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OMG, I KNOW IT IS RUM!


ある日、ランチを終えて郵便物がないか職員用のメールルームをのぞいた時に、入口からでも自分の名前のボックスに何かが突っ込んであるのが見えた。
ビンのお尻のようなものが見え、その上には手紙と小切手の封書が乗っているのが見える。

何だろうかと思い、近づいて手を伸ばそうとした時に反対側のドアから入ってきた人がいた。ペギーさんだった。理事長先生の秘書を長年している人で優しいおばさんだ。

”あら?シマのボックスに何か入ってるわね”

彼女も私の名前の下のビンに気がつく。

そして自分と理事長の郵便物を手に取り、一つ一つ確認しだした。

ニコニコして “なんでしょうかね〜”と言いつつビンを取り出した私は仰天した。静かに仰天し、あっ!とも えっ?とも言わず素早くそのビンを小切手と手紙の間に滑り込ませた。

ペギーさんが “何だったの?生徒からのプレゼント?”と聞くので

“誰からは書いてないですけど、メープルシロップでした”と返し、”あら〜どこの?ケベック?” とニコニコするペギーさんに ハハハ と笑って素早くそこを後にした。

そのビンに入っていたのはメープルシロップではない。

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(実際に貰ったものです)

キューバ産のラムと書いてある。
わたしは何かのいたずらか、同僚からのプレゼントなのか、誰かがわたしを陥れようとしているのか・・・・全くわけがわからなかった。大体学校にお酒の瓶を持ってきて、堂々とわたしの郵便箱に入れる先生がいるだろうか?メールルームは誰でも入ることができるので間違ったのだろうか?

お昼ご飯の後の授業は気になって気になって仕方なかった。
そしてノートやらパソコンやらが突っ込んである仕事のバッグの奥底に沈めたラム酒が誰かに見つかりはしないかとヒヤヒヤしていた。

誰や?何でや?何でラム酒や?

そんな疑問ばかりがぐるぐるしていたが、その謎は放課後にあっさり解ける。

10年生(日本の高1)の女の子が補習にやってきて ”先生!ラム酒、取った?”と明るく聞いた。

他の生徒もいるので “・・・メープルシロップね、取ったよ、ありがとう、テレサがくれたの?” と聞くと彼女はキョトンとして

“いやだ、先生、あれはラム酒よ。キューバに旅行に行ったからお土産に持ってきたのよ”と言う。

そのやりとりを聞いていた年上の生徒たちは爆笑した。わたしがメープルシロップと取り繕い嘘をつく理由がわかっていたからだろう。
男子の一人が ”先生、そのメープルシロップは美味しいって評判だから、誰にも取られないように隠しておいていた方がいいよ”、と笑った。

焦るわたしを尻目にテレサは “は?ラム酒よ!”と言い捨てて教室をでた。

その後はいつもどおりに補習は進み、誰もシロップについて言及しなかった。

帰りの車に乗り込む時に、フロントグラスに黄色いノートが一枚挟まっていて、大きな文字でこう書いてあった

IT'S RUM, SHIMA!!   RUM FROM CUBA!!

"Oh my god, I know, Theresa, I FREAKING KNOW IT IS RUM!"

ペギーさんもそれがラムだと知っていたのかな。

シマフィー

*補足:アメリカでは未成年の飲酒に厳しく、我が校では飲酒した・(パーティーなどに)お酒を持ってきた生徒はすみやかに退学になります。高1の生徒が未開封とはいえお酒を学校に持ってきたのは大変リスクが高い行動でした。テレサは全く知らないようでしたが。

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