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グラタンの湯気と、冬の終わり。

おとといの日曜日は、グラタンをこしらえた。
夫とふたりで晩ごはんを食べられるのは日曜日だけだから、月におよそ4回しかないタイミングで、食べたいと思う料理をすべてつくることは、なかなか難しい。ときには外食もするし、思いがけずおいしい戴きものがあったりすると、予定していた献立を先延ばしにすることもある。

なぜか冬場は、寒いうちにあれも食べておかなくちゃ、これをつくらなくちゃ、と思うものが多いような気がする。クリームシチュー、ビーフシチュー、ロールキャベツ、おでん、すき焼き、湯豆腐、豚しゃぶ、チゲ、火鍋、ピエンロー、、、
ん? 後半はぜんぶ鍋ものだ。確かに、土鍋とカセットコンロは、ひっきりなしに出したり仕舞ったりしているかもしれない。

グラタンも、そんな料理のひとつ。別に一年中食べたっていいし、実際つくるのは冬だけじゃあないのだけど、凍える寒さのうちに、はふはふ、あちち!って言いながら、一度は食べておきたいんだよね。年末からずっと、食べたいと思いながらタイミングがなくて、ようやくつくれる日がやってきた。

お昼に夫がオムライスをつくってくれたので、夜がグラタンなら、ちょっと外を歩いてカロリー消費しないとね、と午後から近所をぐるっと散歩した。今年はまだ初詣をしていなかったことも、ずっと気がかりだったのだ。
まずはいつもの出世不動尊へ行き、今年20周年を迎える夫の店の安泰とスタッフの健康を祈願。ここは、前を通るたびに必ず手を合わせているのだが、そういえば自分の健康や仕事についてお願いしたことが、一度もない。身近な人たちが健康で万事順調なら、きっと自分も幸せだよね。
それから、お気に入りの花屋さんに寄り、たまに行く中華料理店でふきのとうの焼売をテイクアウトした。

帰宅してから、グラタンの支度を開始。
この日は、なんとなく鶏肉でも海老でもない気分だったので、カニ缶とほうれん草のグラタンに決定。甘みがのったちぢみほうれん草をバターソテーにして、耐熱皿の底に敷き詰めたら、マカロニをゆでて、玉ねぎのスライスを炒めて、それからベシャメルソースづくり。

焦がさずに、粉気がしっかりと抜けて香りのよい、本気のベシャメルソースは難しい。そして、夫はフレンチのシェフなのだ。洋風の料理をつくって出すときは、料理をするのが好きとはいえ、私もそれなりに緊張する。

以前、夫のレシピブックの製作に関わった際、ベシャメルソースのつくり方を一から撮影したことがあった。小麦粉とバターを、焦がさないようにじっくり、じっくり、こんなに?と思うくらい時間をかけて火入れすると、粉気が切れてサラサラとした感触になってくる。さらに念入りに火入れしていくと、しっかりと焼き込んだクッキーみたいな、甘い香りが立ち上ってきた。見た目はまったく焦げていないのになぁ。すごい。粉を焼き切るって、こういうことなのか。
ここまで火入れしてから、ようやく牛乳を注いでのばしていく。全体がなじんだらこれで終わりかと思いきや、さらにここから、しっかりと混ぜながら炊き、とことん、徹底的に粉気をとばす。果たして、完成したベシャメルソースは、もったりとした重さが微塵もない、キレのある味わいだった。

そんなことを頭の中で反芻しながら、あのとき撮影で使ったのと同じストウブの鍋で無心にベシャメルソースと向き合った。炊き上がったベシャメルにマカロニと玉ねぎ、カニ缶(奮発して高いやつ)を合わせ、ほうれん草の上に詰め込み、チーズをかけてオーブンへ。

焼いている間、蒸籠で温め直したふきのとう焼売をつまみ、クレマン・ド・ブルゴーニュを開けた。ふきのとうの軽い苦味を味わいつつ、もう春だねえ、なんて話しながら。

グラタンはがんばった甲斐があり、とてもおいしい。
「ベシャメル、すごくがんばったんだよ」と言ったら、「そうだね、ずいぶんと長いこと鍋の前に張り付いてたもんね」と返ってきた。リビングのソファでスマホをいじっていたはずなのに、そういうところはチェックしてるんだなぁ。
これだから気が抜けない。

明日は立春。
冬のうちにグラタンを楽しめてよかった。


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