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ゲンロンSF創作講座6期①/第1回梗概を読んでみた!俺的9選

みなさまお元気でしょうか。あいけです。元HN「ガンランサー」です。

近ごろは基本的に部屋にこもりきりなので、トー横でキャッチのおねえさんから声をかけられただけでも嬉しくなってしまうような日々です。トゥンク……という鼓動の音と同時に、脳内で『前前前世』が流れます。とはいえ俺と一緒にすずめの戸締りしない?といったクソ台詞しか思い浮かばないので、特に何のドラマも始まりません。

さて2022年の4月末から、僕は株式会社ゲンロンの運営する「SF創作講座」というやつの聴講生として末席を汚しながら生を貪ることになっています。

分からないと思うのでちゃんと説明しましょう。SF創作講座というのは、簡単に言うと、SFを創作する講座です!!!!!なんて分かりやすいんだ。

この講座のシステム上、バトルサイボーグたる「受講生」の皆様は月に一度、梗概(あらすじ)を提出することによって(+実作によって)互いに殴り殴られ、くんずほぐれつ、ポロリもあるよ!の死闘を繰り広げるわけですが、あくまでも「聴講生」である僕は「ふむ……」と腕組みをしながら見守る役目。つまり基本的には創作術というよりは、後方彼氏面スキルなどを磨き上げていくことになります。

そう、したがってこのnoteは「誰の後方彼氏になるか」を決めるために書かれていると言っても過言ではありません。俺の脳内で流れているのは『前前前世』なんかではなかった。『抱いてセニョリータ』だったんだ。

というわけで早速感想をぶち書いていきたいのですが、その前に諸注意をば。

  • スタイル
    すべての方の梗概について感想を書く、というのも次回以降やってみたいのですが、とりあえず今回は9選にします。なぜならそのほうが、1mmくらいはバトルロワイアルの熾烈化を推し進める一助になりますからね。というのは30%くらい冗談で、ほんとうは時間がなかったからです。

  • 選んだ基準
    なんといっても実作じゃなくて梗概なので、感想やら批評やらというのもじつはわりと難しい気もするのですが、基準はシンプルに「(今の僕が)実作を読みたいと思ったかどうか」です。だから「今の僕」の趣味嗜好や精神状態などが大いに影響してきます。以下にその実情を書いてみましょう。

・大学で夏目漱石専攻だったし文芸誌も読むっちゃ読むので、純文学は好きなほうだけど、純文学純文学してるだけのやつはそれはそれで微妙

・アシモフ~イーガンなどを読んだ結果、ハードSF的な単語や設定が出てきただけでは別にテンション上がらないことが分かった。なんなら単語や設定を頭に入れる労力が発生する分、ちょっと嫌。「漢字が多いなあ」「カタカナが多いなあ」となる

・あと意識高い主題を扱ってるのを読むと、「意識高いなあ」という感じになるので、そう感じさせずにぜひうまいこと乗せてほしい

・40作以上もあるので、読みやすいやつ、目を引くやつ、シンプルにおもろそうなやつがいい

・個人の趣味としては、伊藤計劃、伊坂幸太郎、川端康成、平家物語、BLEACH、ポルノグラフィティ、DOESとかが好きなので、要するに若干そういうアレな部類の奴

書き出してみたらなんか単にめんどくせー読者なだけのような気もしてきた、が、しかし!いくぞ!!

(※梗概というのはそれぞれ1200字程度なので、SF創作講座の関係者以外の人も、時間と興味があればぜひこのnoteと一緒に梗概を読んでみてね!)

(※「俺的」とか偉そうなタイトルになってますが、全44作品、提出してる時点で超すごいので、どれもリスペクトしながら読ませていただいてます!)

俺的9選!(順不同)

①荒波さん『地球酔い

え、どうなるのどうなるの!?なるほど、ああそうなるのか……そうなるよね!確かに!みたいな感じでグイグイ読ませられました。造語が少ないのと、最初に設定を提示する第1段落の時点で「えっ、地球ずっと揺れて我々ずっと酔ってんの?最悪じゃんどうすんの……」と、フックになるエモーションをちゃんと喚起してくれたおかげで読みやすかったんだと思います。

僕の場合、名作とされるハードSFなんかでもしばしばあることですが、作者が設定を一所懸命ズラズラ並べてきたとて、こっちとしては「いや知らんがな」となりがち。『地球酔い』にはそういう「知らんがな感」がなかった。壮大な話ではあっても、日常的な感覚や経験と通ずるところがありました(僕がお酒に弱くて、すぐ頭痛くなりがちだからかも)。結末も綺麗で良い。

②長谷川京(けい)さん『異界からのスーパーライク

2行目でいきなり、「自作した登録数5名のマッチングアプリ」をいじくってるキャラがいるんですよ。そんなの面白そうじゃん。元々「バカっぽくて面白いやつらがシリアスな展開に巻き込まれる/シリアスな一面をのぞかせる」みたいなたまにある小劇場演劇とか、最近の映画で言えば『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』とか、そういうのが好きなのです。

後半に出てくる「別宇宙の数学公理とのマッチング」というワードも良い。いい感じにアホっぽく、いい感じにワクワクします。しかも種とか家族とか多様性とか、現代的でめっちゃいいテーマを扱う長編すら作れそうな感じ。

③イサナさん『糸は赤い、糸は白い

最初の設定提示のところがやや分かりにくかったけど、それもあまり問題にならないくらい、途中から「これ、"良い"やつじゃ~ん」ってニヤニヤしながら読んでしまいました。マスクがあるおかげで不審者にならずに済んだ。よかった。鎖骨か~。鎖骨ですよねえ。

「運命の相手」くらいからの、最後のほうの文章のリズムがたいへん良いです(人によっては寒いと感じるかもだけど)。「思考がそのまま伝わってしまう」というのは最近だと『三体』の三体人のやつですね。しかしそういう世界になっても、人間には、文学がこだわり続けてきた「内面」というものがあるのだった。ここで表れている葛藤って、「胞子で相手と通じ合う」という特殊な設定ゆえの問題に見えて、じつは我々みんなが知っているような普遍的な愛や告白の問題にけっこう近いかもなあと思いました。

④アロトラタさん『カウンセラー

「AIやロボットが自我を持つ」というやつ自体はもちろんよくある設定だけど、その書きぶりと設定にユーモアが満ちているので普通に面白いです。実作になったらこのお話がどう転んでいくのか分からないけど、なんとなく「この作者なら面白い展開にしてくれそう感」があった。ので勝ち。というか1行目からして良い。

ポストヒューマンの時代が来ると言われる中で、むしろAIは逆に「ヒューマン化」もするのだ、という思考実験でもあると思うので、当然ヒューマンドラマにもできるし「人間とは何か」といった深い思弁も展開できるんだと思うけど、見るからに意識高い方向にはあんまり行ってほしくない話だと思いました。かすかな悲哀を、剥き出しで、悲哀のままに描いてほしい、と思わせる梗概。

⑤佐竹 大地さん『世界は今日もオールグリーン

まずキャラがバカっぽくて良いですね。作者のアピール欄にもあるようにラノベ成分を感じる。キャラにかわいげがあるのは重要で、夏目漱石の『坊っちゃん』なんてきっとその典型だし、そのように「親が子を見る態度」こそがユーモアと関係するのだと漱石(というか漱石を論じた柄谷行人)も言っています。

短編の梗概だから仕方ないかもだけど、個人的には、「この文章は植物による人間の観察記録」ということにはしなくても十分面白くできそうだと思いました(読み巧者の方々はむしろ僕以上にそういう語りの仕掛けみたいなのを白々しく思いそうな気もします)。このキャラ2人が簡単に「成長」に辿り着くよりは、植物のヤバさをちょっと感じたり、「志村うしろ!」みたいなことすらできるんじゃないかなと思いました。まあそんなに志村うしろ!が好きなら黙ってドリフ観てろ、と言われたらぐうの音も出ませんが……。

⑥岸本健之朗さん『テレジャイガーの島

作者は怪獣系(?)の方。シンプルに「設定おもしれ~~」ってなったし、思考実験の進み方も面白い。しかも本筋が進む裏でじつはもうひとつのエモ系ストーリーが進行していた、みたいなやつでもあり、これは良いですよ。良いんだ。「男がバトルに気を取られているうちに大切な何かを失う」って意味では古典的な男性性の話としても読める。

特に目を引いたのはやっぱり第2段落。こういうセンスオブワンダーを容赦なくぶちこむ感じというか、「怪獣がいるんだから死んだはずの女性がそこにいたっていいだろ」的なフィクション感というか。つまりは「設定のための設定」じゃなくて、ちゃんと高揚感や切なさを引き立ててくれる設定になっていて、そこが良いと思いました。お湯加減もちょうどいい。熱すぎず、ぬるくもなく。

⑦KounoArayaさん『死なざるエメス

硬派な文体で1行目からぶちかましておられますね。全体的に無駄がなくて研ぎ澄まされてる感があり、「梗概だから」ということではなく、実作になってもこの雰囲気と切れ味のままで読ませてほしいと思わせる作品。とはいえもし小休止ゾーンを入れるなら、3枚目的、ハードボイルド的なサブキャラのやり取りとかあると嬉しいですね。僕が。

あと改行の仕方も思い切りがあって好きです。「そういうのでいいんだよそういうので!」ってなる(えらそうですみません)。マンガの読切で読んでも面白そう。ちなみにメアリーはブラッディメアリー的な何かかと思ったら思考実験「メアリーの部屋」からだった。世界にはいろんなメアリーがいる。

⑧牧野 大寧さん『砂漠のしきたり破るべからず

砂漠を進むゲーム的想像力が刺激されました。知らん固有名詞がいっぱい出てくる系の小説とエンカウントした場合、僕はまず若干警戒心を持つのですが(それを頑張って覚えた結果ほんとにまじでちゃんと面白くなるんだろうな?信じていいの?みたいな)、この作品の場合、特に「ヌカルパのしきたり」とかっていうルールの部分なんかは、ゲーム的あるいは冒険小説的に単に面白がって読めばいいので、楽しむための認知負荷(という言い方で合ってるか知らんけど)が低かったのがプラスポイントでした。

というわけで前半ですでに好きだったのですが、後半で投入される「砂漠のしきたり」、これがハッタリ利いていてまた良いんですね。ただしハッタリで終わっている感じもあるので、終盤はこの「しきたり」を活かしてもっと読者の感情を揺さぶることもたぶんできると思います。どうすればいいかは分からないけどできるんだ、できる気がする。所詮感想なので無責任に書かせていただきます。

⑨猿場 つかささん『“パパ”活トピア東京

そうだよね、小説もパパ活の話とかちゃんと扱わないとダメだよね~と思って読み始めたら、パパ活の話だけどパパ活の話じゃなかった、と思いきややはりパパ活の話なのかもしれない。分からん。というか全体的によく分からない。分からないが、なんとなくアツい気がするので選びました。アツさを大事にしていきたい男・あいけ。

でもこの寓話性はほんとにワンチャン面白いのでは、と思いました。梗概だと分からないけど、たぶん実作になると現実の「パパ活」の問題系にグッと接近したり、かと思いきやまた離れて滑稽な感じになったりするんだと予想します。社会的なテーマを、必ずしも社会的ではないような仕方で扱うことができるのがフィクションの力だとすれば、これはもっとガッツリ読んでみたい作品だなと、素直に思えました。パパ活に幸あれ。

以上、感想、終わり!!

ふつうに、9作品だけでもわりと息切れしそうでした。ところが全作品読んで感想を書いたり、しゃべったりする人間もこの世にはいるらしい。バケモノすぎるのでは。バケモノの子かよ。ちなみに『竜とそばかすの姫』でモデルになったのは僕の出身高校なのですが、ほんとは都立なのになんか高知県の設定になっていた。大都会TOKYOだぞ。

というわけで僭越ながらつらつらと感想を述べさせていただきました。失礼に当たることは書いてない、と願いたいですが、もしダンガンロンパばりに「それは違うよ!!」な箇所があったらすみません。抗議なさりたい場合は、責任者不在のオープンレターに1300名の署名を集めて持ってきていただければ、Twitterバトルなどを丁重に展開させていただきたいと思います。

ではまた!!講座の関係者の方は今後1年間、よろしくお願いいたします!!

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