下町の片隅で、クロタンと叫ぶ。
乳製品が大好きだ。
チーズ、ヨーグルト、生クリーム、そしてバター。毎日、何かしら口にしている。
特にチーズは、フレッシュなのも、熟成して硬くなったのも、逆にとろとろになって香りがだいぶきつくなったのも、なんでも好き。冷蔵庫には数種類を常備していて、日々の晩酌に楽しんでいる。
しかし、大好きでもなかなか手を出せない(出さない)ものがある。山羊乳を原料にした、シェーブルチーズだ。輸入チーズ全般にそうだけど、日本で買うとべらぼうにお高いんです。
最初の画像は、フランスの中央ロワール、上質なワインで名高いサンセール近くのマルシェで撮ったもの。名産のクロタン・ド・シャヴィニョルだ。
このクロタンがそれはもう、夢に見るほど美味なのですよ。つくりたてのフレッシュなものから、熟成を経て表面に青カビのペニシリンがびっしりと付着したものまで、どの段階で食べてもおいしい。そして、泣けるほど安い。丹精込めた農家製のクロタンが、1個1ユーロ台で買えるのだから。
東京のチーズ専門店でも、どこでもあるというわけではないが、クロタンは入手できる。のだけれど、小さいのが1個1000円台。約10倍。泣けるほど高い。
サンセールには友人夫婦が暮らしているので、これまで何度か滞在している。そのたびに友人の家や、親しくしているワイナリー当主のご自宅に泊めてもらうのだが、食後には必ず、こんなふうにクロタンが登場して、好きなだけ食べられるのだ。つまり、延々と呑み続けられる、ということ。
地元のワイナリー見学へ行くと、試飲のお供にバゲットなどではなくクロタンが登場する。サンセールのワイナリーは、あちこち訪問させてもらったのだが、ほぼ100%の確率でクロタンがそこにいる。専用の小さなナイフでトントンとラフに切り分けて、はいどうぞ、って感じ。同じ土地のもの同士、合わないわけがない。
これは仲良しのワイン生産者のお宅へ、アペロにお呼ばれしたときの写真。
ぶどうの収穫間近で慌ただしいときだったにも関わらず、シャルキュトリーや友人がつくってくれたパテでささっとおもてなしをしてくれる。人を呼ぶからといって、へんに構えず、気取りなく迎えてくれるところがいいなぁ、っていつも思う。がんばりすぎちゃって、なかなかこんなふうにできないんだよね。
こうしたアペロの場面にも、クロタンは欠かせない存在。そして、自分の畑から摘んできたソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールをつまみに、そのワインを飲むなんて、もう最高だ。
カフェやレストランへ行くと、こんな感じでクロタンをのせたタルティーヌやサラダなんかも、いろいろとある。クロタンバーガーやクロタンピッツァもあったなぁ。スーパーには、クロタン味のポテチまで売っていた。
ワインバーでも、ワインを頼めば自動的にクロタンが出てきたっけ。いちいちカッティングボードなんか使わないの。店主がクロタンを切るポジションが決まっていて、そこだけカウンターが凹んでた。
なんてことを思い出しながら、お正月明け、おせちにも飽きて、どうしてもシェーブルのサラダが食べたくなり家でつくったもの。デパートとかでも手に入りやすいサントモールで。これもおいしかったけれど、食べながら「サンセール行きたいいぃぃ」って小さく叫んでた。
日本でクロタンを買わないのは、値段のせいだけじゃないんだな。やっぱり、現地で食べるクロタンが圧倒的においしいから。
ほかのチーズを食べても、そこまで味覚に距離を感じることは少ないのだけれど。
ちっちゃいクロタンのなかに、友人たちの顔とか、素晴らしい景色とか、気持ちのよい空気とか、そこへ行かないと感じられないものが、たくさん詰まっているんだろうなぁ。
次に行けるのは、いつになるんだろう。恋しいクロタンとサンセール。
それにしてもこのタイトルのつけ方。我ながら古いね。
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