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昼休みくらい自由にさせてやれ
私が勤める学校は割と自由な思考や先進的な考えをした教師が多いと思うが、なんだか古臭い考えの大人も未だに多数存在する。(*アメリカの私立校で教師をしています)
10年ほど前から留学生が増えてきて今では15、6カ国からの生徒たちが勉強しているが、ランチの時間は同じ言語を話す生徒たちだけで固まりがちになっている。日本人の子は私とランチを食べたがるし、中国語やスペイン語や、母語の話者が多い国からの生徒たちは大きな集団になってテーブルを占領したりする。
その様子を”排他的だ、アメリカに馴染もうとしていない”と避難するように、彼らに向かって、こんな言葉をかける大人がいる。
”英語上達の妨げになるからなるべく同国の生徒と一緒に座らない方がいい”
”英語の練習になるからアメリカ人の生徒と一緒にランチを食べよ”
”英語を学びに来たのならランチの時も英語を使う努力をしなさい”
そんな言葉を聞くたびに
”アホか、何も知らんやつは黙ってろ” と立ち上がってしまう。
そんなことを言う大人は英語しか話せない。外国で何年も暮らしたこともない。本気で外国語をマスターしようと努力し、成功した人間でもない。英語教育や言語学のエキスパートでもない。なのに英語をマスターするには英語以外の言語を排除せよ、と助言をする。
母語で考えるから、読むから、書くから、喋るから、と言って外国語学習を遅らせたり上達を妨げたりすることはない。むしろ母語の言語力が高い方が外国語の上達も早い。
現在のアメリカの英語教育(TESOL)では”English only”と授業中に英語だけしか使わないように、など徹底的に母語を排除した指導はしない。時にEnglish onlyな姿勢はImperialistic (帝国主義的)だと批判さえされる。
私が担当している歴史の授業にも留学生はたくさんいるが課題や英語のレベルによってはリサーチや読み物や時には作文も母語でしていい、という選択肢を出す。中国人生徒が二人いればペアになってディスカッションをする時に中国語を使ってもいい。ただみんなに発表する時には英語にしてもらう。
小さい頃からバイリンガルとして育った子供はわからないが、後期バイリンガル(笑)な我々のメイン言語は死ぬまで母語であり、外国語はその上に積み重ねていくものだ。積み重ねが高いほど母語と第二ヶ国語の距離は近くなるとは思うが、残念ながら全くのイコールになることはない。でもそれでもいいのだ。
私は大学以降で習った語彙や概念などを自分の母語にさっと変換するのが苦手だ。英語で、英語の文献を使い、英語で講義を聞き論文を書き、発表してきた知識は英語のまま積み重なってきているのでそれを改めて日本語に直すのは時間がかかる。
英語を学んでいた頃はその真逆で、英語で聞こえることを母語の知識と結びつけるのに時間がかかり、理解できない概念を日本語で何とか理解しようと時間をかけた。
どちらも本当に疲れる。1つの言語しか頭にない状態で聞いたり読んだり書いたり話したりするのとは段違いに脳の疲労が激しい。言語が2つ以上頭の中でぐるぐるしているのは後ろ向きに全力疾走しているようなものだと思う。そして外国語を頭の中から消すことは出来るが、母語を消すことは出来ない。消す必要もない。
もう30年以上英語で生活している私でさえ ”あーーーーー今日は英語聞きたくないし喋りたくないーーーー” と感じる日があるのだから、留学生はもっと疲れているだろう。
彼らにとっては毎時間が英語の授業だ。音楽も体育も数学もアートも、全部英語の授業なのだ。オフィスに書類を頼みに行くのも、ハンバーガーに一枚多くチーズを乗せてもらうのも、アマゾンで注文した洋服をキャンセルするのも、その全てが英語の授業なのだ。毎時間ヘトヘトなのだ。
昼休みはそんな脳を休めてあげてリラックスして楽しい時間を過ごす時間。留学生たちは母国のニュースを見たり、音楽を聴いたり、おしゃべりしたりしてまた次の授業に向けての脳のリセットをしている。ポルトガル語や韓国語や日本語でおしゃべりしている彼らの表情は明るく生き生きとしている。
だから昼休みくらいは自由にさせてやれ、そう何も知らない偉そうな大人に説教を垂れるのが私の昼休みだ。
シマフィー
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