っていないときの姿をみないほうがつき合った5年の中で日数にしたら30日くらいだったと思う。
 出会ったときも泥酔で異様にテンションが高くノリのいい人だなぁと思っていたし、多弁だったし初対面のあたしのことでも、あやちゃーんなんて気さくに呼んでくれ、馴れ馴れしく肩を組んできたりしてそれでもおさまらずに、チュッと唇にキスをしまだし足りないのかあーんといってポテトフライを口移し

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virus

virus

『今電話いい?』
 ブルッとスマホが震えて画面に目を落とす。
 ずっと音信不通をつらぬいてきていた彼からでやっぱりドキドキした。
『メールいい?』じゃなく『電話いい?』というのなにごとなんだろうか。と訝る反面もしかしてもしかしたら? というグレーな空気が目の前を通り過ぎた。ドキドキしながら電話を待つ。あたしはそのとき会社にいた。10分くらいして彼からの着信があり携帯を持って立ち上がる。そのままトイ

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wont to kill

wont to kill

 薄暗い部屋の中に細く太陽の光が入っている。よく見るとたくさんの埃が浮いているのがわかる。こんなに汚い空気をあたしたちは吸って吐いて生きながらえている。こんなに汚い空気でもないと一瞬で死んでしまう。空気清浄機の音がブーンとうなってぎょっとなる。
「もう夏のように昼間は暑いね。あの、ほら、ジャンバーに扇風機がついているの今年も着るのかな? あれさ、体が風で膨らんでなんだかロボット見たいだよね」
 し

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Just one word

Just one word

 どうしてこんなにもあいたいのにあえないのだろう。たった一目でいい。顔が見たい。どうしてそんな簡単なことが高校三年生の数学よりもむつかしいのだろう。
 あいたくてあいたくてふるえる〜、の西野カナじゃないしふるえはしないけれどずっとあのひとに心を支配されてつい無駄に涙を流している。

「はぁ? てゆうかさあんたってバカなの? それでなきゃアホなの?」
 ああ今日も残業か? チッ、と定時の10分前にパ

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