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ある社長の物語

今回は、ある社長の一生を通じて「人間の権威とは何か?」「プライドとは何か?」を探って見ようと思います。物語は彼が現役バリバリの時代に遡ります。

①~絶頂期~

私は、若くして部長になり、そして役員になり、最終的に社長になった。会社では常に私が一番だった。だから、従業員達には「私のノウハウ、そして生き様」を教えないといけないと思った。これが働き方だという事を。

私に対して態度が悪い従業員には罵声をあびせた。「どうしてこんな事が分からないんだ!」と。本当にダメな連中ばかりだ。でもどうだ、私が一言いえば従わない者はいない。私は会社のトップだからな。

どうして、この会社の従業員は「働くことの本質」が分からないのだろう?だから全従業員に私のバイブルでもある本を配る事にした。私のメンターである稲盛和夫さんの名著だ。これを読んで勉強しろと。これを読んで私みたいになれと。

私は会社のトップであり、従業員の教育者だ。私が人生の指針を示さなければ、こいつらはまともなビジネスマンになんかなれやしない、まともな人生なんかおくれない・・・そう思った。だから、欠点があれば徹底的に指摘し指導した。

②~引退間際~

いよいよ私も引退の時が来た。従業員たちは私の教えを理解できただろうか?私の教え通りに全てを実行すれば、私のように会社のトップになれるのだから。ワークライフバランス?ふざけるな、仕事あっての人生だ。働くことからこそ真の人生の意味を知ることが出来るんだ。もうすぐ、私は、会社を去る。どうか、仕事を通じ人間を磨き、私のような人生を送れるように頑張ってくれ。

③~引退後の日常生活~

私は会社を退き、体の調子が良くない。やはり働くことこそエネルギーなのだ。それと、最近家族の様子が少し変だ。何が変だって?私への家族の連中の態度がおかしいのだ。私は社長まで務め上げた男だぞ。誰のおかげで今このような生活が出来ていると思っているんだ!もっと私を尊敬し大事にするのが家族というものだろう!そうだ、たまには会社に顔を出してみるかな・・・。きっと、喜ぶだろうな、何たって、私があの会社の従業員の目標だからな。

④~亡くなる間際、病室で~

私の人生は何だったのだろう?会社のトップになり従業員みんなが私を尊敬していたはずだ・・・。なのに、なぜ誰も見舞いに来ない?私が病気で苦しんでいるんだぞ。なぜ、お前たちは来ないのだ?誰のおかげでここまで来れたと思っているんだ・・・。

呼吸するのがやっとだ。目の前が暗くなってきた・・・。

⑤~別れの日~

私は死んだのだろうか?ここはどこだ?ああ、大勢の人が集まってきている。やはり、私は偉大な社長なんだ。そう私は、お前たちの偉大なる目標なんだ。おお、吉村・・・吉村は私が現役時代、特に目をかけて私の思想を伝授した社員だ。

あれ?私の事が見えないのかな?おい吉村!・・・。私は吉村の後を追いかけた。するとこんな会話が聞こえてきた。

「ほんと、たいへんな奴だったよな。あの野郎いつも、こちらの話も聞かないですぐ怒鳴り散らしやがって。よくまあ、あれで社長が務まったよな。」

『吉村さんはアイツの扱いうまかったですよね。』

「まあな、サラリーマンというのは、空気を読んで生きているわけよ。いかに空気を読んで、あなたが全てですよって振舞うかが勝負なわけよ。まあ、そんで勘違いして俺は偉いんだなんて思ってる奴がわんさかいるわけよ。と言っても、アイツのお陰で俺も常務になっているわけだから、とりあえず形だけでも別れの挨拶くらいしとかないとな」

⑥~悟り・・・初めての気付き~

何だって・・・。どういうことだ・・・。現役時代あれだけお前は忠実だったじゃないか。私は、騙されていたのか・・・。

突然、体がさらに軽くなり空へ引っ張られるような感覚になった・・・。その時初めて悟った。誰も私の事を想っていてはくれなかったのだと。誰も私を凄いと何て思っていなかったのだと・・・。はじめて目が開き、何が大切なのかを悟った。でも、もう戻ることは出来ない・・・。

⑦今日の名言


「これは持論なんですが、プライドっていうのは1円にもならないんですよ。残念ながら1円の経済効果も与えない。プライドでメシが食えるんだったらいいけど、むしろ障害になることのほうが多い。人間、自分のなかで自分が偉くなっちゃダメですよ。特に僕のような学歴も資格もない人間ならなおさらです」~杉村太蔵


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