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小説日記 【お金のヘルパー】

【お金のヘルパー】
 彼女は、自分名義ではない通帳を慎重にカバンに入れると、足早に銀行に向かった。記入済の払戻し伝票を手にして、受付の番号表を取って待つ。この時間は心臓の鼓動が早くなる。
彼女は自分のことを「お金のヘルパー」と名乗っていた。

 「お金のヘルパー」と言っても、彼女がお金をヘルプ、援助するわけではない。ヘルパーと言えば一般的には家事援助や身体介護を行う職種のことだ。彼女がやっているのは、ひとりでは銀行に行けない、例えば独居で歩行が困難であったり、認知機能が低下して様々な手続きが難しい高齢者の方々に代わって銀行に出向いて生活費の払戻しを行うのが任務であった。他にも郵便物の確認などの業務はあるのだが、支援している方々に分かりやすく仕事の内容を伝えるために「お金のヘルパー」と名乗ることが多かった。認知機能が低下すると「もの取られ妄想」が起こるケースもあり、自分の立場をはっきりさせておくことが必要だったのだ。今でも人様の通帳を手に取る瞬間、緊張が走る。
 「お金のヘルパー」と自分で言いながら「もう少し品のある名乗り方はないものか」とも思っていた。金銭に関わるだけに、支援する方の生活の一端を垣間見ることになり、自らの品格が問われるとも感じていた。仕事の困難さを感じることもしばしばだったのだ。(続く)
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