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短編小説

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2019年9月の記事一覧

あき

あき

 暑さが落ち着いてくるのと比例して身体がそれについていけなくてひどく倦怠感におそわれる。毎朝、栄養剤ならびに栄養ドリンクでは足りずクソまっずい青汁を飲んでから会社に行く。
「おはよ」
 ここのところ来なくなった『憂さん』がたまに会社に行く5分前にあらわれる。
「どうよ」
 まず体調を訊いてくる。
「いつものことだわ」
 そっけなくこたえると
「へー」
 それだけいってあたしの全体をゆっくりと舐める

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なんとかなるさ

なんとかなるさ

 ものすごく嫌なことがあって憂鬱で今にも泣きそうでそれでも腹が減っていたのでコンビニへ行き、ちょっと高めの食パン(あたしは食パンが大好き)とレジ横にある茶色の揚げ物のなにかを買おうとレジに並んだ。お茶は持っているからよしとしてペイペイで支払うのでスマホしか持っていなくああなんて楽になったんだろうねと自問自答しながらふと顔をもたげると目の前に並ぶおじさんのTシャツの言葉に実際励まされた。

【人生な

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シーツ

 しゅうちゃんに時折にあいたくなる。だから時折気まぐれにメールをする。
【涼しくなってきたね】とか【おげんき】とか【どうかな?】とか。どうかな? どうかな。なにがどうかな?なのかなのかなんて意思の疎通がない人間関係ならば絶対にわからない。
【どうかな?】
 返事になど一切期待をしていなかったけれど今日は『時折にあいたくなる』日。だったようでついメールを打った。3分くらい経ったときスマホが身震いをし

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かお

 最近目覚ましのアラーム(スマホのやつ)よりも必ず(とは限らないけれど)3分前に目が覚める。なのでアラームなのにアラームの役目を果たせないアラーム機能はその後において反撃かといいたくなるほどスヌーズ機能によっていちいち8分おきにカバンの中でなり続ける。あーもうと唸りながら幾度目かのスヌーズをオフにしそのついでにメールやTwitterやネットニュースなどを観るための喜ばしい機械なる。スマホというもの

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第54回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「つき」藤村綾

 とにかく日当たりがよくて大きな窓のある部屋を。不動産屋の営業の水野さんに半年前から伝えてあった。あったけれど、今まで四件ほど水野さん推しの物件を観覧しに出向いたけれど、納得のいくような物件には出会えず未だにまだ日当たりがおそろしく悪く小さな窓しかないワンルームに住んでいる。

「本当にすみません。なにせ都内で駅近でとなるとなかなかなくって。その大きな窓ってのが」

 すっかり仲良くなってしまった

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ラブ・ホテル2

ラブ・ホテル2

 藤田さんとホテルにいった。また、である。彼が無職なのでこんなことが出来るのだ。こんなに頻繁に会って信じられない、という思考など彼にはおくびにもださないことにしているし余裕ある女を演じていたいという思いがとてもある。
「自分は? 仕事は? 休んだの?」
 車の後部座席に座る藤田さんがバックミラー越しに訊いてきた。なのでいいえとこたえる。今日の分の仕事は昨日のうちに終わらせたの。と、付け足した。
 

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ペイペイ

ペイペイ

『あまり時間ないけど……』
 いつも時間ないじゃんよ。そう思いつつも
『わかってるよ。どこで待ち合わせする?』
 どこっていってもなぁ、と小声でいいよどんで少し間が出来る。間はとても長く感じたけれどそれはしかしたったの30秒だった。
『ラ・セーヌの近くのドラックストア、えっと、なんだっけ? そこまで来いよ』
『あ、うん。わかった』
 わかった。の4文字をいう前にもう電話は切れていた。

 昨夜、し

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