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新規事業を求める企業が、海外進出をあえて選ぶ7つの理由

中小企業白書2016年(中小企業庁)」では、およそ8割の中小企業が海外展開への投資を「重要ではない」「あまり重要ではない」と回答しており、ほとんどの企業にとって海外進出は無縁のものと感じられているようです。多くの方が感じている印象と、相違ないように見えます。

しかし一方で、海外進出を行いたいと考える企業は確実に存在していることもこのレポートは示しています。企業は何に期待して海外進出するのでしょうか?いくつかある新規事業の手段の一つとして、あえて海外展開が選ばれる代表的な理由を紹介します。

1. 日本市場が他国・地域に負けるから

世の多くのメディアでは「日本のGDPが世界から負ける」「日本は衰退している」なんて情報を頻繁に紹介しています。どこかのコンサル会社もセミナーなんかで、頻繁にこの言葉を叫んでいます。海外進出を促す言葉としては、もはやナンバーワン・鉄板といえる伝え方にみえます。

たしかに、日本は2050年には2015年比で人口が2割減少し、労働者人口は3割以上減少すると予想されています。この状況は、年配層のみをターゲットとしないサービスの需要が、減少し続ける状況であることを意味します。次の10年でみても、市場規模の5〜10%減少は免れないでしょう。

また「The Long View How will the global economic order change by 2050? - 2017」では、GDPランキングで日本は2030年にインドに抜かれ3位に落ち、2050年にはインドネシア・ブラジル・メキシコに抜かれて7位にまで下落するといわれています。ネガティブなニュースは止むことがなさそうです。

ただ、筆者はこの伝え方は適切でないと考えています。

そもそも、経済力低下を理由とするなら、日本企業全体として海外進出需要は右肩上がりのはずです。しかし、「2019年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(日本貿易振興機構)」のデータは、海外進出を求める企業の比率は少なくともここ数年〜十年レベルで大きな変化が無いことを示しています。筆者の近辺でも、この事情をきっかけとして海外進出を決断した企業を一度もみたことがありません。

「海外進出」「海外事業」という言葉は、日本と日本以外の地域という見え方で事業を語っています。しかし、実際に国や地域の規模で市場や制約を引き合いに出し論ずると、ポジティブな答えにはなかなか行き着きません。より、企業の事業にフォーカスした範囲から答えを導くことが望まれます。

事業ポートフォリオの感覚をもって投資を決めるのが大前提になるため、あくまで事業が対象とする「市場規模・需要」と「制約への対処コスト」が主語になります。

2. そのまま輸出しても売れるから

経済発展が進むと、貿易が盛んになり、経済水準が高くなり、他国の発展する人々と暮らしが似るようになります。日本には約400万の企業がありますが、うち7万強が海外進出しています。

第48回 海外事業活動基本調査概要(経済産業省)」では、海外進出に投資する企業のモチベーションの第一位として、「現地の製品需要がが旺盛又は今後の需要が見込まれる(68.6%)」が挙げられています。

現地で生産される独特な茶が飲まれている地域も、生活水準が上がればグローバル化が進み、世界的に人気な紅茶やコーヒーが輸入され普及します。スターバックスはコーヒーを世界約200国のうち90カ国に輸出し店舗を展開しています。

一日の収益が2ドルを超え家に電気が通れば、人々はテレビを買いますし、8ドルを超えればコンピューターを買います。マイクロソフトのWindows10はUIを111言語に翻訳し、190カ国とほぼ全ての地域をカバーしています。

「そのままでもすぐに売れる」というのは、海外進出の魅力の高さではトップの理由です。

3. 経済成長ボーナスが受けられるから

日本よりもGDPが高くなると予想される国と地域にサービスを展開すれば、将来より多くの需要に向けてサービスを提供できる可能性があるでしょう。大企業であれば、10年レベルでの投資をこういった国に行なうのは必然といえます。

「第48回 海外事業活動基本調査概要(経済産業省)」では、「進出先近隣三国で製品需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる(25.9%)」を挙げています。

筆者の周りでは、比較的大企業がこれを理由に手を出してる印象です。体力がない中小企業にとっては、これを海外進出の理由に置くには合理性に欠けると感じる傾向にあるようです。

4. 人件費が安いから

ひと昔前、多くの日本企業が工場を中国に移転していました。これは、生産のコストを下げる鉄板の手段でした。両親の仕事の都合で中国に住んだ経験があるという日本人の多くは、工場が多くある深センに由来することが少なくないようです。しかし近年は、人件費の高騰でコストメリットが得られにくなりつつあります。

第48回 海外事業活動基本調査概要(経済産業省)」のデータでは、企業が海外進出するモチベーションとして「良質で安価な労働力が確保できる」という回答が、2008年から2017年の10年の間で30%→16%と半分に変化しており、今後も減少傾向にあること示しています。

生産の拠点に別の国を選ぶ流れも生じています。その際に選択される地域は「セカンドチャイナ」と言われ、最近は特にベトナムを選択する企業が増えています。

ベトナムは中国と韓国に次いで3番目に日本への駐在が多い国であり人材の獲得は比較的容易です。また、海外進出する国としても現在6位がベトナムで、ここ数年は右肩上がりなのですが、市場参入の難易度としては決して低くはありません。

ただ、中国のコストパフォーマンスは未だ決して低くありません。北京は高い教育水準の大学が多く存在するにもかかわらず、新卒の平均給料は未だに5万円程度ということもあり、単純作業ではなく知的労働で高いパフォーマンスを発揮する可能性を秘めています。GoogleなどのIT企業の多くも、北京に拠点を持ちます。

5. 節税できるから

資本力が無い企業であっても、海外進出のメリットは存在します。経済発展中の地域の中には「経済特区」という、税制面の優遇処置が受けられる国があります。こういった地域は、市場規模こそ小さいのですが、水平展開が容易な場合は税制によって日本よりも高い収益が得られる可能性があるでしょう。

また、インターネットで提供されるサービスの多くは、事実上世界のどの国からもアクセスし支払いが行えます。アメリカは法の執行が合理性によって決定されるなどの事情があり、売上高が一定の金額を超えるまでは税を払わないことが一般化しています。そもそも、海外からの売買取引において日本に税金を支払う義務はありません。このため、日本国外からの売買取引の税金は、支払いを行わないで済ませるケースが少なくありません。

大企業であれば、タックスヘイブンと呼ばれる国へ拠点を作り低い税率によって節税するケースもあります。すでに海外からの利用が存在するサービスであれば、今すぐに節税対策が行えるという状況といえます。

節税を行ったところで、海外進出と呼べるかというと微妙にみえます。何かしらの営利活動が欲しいところです。ただ、Googleのような巨大企業から、数人規模の小さな企業至るまで多くが対策しています。

6. 取引先が海外にあるため

ある事業を行なう際に、取引先が日本国外にある場合はそこの拠点を持つことが求められるケースもあります。営利活動、契約や支払手続きを行なう場合、法人が必要となることも少なくありません。

例えば、日本から中国への送金は難しい状況にあります。韓国への支払いはドル建てのほうが安全という見方も強い状況です。アメリカや台湾の一部は訴訟リスクを踏まえビジネス弁護士や訴訟対策の準備が求められます。これらの取引が一定の割合で生じるならば、各国と地域へ拠点をつくることが理想でしょう。

7. 実行可能なパートナーや人材がいるから

海外進出の価値を見出したとしても、それを実行することができる人材やパートナーを獲得するのが難しいという問題があります。

日本は出戻りすることが前提で海外拠点の人事を決定する傾向にありますが、韓国などの他の企業は片道切符で現地にそのまま住み続けることを前提とした人事にする傾向にあります。実際、後者の方が成功率は高いといえます。

それだけでも困難な上に、意思決定の多くを委ねることも求められます。生産拠点を移すならまだしも、市場への参入となると、競合と戦うことが求められるわけです。そこで意思決定できない担当者をリーダーに置くと、スピード感で差がつくのです。

次回は、海外進出する企業が失敗に陥りがちないくつかのケースをお伝えしましょう

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