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なんとかなるさ

 ものすごく嫌なことがあって憂鬱で今にも泣きそうでそれでも腹が減っていたのでコンビニへ行き、ちょっと高めの食パン(あたしは食パンが大好き)とレジ横にある茶色の揚げ物のなにかを買おうとレジに並んだ。お茶は持っているからよしとしてペイペイで支払うのでスマホしか持っていなくああなんて楽になったんだろうねと自問自答しながらふと顔をもたげると目の前に並ぶおじさんのTシャツの言葉に実際励まされた。

【人生なんとかなるさ】

 いやいやおじさんさ、そのTシャツまじで恥ずかしくないの? 気に入ってんの? てゆうかピンクだしが派手じゃん。おじさんの手に持っていたのはカップヌードルカレー味と巨大なシュークリーム2個だった。へー。おじさんさ、甘いものいけるくちなんだね。ふーん。「ナナコで」おじさんnanacoカードで支払った。すげーじゃん。おじさん。けれど携帯はガラケーでしかし頭の毛は真冬の砂漠のそれで顔はシミだらけでカビハイターでも吹きかけたくなるような顔だった。

「人生なんとかなりますかね?」

 おじさんについ声をかけてみた。どうしても喋ってみたかったのだし。

「なるよ」

 ニタリと顔をほころばせてその場を去っていった。なるよ。おじさんがいうからにはなるんだろうという変な確信のもと「唐揚げとコロッケを一つづつください」と注文をする。太ってもいいし悩みなどすっかりバカらしくなっていた。いつかは死ぬし。死ぬ以上の辛いことなど蚊に刺されるほどくらい瑣末なことだろうと急に考える。おじさんありがとう。

 あたしは鼻歌をふんふんと歌いながらおもてに出る。バカらしい。秋の空は昼間でもさみしさにさいなまれる。あーあ。あたしはうなずく。だから秋は人恋しくなるんだな。と。

 フラれることもまた人生だ。なんだか勇気と気力がふつふつと湧いてきてコロッケがおそろしいほど美味しく感じた。ソースをかけなくても。

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