鹿野真砂美

Masami Shikano/フリーランスライター。『dancyu』など食雑誌のほか、…

鹿野真砂美

Masami Shikano/フリーランスライター。『dancyu』など食雑誌のほか、シェフ、料理研究家のレシピブックの企画、構成など、飲食関係の記事を中心に執筆。ウェブ仕事に馴染めず紙中心。フレンチシェフの夫と東京のコーヒーの町でふたり暮らし。

最近の記事

小さな甘さに救われる

4日前から術前の化学療法が始まった。まずは半年ほどかけて抗がん剤を投与し、がんをできるだけ小さくしてから手術を受ける予定。 自慢にも何にもならないが、我が乳がんは細胞の増殖スピードがとても早いらしい。何をするにもゆったりペースの鈍くさい人間なのに、どうしてこんなにアクティブな極悪細胞を宿してしまったのか。実際、初めてクリニックで検査を受けたときからたった2ヶ月と少しで、しこりの大きさは2倍になっている。 なので、通常は3週間に一度のペースで投与する抗がん剤を、2週間に一度とサ

    • これからの人生が変わった日

      ライターの仕事とは離れ、日常のいろんなことを綴っていこうと始めたこのnoteなのに、結局ほとんど書けていない。やっぱり締切が設定されないと書けない性分なんだろうか。 いま私は、都心の大きな病院内のカフェでこれを書いている。さっき腕に注射を打った。放射性物質を含んだその薬が全身の骨へくまなく行き渡るまでに、約3時間もかかるそうだ。あとで全身の骨骨ロック(昭和!)みたいな画像を撮るのだが、悪い部分にはその物質が集まって見えるのだそう。それを終えたらもう1つ検査が待っていて、そち

      • 今更ながら考えてみた、友だちのこと

        近いうちにごはん食べようね、などと互いに言い合っていても、具体的な連絡を取り合わないまま実現しない、ということはよくある。 あれは結婚して間もない頃のこと。それまで一緒に何度も飲みに行き、旅を共にしてきた友人3人を新居へ招待した。たくさん料理をつくり、たっぷり飲んで、おしゃべりにも花が咲き、あぁ楽しかったねと、みんなが帰り支度を始めたとき。ひとりの友人が放った言葉に、あれ?と違和感を覚えた。 「まだバタバタしているだろうから、落ち着いたら連絡して」 この違和感の元はなんだ

        • ミネストローネを食べながら、考えたこと。

          あまり大きくない我が家の冷蔵庫。ここのところ外食にテイクアウト、取り寄せ品やいただきものの消費を優先していたこともあり、野菜室の中が、使いきれていない野菜でだいぶ窮屈になっていた。そんなときにこしらえるのが、大鍋いっぱいのミネストローネだ。 私がつくるミネストローネはかなり濃度があって、お玉ですくうとサラサラではなく、もったりとした感じ。これは20年近く前に、野菜料理レシピのムック制作で取材をした、とあるイタリア料理店のシェフのレシピがベースになっている。 取材で教わった

        小さな甘さに救われる

          ひさしぶりに見上げた空は

          もっとコンスタントに書いていこうと思っていたのに、だいぶ間があいてしまった。ここ最近、気分が塞いだり考え込むことが多く、気付くと部屋でひとり、ぼーっと宙空をみていたりするので、夫にも「おーい、大丈夫かー?」と目の前で手を振られたりして心配されている。理由は、自分ではよくわかっているのだけど、いろいろと複合的で、こうだから、と簡単に言える感じでもない。ただ、これからの生き方や、仕事との向き合い方について、自分のなかで少しずつ考えに変化が生じ始めていることだけは確かだ。 そんな

          ひさしぶりに見上げた空は

          グラタンの湯気と、冬の終わり。

          おとといの日曜日は、グラタンをこしらえた。 夫とふたりで晩ごはんを食べられるのは日曜日だけだから、月におよそ4回しかないタイミングで、食べたいと思う料理をすべてつくることは、なかなか難しい。ときには外食もするし、思いがけずおいしい戴きものがあったりすると、予定していた献立を先延ばしにすることもある。 なぜか冬場は、寒いうちにあれも食べておかなくちゃ、これをつくらなくちゃ、と思うものが多いような気がする。クリームシチュー、ビーフシチュー、ロールキャベツ、おでん、すき焼き、湯豆

          グラタンの湯気と、冬の終わり。

          ドライカレーの記憶

          子どもの頃、毎週土曜日の晩ごはんはカレーライスと決まっていた。 両親は地元で、居酒屋と小料理屋の中間くらいな雰囲気の、小さな店を経営していたから、平日はほとんどすれ違い。晩ごはんの支度は祖母が担当し、私が手伝いをする。そんな感じの毎日だった。 土曜日のカレーは、ゴールデンカレーの中辛か辛口。2種類のルーを混ぜるとかもせず、豚こま、玉ねぎ、にんじん、じゃがいもが入った、ごくごく普通のものだったが、とにかくカレーが好きな私は、小学校に上がってから高校を出るあたりまで、飽きること

          ドライカレーの記憶

          下町の片隅で、クロタンと叫ぶ。

          乳製品が大好きだ。 チーズ、ヨーグルト、生クリーム、そしてバター。毎日、何かしら口にしている。 特にチーズは、フレッシュなのも、熟成して硬くなったのも、逆にとろとろになって香りがだいぶきつくなったのも、なんでも好き。冷蔵庫には数種類を常備していて、日々の晩酌に楽しんでいる。 しかし、大好きでもなかなか手を出せない(出さない)ものがある。山羊乳を原料にした、シェーブルチーズだ。輸入チーズ全般にそうだけど、日本で買うとべらぼうにお高いんです。 最初の画像は、フランスの中央ロワー

          下町の片隅で、クロタンと叫ぶ。

          ごあいさつがわりに

          急に思い立って、noteのアカウントをつくってしまった。 
さて、どんなことを書いていこうかなぁ。 私はふだん、フードライターとして、食雑誌やレシピブックの仕事をしている。 自分で料理をすることも、お酒を呑むことも大好きだ。夫は銀座でレストランのオーナーシェフをしていて、ありがたいことに家でもおいしい肉を焼いてくれるから、すっかり肥育されて、五十路の現在も、むくむくと成長する一方である。 仕事も生活も、食とは切っても切り離せない。 小さな編集プロダクションで、旅行ガイドの

          ごあいさつがわりに