しかのいえ・いのこ/コンパス文藝俱楽部

しかのいえは「暮らし」から「つながり」と「仕事」を作る実験室兼住居。 本の茶屋、コミュ…

しかのいえ・いのこ/コンパス文藝俱楽部

しかのいえは「暮らし」から「つながり」と「仕事」を作る実験室兼住居。 本の茶屋、コミュニティスペース、出版相談、各種イベント、各種教室など。 御書印も受付中。 文藝編集者の大久保雄策氏が代表のコンパス文藝俱楽部の事務局を務める。 HP https://shikanoie.com/

最近の記事

【小説】埋もれていた夢かもしれないもの

「夢なんて、考えられないわ」  彼女は、そうつぶやくと手帳を閉じた。知人がブログである手帳を紹介していて、気になってネット注文した品が届いたのだ。その名も「あなたの夢をかなえます手帳」。自分の夢がかなう、なんだか魅惑なネーミングだ。年に一度、なりたい自分自身を想像し、頭の先から爪の先までをイメージして手帳に書き込む。そこから逆算して月の目標などを設定し、具体的な行動に落とし込むのがこの手帳のねらいだった。  しかし困ったことが起きた。実際に書いてみようと思ったら、いくつかは浮

    • 短編小説【柚子ハイボール】

       ある夏の日の出来事だ。特に変わった事件が起きたわけではないのに、今でも時折思い出す瞬間がある。  彼女はお盆休みのある日、世話になった故人の墓参りに夫とともに自転車で出かけていた。夏の強い日差しで皮膚が熱くなるのを感じながら自転車を降りる。一瞬、足元が揺れるのがわかった。手の甲で汗をぬぐうと、そのまま木製の使い込んだ扉を思いっきり引いた。  「いらっしゃい」  なじみの店のママがいつもの通り、笑顔で出迎えてくれる。 「えっと、ランチとビール。コップは二つね」  途中どこかに

      • 小説日記【今年最大の事件】

        談笑する声をさえぎるように電話が鳴った。ストレッチの個人レッスンが終った直後で生徒さんと 「やはり動くとスッキリしますよね」  などどおしゃべりしている最中だった。家電が鳴ることはめったにないので、私は「長男の学校からの呼び出しか」などど思いながら受話器を耳にあてた。 「○○さんのお宅でしょうか。こちら△△区のシティプロモーション課です」  その呼称に覚えがあったので、この前行ったイベントの助成金の関係かと一瞬考える。 「○○さんが△△ミステリー文学賞に応募されたのはお間違

        • 小説日記【お金のヘルパー2】

          「老支度講座か、4階の大ホールね」  「老支度」の文字が灰色に見えたような気がした。彼女は会場を確認してエレベーターに乗りこんだ。「お金のヘルパー」として年に何度か研修もあり、支援者に必要な制度などについて学ぶのだ。今日は一般の方向けの「今から考える、老い支度」講座シリーズの1コマで「初めてのエンディングノートの書き方」の講義だった。  正直に言うと彼女は「老い支度」とか「終活」という言葉に違和感を覚えていた。「備えあれば憂いなし」とは言うけれど、終わりに向かって準備する、具

        【小説】埋もれていた夢かもしれないもの

          小説日記 【お金のヘルパー】

          【お金のヘルパー】  彼女は、自分名義ではない通帳を慎重にカバンに入れると、足早に銀行に向かった。記入済の払戻し伝票を手にして、受付の番号表を取って待つ。この時間は心臓の鼓動が早くなる。 彼女は自分のことを「お金のヘルパー」と名乗っていた。  「お金のヘルパー」と言っても、彼女がお金をヘルプ、援助するわけではない。ヘルパーと言えば一般的には家事援助や身体介護を行う職種のことだ。彼女がやっているのは、ひとりでは銀行に行けない、例えば独居で歩行が困難であったり、認知機能が低下し

          家人 小説を書き始める

          家人が突然、小説を書き始めました。 「さばえ近松文学賞」に応募するためです。 https://www.city.sabae.fukui.jp/chikamatsu/ 縁あってベテラン文藝編集者・大久保雄策さんと 文藝復興講演会を開催するようになり 何度か、お話を聞いているうちに これは書かざるを得ない!と思ったそうです。 小説を書くって、単にストーリーを考えるだけじゃないんですね。 自分が生み出した主人公の気持ちにどれだけ共感できるか、 そんな能力も必要みたいです。 他者

          「満天のゴール」に魅了される

          藤岡陽子さんの「満天のゴール」を読了。 読みながら、眼に溢れた涙が 机上に落ちることを 止めることが出来なかった。 むしろ感涙し 自分の中に溜まっている澱を 吐き出したい そんなふうにも感じいった。 現代の医療が抱える課題、 自宅での自然死、ヤングケアラー、 など、どれも重いテーマを扱いながらも どこか清らかな心持ちのまま 物語の中に引き込んでいく藤岡さんの手腕が見事。 有難いことに、しかのいえが事務局を務めているコンパス文藝倶楽部に 藤岡さんもご参加下さっている。 倶楽部の

          「満天のゴール」に魅了される

          プロの文藝編集者が小説の魅力、未来を熱く語ります!

          文藝ベテラン編集者・大久保雄策氏が 小説の魅力、未来を熱く語ります! この話を聞いたら、 小説の読み方が変わるかもしれません。 人生という大航海を一緒に進んでくれるコンパスとなるような 小説に出会うかもしれません。 小説を書きたい、作家になりたい、という夢を思い出すかもしれません。 文藝復興講演会は4月9日(日)午後13時~開催! 会場 Vaige Community Space(ヴェージュ・コミュニティ・スペース)  東京都北区王子4丁目22−14  ヴェージュハウス1

          プロの文藝編集者が小説の魅力、未来を熱く語ります!

          大久保雄策 第2回文藝復興講演会開催!

          COMPASS文藝倶楽部 presents ▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰ 人生の大航海に小説(コンパス)を ▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰ ▶第2回 編集者・大久保雄策の文芸復興講演会 ▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰▰ ◆一流のプロが語る「これから読まれる小説」「生き残る小説」とは?◆ お待たせしました!2022年11月に大好評をいただき、再度の開催を熱望されていた講演会をお届けします。 大久保雄策氏は、都内有名出版社に3

          大久保雄策 第2回文藝復興講演会開催!

          第二章 これから読まれる小説はどんな小説か

          「多くの人はね、精神の安定を求めていると思うんです」 大きな眼を右に左に動かしながら、 大久保氏は、語り出した。 精神の安定と小説がどの様な関係にあるのか、 小説はストーリーの展開を楽しむだけではないのか、 と瞬間的に、私にはつながらなかった。 大久保氏曰く 「優れた小説には、主人公達の〇〇を経ての●●が描かれている」 この事を聞いて、私は合点した。 そうか、そういうことだったのか、 私は恥ずかしながら文学部卒であったが、初めて耳にする内容だった。 大久保氏は、その様に

          第二章 これから読まれる小説はどんな小説か

          第三章 優れた小説の文章と新たな呼称

          1ページ目、下手をすると1行目を読んだだけで、読み通せる小説かそうでないか、ほぼわかります。 小説の「良し悪し」のお話ではありません。 ある小説が、「自分に合うか合わないか」についてのお話です。 不思議です。 でもこれは、音楽では決して珍しいことでありません。 大抵は、出だしを聴いただけでOKかNGか決まってしまう。 そういうものではないでしょうか。 * ある人が言いました。 「歌は人に聞かすものである」 この言葉に素直に肯いた上で、もしも古今東西の優れた小説が、「人に聞かせ

          第三章 優れた小説の文章と新たな呼称

          第一章 なぜ小説は読まれなくなったのか

          「文芸復興を本気で願っているんです。 そのためにお力を貸して頂きたいのです」 ベテラン編集者・大久保氏より、このような相談があったのは、 もう半年以上前のことだ。 大手出版社で文芸畑一筋、数多くの作家の、珠玉の作品を世に送り出してきた大久保氏。4年ほど前に定年退職したのち、 小説が読まれなくなっている今こそ、素晴らしい小説を出したい、 残したいというお気持ちが高まり、ならば自分がそういう作品を出そう、と動き始めたとのことだった。 「しかのいえ」を立ち上げたばかりの頃、出版に

          第一章 なぜ小説は読まれなくなったのか

          「人生の大航海に小説(コンパス)を」編集者・大久保雄策の文芸復興講演会

          ◆一流のプロが語る「これから読まれる小説」「生き残る小説」とは? ◆大久保雄策氏は、都内有名出版社に38年勤務し、文芸書一筋で仕事を続けてきたベテラン編集者。 読者の胸を躍らせずにはおかない多くの作品を、これまで世に送り出してきました。 そんな大久保さんに、文芸書売れ行き不振の原因、これからも読者の支持を集め続ける小説の条件、優れた小説の書き方などなど、たっぷりと語っていただきます。 聞き手は、コミュニティスペース「しかのいえ」と、住み開き書店「しかのいえ本の茶屋」を主宰

          「人生の大航海に小説(コンパス)を」編集者・大久保雄策の文芸復興講演会