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【読書感想文】十角館の殺人/綾辻行人 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

ミステリー好きなら、誰もが読んだことがあると言っても過言ではない作品。
新本格派の幕開けを飾った、歴史的名作です。


十角館がある孤島を訪れた、大学のミステリー研究会メンバー

舞台は十角館が建つ孤島・角島。
この島にはかつて館を建てた天才建築家・中村青司が住んでいたが、火事によって亡くなっており、今は無人島となっている。
そこに訪れたのが、とある大学のミス研のメンバー七名。彼らは有名推理作家のあだ名で呼び合っており、言わば本名が明かされていない。
その時点で、既に怪しい予感が漂いますね。

メンバー達は十角館で過ごすことになるが、そこで殺人事件が発生。
更には嵐により海も荒れており、脱出が不可能な状態に。彼らが(ミステリーを読む上では)大好きな、クローズドサークルが完成します。
メンバーの中に犯人がいる。そんな極限状態が続く中、次々と魔の手が彼らに襲い掛かります。

江南が出会った変わり者・島田潔

視点は変わり、本土にいる元ミス研メンバーの江南(かわみなみ)という男性を中心に話が進みます。彼は既にミス研を辞めているため、イベントには参加していません。
そんな彼の自宅に、とある手紙が届きます。
『千織はお前たちに殺されたのだ』というメッセージと、送り主の名前だけが書かれた不可解なもの。その送り主の名前は、中村青司。
そう、既に死んでいるはずの人物から、手紙が送られてきているのです。
更に手紙にある千織という女性は、サークルの飲み会の後、急性アルコール中毒から誘発された心臓発作で亡くなっている。千織のフルネームは中村千織…ここまでくれば、千織と中村青司の関係がわかりますね。
江南は糸口を探ろうと、中村青司の弟である中村紅次郎の元を訪ねます。
そこで出会ったのが、一風変わった男性・島田潔その人でした。

島田は紅次郎の後輩で、実家が寺の三男坊。
見た目はちょっと陰気そうなのですが、軽妙な語り口と頭の回転の速さに江南も親しみを覚えます。
同じミステリー好きでもある二人は、その手紙の意図と事件の真相を探るべく調査に乗り出します。
途中でミス研メンバーの守須という友人に連絡を取ると、彼にも同じ手紙が届いたことを知らされる。更に調査を進めると、あの時飲み会に参加していたメンバーに洩れなく手紙が届いていた。
やはり千織の件が関係している。でもあれは明らかに不慮の事故だったはず、何故今更になってそんなことを蒸し返してきたのか。
そもそも、中村青司は亡くなっている。一体誰が彼になりすましているのか。
それとも…もしかして、中村青司はまだ生きているのか?

やがて中村青司の火事の真相に辿り着いた時、十角館に火の手が上がり…

『あの一行』がかつてない衝撃をもたらす

この作品で最も有名なのは『あの一行』です。
最初に読んだ時、「……は?」って口に出ましたからね。
頭を殴られたようなって表現がありますが、まさにその言葉がふさわしいほどの衝撃です。絶句する人もいるでしょう。
どういうこと!?って最初から読み直さずにはいられなくなります。

すべては中村千織のために…凄惨な事件の結末は

そこから語り手が変わり、事件の全容が明らかとなります。
どうやって連続殺人を可能にしたのか、どうやって命を奪ったのか。すべてを語り尽くしていきます。
動機はやはり、中村千織の死が関係しています。執念とも言えるその動機、それが犯人を突き動かしました。
警察は調査を打ち切り、事件は一応解決。日常生活が戻ってきました。
けれどそれを壊すように、あの男が口を開いた―――

この作品では、島田は推理らしい推理はしていません。
中村青司の死の真相までは突き止めていますが、十角館の事件に関しては探偵らしいこともしていません。ですが、その軽妙な語り口と尋常ではない推理力の片鱗を見せてくれます。犯人からすれば恐怖でしかない。
この作品を始めとする館シリーズで探偵役を務める彼は、推理をひけらかして犯人をずばり言い当てるようなことはあまりしない人物です。犯人へミスリードを仕掛け、「僕は知っている」とでも言いたげな態度を取るのです。
それでもって読者をもミスリードしてしまうので、こちらも騙されてしまうのが憎いところです。

日本のミステリー史に燦然と輝く不朽の名作

『十角館の殺人』はこの作品以前・以後という区切りを作ってしまったと言われるほど、世間に衝撃を与えています。
これを読んでミステリーに嵌った人も多く、今をときめく作家さんにも多大なる影響を与えている類を見ない作品です。私も元々ミステリーは好きでしたが、その衝撃度を超えるものは未だ現れていません。
この作品が読める時代に生まれてきたことに感謝します。
ではでは、また次の投稿まで。



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