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”英雄の詩”ーそのイチゴは未来の宇宙飛行士が摘む

♪星空に手を伸ばせば カシオペアさえもつかめた 瞳を閉じれば 空だって飛べた 少年達は英雄だった
♪思い通りにならなくても 自分らしくあれ 迷わずに生きるため 
強くあれ、強くなれ、ヒーローになれ

2014年に発売された The ALFEE 64枚目のシングルでウルトラマンの主題歌(歌詞はこちら)。

私はアルフィーに最近出戻ったので、これを聴いたのは去年の夏頃でした。ジョギングを始めた時に元気がでるアルフィー曲のプレイリストを作ろうと色々探していた時です。桜井さんの力強くも澄み切った声につい聞き入ってしまうので走っているとちょっと止まってきちんと聴きたくなるような名曲です。

歌詞を聴いているときに一人の男性を思い出しました。
メキシコからの季節農業労働者の家庭に生まれ、自らも幼い頃から畑で働いていた宇宙飛行士の男性です。
難しい環境の中、不可能とも思える自分の夢にチャレンジし続け、最後には勝ち取ってヒーローになった、ホセ・ヘルナンデスさん。

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ヘルナンデスさんがどのような家庭で育ったか詳しくはわかりませんが、自ら労働移民の出身で、作物の季節ごとに街から街へ移動し、12歳で初めて英語を学んだと公言してらっしゃるので、一般家庭の中級の暮らしをしていたわけではないと想像がつきます。それでも高校、大学、大学院と進まれ、エンジニアとして働いていました。
自身が幼少の頃見たアポロ17号の打ち上げから約30年後、NASAの宇宙飛行士養成プログラムにようやく合格します。11回続けて不合格ののちに掴んだ自分の夢でした。

彼のようなメキシコや南米からの季節労働者の子供達はたとえ自身がアメリカで生まれた米国民だとしても、その特異な環境や周囲の影響から世間一般の“成功”をつかむことは多くないのが実情です。

 メキシコからの季節労働者がアメリカの食卓を作る

アメリカの農家、と聞き思い浮かぶのは膨大な土地に一つの作物を向こうが見えないほど植え、大きな機械や小型飛行機などの力を使って行う、ダイナミックな農業でしょうか。
しかしながら私たちが普段スーパーで買うトマトやイチゴ、レモンもブルーベリーも皆人間の手で収穫されています。
収穫以外にも植え付けや間引きなど広大な土地ながらも人の手が必要なアメリカの農業は、農薬の健康被害、作業中の事故、長時間労働などリスクが高い、一昔前に日本でよく聞いた3K(きつい、汚い、危険)な仕事です。

アメリカにunskilled workers と呼ばれるいわゆる特別な技術がいらない“誰でもできる”(と言われる)仕事を職業とする人は多いです。それでも農業に従事するアメリカ人は多くなく、広大な畑でイチゴやトマトを摘むその多くはメキシコなどから国境を超えやってくる移民達です。彼らは米国内のフルーツ・野菜産業のうち年間280億ドルほどを担っていると言われ、我々の食卓を文字通り作っている人々です。男性が単身で出稼ぎに来ていることもあれば、家族単位で小さな子供も一緒に働きにくる人もいます。多くは英語が喋れず、また仲介役に手数料をピンハネされたり、雇用主に不当に扱われたりしても泣き寝入りするしかないこともあり、都合よく使われては都合よく厄介者扱いされる存在でもあります。

それまで安い労働力として使われていた日本人に代わり20世紀の初頭に多く受け入れられたメキシコ人労働者は現代まで100年以上もアメリカの繁栄の基礎である食を支えてきました。季節労働者としてビザを与えられて短期間滞在する人もいれば、ビザを待っている時間もなく不法に入国し雇われる人もいます。その誰もが、もし自国で安定した職があるならばもちろんアメリカに来ることもなかったであろう貧しい人たちです。そしてその人たちはアメリカの経済を、アメリカ人が好む・好まないに関わらず、支えてきた人たちです。

アメリカでは不況が起きると不法・合法問わず安い賃金で働く移民がスケープゴートとなり“アメリカ人の職を奪う”悪者扱いされてきました。
恐慌時代のメキシコ人やアイルランド人、バブル時代の日本人、開拓時代や現代の中国人移民などです。現代も、特にここ何年かは移民や有色人種を公に卑下したり脅したりするビデオがSNSに溢れ、毎日のようにそんな暴言や差別が“当然の報い”であると信じ“自分は大きな声で侮蔑の言葉を叫んでもいい”と主張する人間の恐ろしい様子を目にします。

そんな人たちが食べる果物や野菜、鶏肉や豚肉を作っているのは安い賃金で働く人々です。スーパーの安売りで1パック100円で売られるブルーベリーをカゴに入れる時にどうしてこんなに安いのかを考えることもしない我々が、直接会って話すこともない、季節労働者の人々です。カフェやバスの中で”お前ら移民は出て行け!”と暴言を吐かれる彼らが、吐く側の食べるケーキの上のイチゴを、サラダのレタスを、ハンバーガーのひき肉を作ってくれる人たちなのです。

困難ばかり:季節労働者の子供達の教育実態

2012年の統計によると推定約300万人の労働者のうち40%は小学校しか終えていません。そして短大・大学・専門学校を終えている人は9%です。それほど彼らにとって学校に通うという当たり前の事が困難な状況だということです。

アメリカの公立学校入学・編入時にパスポートや社会保障番号などの提示は求めず、国籍や滞在許可があるかどうかの質問もしません。
子供達には平等に教育を与え、どんな子供も学ぶ権利があるからです。
英語を話せない子供も多いため生活・学習に必要な英語を教える先生もおり、お金がない子供は給食を無料で食べられるシステムもあります。

それでも季節労働者の家庭では途中で来なくなる子、中退して働く子は依然として多く、特に中学校・高校では夜間の授業を履修してでも卒業してもらおうと必死です。家族も高校や大学に行ったことのない人が多いため、勉強しなくてもいい・大丈夫と考え、専門職に就くための投資として学校に行かせるということもないので貧困のループが続きがちになります。

例えば東海岸のブルーベリー畑で実を摘む仕事をする人々は南から始まり、何週間かごとにブルーベリーの旬を追って北上します。
子供達もその度に違う土地に移るため学校に編入しなかったり、行ってもすぐ移動なので友達もできず何も学習できないままの生活が続きます。賢いから、努力家だから、才能があるから、と言ってそれが開花できる状況になく自らの可能性を知らぬまま大人になる子供は多いのです。

グローバル市場の今日、近所のスーパーでアメリカ産の果物や野菜を手にすることもあるでしょう。持っているパックは学校に行けていない、学校に行かせてあげられない彼らが詰めたものかもしれません。

そんな環境で宇宙飛行士になるという夢を実現させたホセ少年はメキシコ移民の間ではまさに英雄です。彼はカシオペアを掴んで、空を飛んだヒーローです。これから先どんな困難な家庭環境・教育状況にあっても、彼のように夢を見て、叶えられる手段や選択肢を与えられる子供達が増えることを切に祈っています。

高見沢さんはウルトラマンの主題歌用にこの曲を書かれましたが、この曲は夢を想う誰にとっても素晴らしい応援歌です。
年齢も性別も国籍も関係なく、夢を追う人に贈ってあげたい名曲です。

強くなれ!強くあれ!と背中をグッと押してくれる桜井さんの美声を心に、今、行動を起こすと、綺麗なコーラスで坂崎さんも高見沢さんも100%バックアップしてくれるのでとってもお得です。

シマフィー

こちらで是非!


参考文献

“Facts about Farmworkers.” National Center of Farmworkers Health, Aug. 2012, ncfh.org/uploads/3/8/6/8/38685499/fs-facts_about_farmworkers.pdf.

Haspel, Tamar. “Illegal Immigrants Help Fuel U.S. Farms. Does Affordable Produce Depend on Them?” The Washington Post, 17 Mar. 2017, https://www.washingtonpost.com/lifestyle/food/in-an-immigration-crackdown-who-will-pick-our-produce/2017/03/17/cc1c6df4-0a5d-11e7-93dc-00f9bdd74ed1_story.html.

Legrain, Milli. “‘Be Very Careful’: The Dangers for Mexicans Working Legally on US Farms.” The Guardian, 15 Oct. 2020, theguardian.com/us-news/2019/may/16/us-mexico-immigration-seasonal-work-visas-h-2a.

Mitchell, Jennifer. Field Day: Blueberry Harvest School Teaches Migrant Workers’ Kids. 2 Sept. 2016, mainepublic.org/post/field-day-blueberry-harvest-school-teaches-migrant-workers-kids.

“National Aeronautics and Space Administration.” NASA, nasa.gov.

Stoddard, Ed. “Agriculture Dependent on Migrant Workers.” U.S., 23 July 2007, reuters.com/article/us-usa-immigration-farms/agriculture-dependent-on-migrant-workers-idUSN1526113420070723.

The Children in the Fields. 19 June 2020, apmreports.org/episode/2019/08/14/the-children-in-the-fields.

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