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ゲンロンSF創作講座6期②/第4回フラッシュフィクション全40作、一言感想!

ごきげんよう。

初回以降ちょっと久々になってしまいましたが、単にコンテンツを読み、単に勝手な感想を書いていくコーナーです。受講生およびコミュニティのためを装いつつ実際には自分のためにやっている感。今回は特に自分の経験談とか挟まずに、おそろしく淡々と粛々と書いております。

↑これ課題ページ

なお今回は梗概(あらすじ)じゃなく、単体で完結している1,000~2,000字程度のフラッシュフィクション(ショートショート)作品なので、前回以上に、SF界隈ウォッチャー(?)以外の方でも実作を試し読みしやすいと思います。ぜひ。

以下一応断り書きを。

・まずは1番良いと思った作品群、次に2番目に良いと思った作品群について書きます。それ以外はありません。違います、忖度じゃないです。

・前回に引き続き、あえて熟読ではなく、さらーっと読んでいます。また今回は課題ページの並びの下のほうから(=夕方さんの作品から)読んでいます。

・で、読み方のみならず、感想のほうもさらーっと済ませております。もっと視点、キャラ、台詞、別作品との比較など様々な角度から分析できればいいのですが、分量的にご寛恕を。

地名縛りゆえにリアリズムから始まることが多いので、ガチガチの「SFファン」ではない自分としては物語に入りやすかったです。けれどそれが必ずしも面白さには直結しないあたりが難しい。

・最近の僕の、フィクションの楽しみ方のモードに問題があるのかもしれませんが、地名縛りゆえに普遍性を感じにくいケースがありました。要するに固有名詞に思い入れがないので、「俺には関係のない話だな」と思ってしまうのです。むしろ関係させてほしい。

「SFとして」良いかどうか、の判定はできませんのでご了承を(というかそれは大森望さん含めた神々がやってくださるからむしろやらなくて良いのか?)。なので、いやこれはSFじゃないだろうみたいな作品を評価している場合も普通にあります。

・「実作じゃなくて梗概みたいだった」という表現は使わないようにしていますが、正直そう感じた作品もそれなりにあり。しかしどのへんを変えれば「実作」っぽくなるのかは僕も当日の講評待ちです。

さあ前口上は程ほどに。

1番良いと思ったやつ12作(順不同・敬称略)

あの子は正定聚《しょうじょうじゅ》/夕方 慄
特に説明もなく「そう、もなみちゃんは現生正定聚」とか言われるバカSFの感じが良かった。もなみちゃんの描き方もマンガっぽくて好感。ただやはりもなみちゃんに大仏を操縦とかしてほしかった。主旨が違うか。

もっと小さく、すごくわくわく。/邸 和歌
お話として巧みで美しく、伊坂幸太郎の『夜の国のクーパー』とか思い出した。ただタイトルがタイトルなので、もっと単にわくわくさせてくれる箇所とか欲しい!と思った。

あさくさ・ふらぐめんたる/向田 眞郵 (ムコウダマサユウ)
最初に友人が出てくるのでそれが後半でも何か活かされてほしかったとも思いつつ、不穏な感じの物語と文体がマッチしていて読みやすい。もっと外連味を足してくれれば長編の冒頭部としても機能しそう。

紅化粧奇譚《くれないけしょうきたん》/中野 伶理
とにかく文章が読みやすく、まずそこがありがたい。話もきれいにまとまっていて、池袋が舞台である必然性も構築されており、今回完成度が一番高いと感じた。ラストの囚われてる感の記述はもっと婉曲な表現で、感情をかき乱してほしかったかもしれない。

凍えるほどに温かく/方梨 もがな
コンテンツに飲み込まれる街、というロケーションの活かし方が良い。読んだあとに良い気分になれる短編は短篇として正しいと思う。ただ序盤に知らない固有名詞が次々出てくるあたり若干読みにくさは否めず。

跳んで☆埼玉マルチバース/庚乃 アラヤ (コウノ アラヤ)
埼玉という材料に最適な料理の仕方をしていて、逆にそのぶん意外性がないといえばないのだけど、なんにせよ読んでいて愉快な気分になれるし最後のエモーションも良い。

新宿ラビリンス/渡邉 清文
シミュレーション的。アイデアが好みなだけに、その変ないかがわしさをもっと冒頭でかましてくれても良かったのにと思う。あるいはもっとリアリズムを突き破る強烈な何かが描写されていても楽しい。

川は海に向かって流れる/岸田 大
冒頭の意味深なナレーションや、会話文によって雰囲気作りをしていくところが好ましく、設定も良い。エモーションを直接的には提示しないあたりはあえて抑制的にしているのだろうけど、好みは分かれそうだと思った。

きらきらひかるすべて/イシバシトモヤ
静かでありつつ、しっかり読ませるような始まり方。不穏な空気の醸し方と、「いらっしゃいませ」の箇所で謎の正体がぼんやり分かるような塩梅もうまい。もっとまとまった分量でも読んでみたいと思った。

染織夜行《せんしょくやこう》/長谷川 京(けい)
近代文学的な手触りもあって当然好き。価値観や思想をモノローグで説明されるところは若干興ざめの感、また時系列も分かりにくく一瞬目が止まる、とはいえ特に終盤は再読に耐えうる一篇。読点のリズムが読みやすい。

河内音頭にのせまして/難波 行
やろうとしていることと描写のリズム感がマッチしているからか、結果、よく分からなかったが何かとりあえず好き、みたいな気持ちになった。ラスト2文は名フレーズだと思う。

赤味噌を食べてはいけない/中川 朝子
リアリズムの中にいきなり「ファーストコンタクト」とSF用語を放り込む緩急のつけかたが良い。ただ設定が俄然面白いだけに、中盤からのドライブ感がもっと欲しいと思った。

2番目に良いと思ったやつ28作(順不同・敬称略)

甲羅の上に/八代七歩
アイデンティティの話になるので、もっと中編くらいで読みたいなと思わせる読み味。今回の課題だと短いので難しいかもしれないけれど、読者としてはウサギとカメの関係性でもっとエモくなりたかった。

羽根木ナイトクルージング/馬屋 豊
読み心地は良かった。アピール文を読むと実際にヤギがいたとのことで、確かに「ありそうな話だな」と思ってしまった。そうなるとリアリズムなので、語りの面白さとかを求めてしまう。

世田谷天然酵母パン/継名 うつみ
最後の数行により強まる、おお、フラッシュフィクションだ!という読後感が良い。ただそれで終わってしまう感もあり、もうひとつくらいフックが欲しいなというのは欲張りか。都市感は薄い。

VR六区稽古場にて/髙座創
語りモノは好きなので、ふつうに楽しく読みつつ、ただSF要素と(語りならではの)おかしみのようなものがなかなか共存できていない印象で、目がすべってしまった感。

おばあちゃんは乗車率の守護神/猿場 つかさ
さらーっと読んでるからかもしれないけど、要素が多くて「ふむふむ?」という気持ちになっているうちに終わってしまった。設定は興味深いので、丁寧にそれを開陳するような形の中編とかで出会いたかった。

千代に栄えよ/やまもり
全体を貫く雰囲気と文体は好み。この舞台がシャッター街である意味だったり、タイトルとのつながりに関してはあまり分からず。

掃き溜めに竜! なのか?/柊 悠里
起きている出来事は面白いけど、リアリティレベルを担保するための説明部分が長いのがもったいなく感じた。実在の地名だからこそ、読者的には「いま自分がこれを読む必然性」みたいなものが見出しにくくなるような。

マジックミラー/宿禰
人名が多いところで早々につまずいてしまった。終盤は面白そうなことが書いてあるので、序盤に設定とかをどーんと出してツカミを作ってもらえるとありがたかったなと。

在りし日の、川の記憶/織名あまね
個人的に好きな感じの文体とテイスト。出だしも少年少女系アニメにありそうな感じで良い。ただ、心に引っかかる何かがあるかどうかで言うとやや厳しい。

極彩色の砂浜/花草セレ(はなくさせれ)
いったん没入できれば良いと思うんだけれど、その壁を初読では超えられなかった。リズムが一定だからだろうか。

さようならスペースワールド/和倉稜
出来事が先に起きていて、あとから読者のエモーションが追いつく、みたいな構図になりそうでギリなっていないと感じた。追いつくためには何か構成の妙、あるいはシンプルさが要るのかもしれない。

ばいばい無尽蔵/伊達 四朗
読みづらそうな見た目に反して、物語の立ち上がり方のおかげでいい感じに読める。ただ、読めるとはいえあまりフックは感じられなかった。

Negentropy For Two(ふたりでネゲントロピーを)/櫻井 雅徳
こういう雰囲気の小劇場演劇ある~!という気持ちになった。自分はコンテクストなしに文字列だけに没入することは難しいタチなので(だから詩は苦手だったりする)、あまりちゃんと読めなかった。

通路にて/岡本 みかげ
始まり方はミステリ風でわくわくして良かった。ただオチに必然性があるとは思えず、どうしても尻すぼみになっていった印象。リーダビリティはちょうどいい。

上手に笑って/中野真

何かがどうにかなれば、エモくなれるものになる気がする。という恐ろしく雑駁な感想。人名が出てくるときの精彩の問題だろうか。記憶のあやふやさ、というテーマには関心がある。

光に向かって泳ぐ銀の背/大庭繭
ご本人的には飽きてるコメントかもしれないけれど、文章がいい。ただ水繭の設定部分はよく分からず。それが現れた結果、具体的にどういう状況になっていて、主人公あるいは人々にどんなエモーションが喚起されているのかまで、設定開示のタイミングで書いてあると入り込みやすいのかも。

声の消滅/山本真幸

やろうとしていることは分かるとはいえ、形式上どうしても分かりにくさが勝ってしまった。ただ、とは言いつつも何度か読み返そうと思えるだけのハッタリ的不穏さは演出できていて上手いと思った。

アワビ洗浄/牧野大寧(だいねい)
設定の開示のペースに無理がないからか、読みやすい。起伏がなくさらーっと読み終えてしまったので、驚きや意外性がひとつ加わっていると良かった気もするけど、しかしなんでもかんでも意外性あれば良いわけじゃないしなあ……と思った。

バンコン都市/真中 當

二人の位置関係、二つの地域の関係性が分かりにくく、これは何の話だろう?と気づくのに時間がかかった。逆に言えばそこがクリアになっていれば終盤の展開にもグッときたはず。最後の1行なんかはシンプルだけど良い。

僕ら殺す故郷《ふるさと》/降名 加乃
導入の仕方がうまく、感情移入がしやすい。どうしても短文のモノローグが多くを語りすぎている感があり、またそこがリーダビリティをもたらしているとはいえ、インパクトのある箇所は特になくぬるっと終わってしまった。

決斗!タンガロン対リバウォック/岸本健之朗
「北口で南口を咥えて」という表現や、ナレーションの外連味も良い。ただ後半は「北九州で戦いをしている」という以上の面白さをそこまで読み取れなかった。内面を描くわけにもいかない怪獣のバトル描写の難しさを感じた。

国立=絶対防衛ライン/霧友 正規
前半は読みやすかったけれど、設定開示を「誰が誰の面倒を見るって?」「本当に必要なことですか」といった台詞から始めるのが単に没入しにくさにつながっていて、効果的だとは思えなかった。情報の出し方の問題か。

聖地丹波/広海 智
意図的かどうか、情報や文字の密度がかなり詰まっておりリーダビリティに欠ける。テーマが興味深いだけにもったいないなと思った。

ゆうやけ橋わたって/柿村イサナ
読み心地は良いけれど、どうにも自分へのフックがないままに終わってしまった。飛龍頭にフリガナが欲しかったのと、飛龍頭の存在にもっといろいろな意味合いを含ませてくれたら面白そう。

町田併合/瀧本 無知
設定や用語に遠慮なく笑っていいタイプの作品だけれど、笑う前提としてはおそらくスムーズな読書体験が必要なので、たとえば格差の話とかはもっと冒頭から分かりやすく出してくれても良いと感じた。

空白のショッピングモール/相田 健史
主人公と宇宙人と街だけが出てくる話なので、たとえば街にまつわる記憶のひとつがもっと強烈に描かれていたりしないとなかなか読者心が刺激されにくい。エモさの芽があるのは分かる、しかしこちらに共有されない、みたいな状態。

渋谷聖地巡礼ごった煮ツアー/古川桃流(とうる)

渋谷の頽廃的な感じ、あるいは今後の「何も起きそうになさ」を、説明台詞でなく描写的に描いてもらえたらグッと来た気がする。せっかくARを使うならもっとワンダーな出来事とか起きてもいいのにーと思ってしまう。渋谷というテーマは個人的に興味あり。

霊山のある都市/夢想 真
あまり乗れなかった。この感じでいくなら、冒頭部の記述なんかにはもっとクサいくらいの外連味があってよいのでは。

以上!!以上だ!!疲れたので来月もまた会おう!!

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